ご存知の方もいると思うが、
私はかつて日本のヒップホップや
クラブミュージックの黎明期に、
裏方として活動していた。

 
レコードからCDへと
音楽業界が大きく切り替わっていった1989年、
当初12インチレコード

専門レーベルとして始まった
メジャー・フォースで
私はA&Rをしていた。

 
その後、日本で初めてメジャーから
日本語ラップのフルアルバムを出した
スチャダラパーの事務所の社長となった。

 
つまり、日本でヒップホップという音楽が
まだ今のように一般的ではなかった頃、
その音楽を世に出す側にいたということだ。

 
ヒップホップという

音楽を知っている人ならわかると思うけれど、
その創作の根っこには
「サンプリング」というものがある。

 
すでに存在する

誰かのレコードの音源から

一部を抜き出し、
切り刻んだり、
ループさせたり、
別の音と組み合わせたりして曲を作る。

 
乱暴に言ってしまえば、
この音楽はいろんなところから

パクりまくってできている、
とも言える。

 
例えば、ある曲のドラムや
ベースの部分をループさせたり、
声やフレーズの一部を切り取ったりと
複数の音源から取った音を組み合わせる。

 
それを繰り返したり、
ピッチを変えたり、
重ねたりして、
そこにオリジナルのラップを乗せていく。

 
すると元の曲の味わいを残しながらも、
新しい曲が生まれる。

 
そもそもヒップホップは、
DJが曲のドラムやベースなどの
リズム部分=ブレイクを
2枚のレコードを使って繰り返し、


その上にMCが
言葉を乗せていくところから始まった。

 
そして、
それをレコードという

録音作品にしていく過程で、
既存の音源そのものを取り込んで

新しい曲を作る「サンプリング」
という手法が発達していった。

 
「人のものを使っている」


という一点だけを見れば、
確かにパクリとも言える。

 
でも、そこには

「何を使ったか」だけではなく、


「それをどう使ったのか」
という創造がある。

 
だからといって、
勝手に人の音源を使っていい

という話ではない。

 
その初期には
サンプリングし放題、
つまり他人の作品から
抜き取り放題みたいな録音が

たくさんリリースされていた。

 
やりたい放題ですごく自由だったし、
面白かった。

 
日本でもそれが生まれて

広がっていく様子を見られたことは、
私の人生の大きな宝の一つだと思っている。

 
1990年、
メジャーフォースという
インディーズレーベルからリリースされた
スチャダラパーのファーストアルバム
「スチャダラ大作戦」には、
クレイジーキャッツからザ・ポリスまで、
恐ろしく有名な曲がサンプリングされていた。

 
そして少なくとも
私がいた現場では、
サンプリングする側にも、
元の音楽に対する多大な愛好や
リスペクトがあった。

 
だからこそ使いたかった、
ということでもあったと思う。

 
しかし、ヒップホップが
商業的に大きな成功を収めるようになると、
当然、著作権をめぐって
問題や訴訟が起きるようになる。

 
そりゃそうだ。

 
「俺のものを使ったんだろ?」

 
「同情するなら金をくれ!」ならぬ、

 

「リスペクトあるなら金分けろ!」

 

は当然のことだろう。

 
今では商業的にリリースする場合、
使用する音源について許諾を取り、


原則として権利処理=
いわゆるサンプル・クリアランスを
することが必要になっている。

 
そりゃそうだよね。
当たり前。

 
でも創っていた側の私としては、
ややこしくて面倒臭い。笑

 
だって、どれだけその音が
作品として必要でも、
権利が取れるかどうかで
使えるかどうかが
決まってしまうわけだから。

 
ちなみに、私がいた頃から
権利関係が特に厳しいと言われていた代表格が、

ディズニーやビートルズだった。

 
そう簡単には使えない、
という話をよく聞いたものだ。

 

これはこれで調べてみると
面白い話が出てくるよ。

 
話を戻すと、

 

「オリジナルの音楽、
アートとして成立するか」

 

という問題と、

 

「法律的に許されるか」

 

という問題は、
必ずしも同じではない。

 
人の作品をそのまんま「パクる」こと
(=盗用)と、

 

影響を受けて新しいものを創ること
(=創造)。

 
どこまでがOKで、
どこからが倫理的にNGで、
どこからが法的にアウトなのか。

 

その境界線って、
どこにあるんだろう?

