通り抜けて目指していた地点は、ウィットビーという海岸沿いの
街であった。ここは、『ドラキュラ』の物語が生まれた教会や、
トーマス・クックの生誕地で有名な場所である。

教会横に並ぶ墓石は、私よりずっと背の高いものもあり、
一つ一つの墓が巨大で、ドラキュラがここから生み出された
というのも頷ける。
だが、何よりもこの街を有名にしているのが、ウィットビー
修道院跡である。ヘンリー8世により打ち壊しに遭うまでは
かなり大きな影響力を持っていた修道院で、今は破壊された形の
まま保存に力が尽くされている。

修道院の向こう側が北海

ピンクの点が私だが、修道院跡を囲むグリーンに
吸い込まれるような不思議な感覚を覚えた

自然による風化によって朽ちていく建造物があるのは仕方の
ないことだが、故意の意思によってこうして無残な姿へと
変貌させられた建物を目にすると、何とも言えない気分になった。
このウィットビー修道院跡の他に、リヴォー修道院跡も見学に
行ったが、こちらは観光客が少ないこともあり、ウィットビー
以上に寂寥感が漂っていた。


もちろん、残された遺跡自体は非常に美しいのである。特に、
周囲の自然に解け合った、尚且つ、歴史の味のする空間は
何とも言えず静謐に満ち満ちた場所なのである。
ただ、「万が一、歴史の流れが異なっていて、この修道院が
今も利用されている建物だったなら・・・」と考えると複雑な
気持ちに駆られてしまうのである。全く違うコンテクストでは
あるが、この「跡」たちを訪問しながらタリバンがバーミヤンの
仏像を破壊する瞬間をテレビで目にした時のことを、ふと
思い出した私である。
歴史が古ければ古いほど、傷痕はあちこちに残るものであるし、
それは日本も同じなのだろうが、自国ではそれ程意識して
周囲を見つめていないこともあり、また、日本史が苦手なことも
あり、歴史の残した「跡」を見つめ直す機会が少ないため、
今回はイギリスで色々と新鮮な視点で人類の過去を振り返る
ことができたように思う。