こないだの週末、ツレちゃんと、お気に入りの和食屋さんで晩ご飯を食べた。
敷居がそこまで高くない割烹料理店やねんけど、出てくる料理は、どれもちゃんと美味しい。
ヒラメのお造りをつつきながら、
「あー、ここ、やっぱり美味しいなぁ」
なんて思ってた頃。
隣のテーブルに、カップルが案内されてきた。
二人とも、トレーナーにジャージ姿。
いや、別に、ドレスコードがある店ちゃう。
せやけど、“TPO”ってあるやん?と、心の中で小さくつぶやきながら、ヒラメを口に運んだ。
二人の会話から察するに、
男性の方が、
「ちょっと話を聞いて欲しい」と女性に持ちかけ、
女性が、
「こないだ行った店、良かったよ。そこ行こか」
となって、この店に来たっぽい。
年齢は、男性が48〜52歳くらい。
フェイスラインの崩れ方と、お腹の出具合が、なんともリアル。
―――トレーナーの毛玉、ちょっとは取れよ。
と、心の中で思った。
女性は、52〜55歳くらい。
髪のパサつきと、首のシワ、手の甲の乾燥具合に、妙な生活感が出ていた。
で。
女性が、「で、話って何?」と切り出した。
すると男性が、
「60よ、60」と言う。
―――え、還暦の話?
と思ったら違った。
お金の話らしい。
「結局、60万よ」
「最初の20がさ」
「あの時、やっぱ50かー」
さっきから、そればっかり。
しかも、声がデカい。
投資の話なんかな?とも思ったけど、
「損切り」とか、
「ポートフォリオ」とか、
そういう単語は一切出てこない。
ただ、
“60万”
“50万”
“20万”
だけが、延々と店内に響いている。
料理が運ばれてきて、女性が、
「な、美味しいやろ?」
と言っても、
男性は、
「ふーん」
「へぇ」
だけ。
そして、また、
「60万かぁ……」
に戻る。
ずーーーっと、同じ話。
何の進展も、結論もない。
もちろん、その場では、ツレちゃんと目配せひとつしてない。
LINEで、
「うるさない?」
みたいな無言のやり取りも、一切なし。
普通に、
「これ美味しいな」
「次、何頼む?」
なんて言いながら、何食わぬ顔で食事をしていた。
でも、多分、お互い、同じことを思っていた。
―――こいつ、本物のアホちゃう?
と。
食事を終え、店を出た。
20メートルほど歩いたところで、
普段、人の悪口なんか、ほとんど言わないツレちゃんが、突然、
「ぜーーーーったい、あの男、アホや」
と言った。
そして、
「絶対アホ。アホや、アホ!
アホ以外の何者でもない」
と、堰を切ったように続けた。
―――うん。
あたしも、そう思とった。
付き合って、もうすぐ丸8年。
こんなツレちゃん、初めて見た。
いつもなら、
あたしが、
「ちょっと頭弱いと思わへん?」
と言っても、
「まぁ、色んな人おるしな」
「人それぞれや」
「ちょっとアホかもとは思うけど」
くらいで終わる人やのに。
せやし、あの男性、ホンマにアホなんやろな。
たぶん。
By 水野美加
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