 
先日、そんなことを
考えてみようという投稿をした。

 

それからコメント欄を読みながら、
私が昔関わっていたヒップホップ、
ラップミュージックのことを

思い出していたのだ。

 
そしてこれは、
ヒップホップに限った話でもない。

 

例えば日本のポップや
ロックミュージックにも、
海外のヒット曲や
マイナー曲と
コード進行や構成が
ほぼほぼ同じだったり、


特定の曲やそのアレンジメントと
かなり似ていたりする曲を、
私は長年にわたって
何度も見かけてきた。

 
美術の世界だってそうだ。

 
例えば
アンディ・ウォーホル。

 
キャンベル・スープの缶や
コカ・コーラのボトル、
マリリン・モンローの
写真など、


すでに世の中に存在していたイメージを
作品の中に取り込み、
まったく別の文脈に置いた。

 
しかし、そんなウォーホル自身も、
写真の利用をめぐって
著作権訴訟の当事者になっている。

 
つまり、アートとして
歴史的評価を受けるほど
新しいものを生み出していても、
だから著作権的にも自由とは限らない、

ということだ。

 
それでも

ウォーホルの作品を見ていると、
誰かに著作権のあるものを
安易に模倣し、
自分が名声を得たり、
お金を儲けたりするためだけに使っていた、
とは私には思えない。

 
少なくとも彼のあり方や
作品から見える
彼のモチベーションは

「創造」であり、
それまでとは違う
新しい価値の提案だったように私は感じる。

 
さて、美術の世界には
「アプロプリエーション」
という言葉もある。

 
すでに存在する
イメージや作品を
引用、流用、再配置することで、
そこに新しい意味を与え、
別の作品として成立させるという考え方だ。

 
音楽ならサンプリング。

 

美術なら引用や
アプロプリエーション。

 

映画や写真、ファッションにも
オマージュやパロディがある。

 
前回の投稿でも書いたように、
私たちは何かを創る時、
完全な「無」から
何かを生み出しているわけではない。

 
それまで見てきたもの、
聞いてきたもの、
読んできたもの。

 

誰かに教わったこと。

誰かから影響を受けたこと。

 
そういう膨大なものが
自分の中に入っていて、
それを自分という人間を
通して組み替えたり、
統合したり、
消化したり、
別の意味を与えたりして
外に出している。

 
だったら、

単なる盗用と創造を分けるものって、
一体何なんだろう?

 
もちろん法律の世界では、
著作権などについて
一定の基準がある。

 
でも私がここで考えたいのは、
法律だけの話ではない。

 
参考にする。

真似をする。

引用する。

オマージュする。

サンプリングする。

 
そして、
ほぼそのまま持ってきて、
自分のものとして出す。

 
「ほぼそのまま持ってきて、
自分のものとして出す」

 

これは明らかに盗用、
倫理的にもアウトだとしても、

参考と丸パクリの間。

 

オマージュやサンプリングと
盗用の間。

 
その境界線は、
どこかに一本綺麗に引けるものではなく、
グラデーションであろう。

 
そして、

そのグラデーションのどこに

自分が立っているのかを
意識する人もいれば、
そもそも考えない人もいる。

 
ウォーホルほどの人物でさえ、
その境界線の上で争われた。

 
だとしたら、私がその線を
簡単に引こうとは思わない。

 
どこまでが引用で、
どこからが盗用なのか。

 

どこまでが模倣で、
どこからが創造なのか。

 
そして、人のものを使いながら、
それを「自分の表現」にするとは、
一体どういうことなのか?

 
その人のモノづくりの
意図はなんなのか?

 

または、本人も気づいていない
隠された無自覚な意図はなんなのか?

 
そんなことも考えている。

 
私自身は、安易なパクリや模倣は、
自分自身の創造性への冒涜だと思っている。

 
なぜなら、
それを安易にするということは、

 

「自分にはこれ以上のものは創れない」

 

「自分の中には、
独自のものを生み出す力なんてない」

 

と、自分自身に

言い聞かせているようなものだと思うからだ。

 
自分らしい何かを創造しようとすることは、
時に苦しみを伴う。

 
それは決して必須ではないが、
しばしばある、

というのは
あなたも経験したことが
あるのではないだろうか?

 

または、生み出すことができない
停滞に鬱々とする、とか。

 
もしかしたら人は、
そのプロセスや成果を
自分に与える価値がないと
密かに感じているがゆえに、
安易なパクリに走るのか?

 
次回は

なぜ「停滞や生みの苦しみ」が起きるのか、
について語っていきたい。

 

 
写真は2024年8月に
武道館で行われた小沢健二くんの
名アルバム「LIFE」30周年
記念ライブの楽屋にて。

 
小沢くん、
ゲスト出演したスチャダラパー、
ヘアメイクの中野明海さんらと。

 
それにしても
「LIFE」名作すぎる。

 
わかるよ〜って人はコメントね。

 
そして、そこにも、
知る人ぞ知るオマージュがたくさん。

 
スチャダラも
スカパラも出たライブ
最高に楽しかったで!

 

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