先日、車を運転していた夫(英国人)が
右手をハンドルに置き前方を見詰めたまま
突然左手の小指を耳に入れ、
くりくりくりっと耳の穴を掻きました。

そしてその手を耳から出して
ズボンの腿の辺りで拭こうとし
・・・私としては当然ここで
咎めだての一つも
口にしたいところだったのですが
問題は夫がこの一連の行動を
ほとんど無意識に
実行していた点にありました。

反射作用に近い、というのでしょうか、
目の前に虫が飛んで来たから
あれこれ考える前にまず頭を振って
虫を避けようとしたように、
耳が痒かったからとりあえず
指を突っ込んで掻いてみた、みたいな。

たぶん本人はそんなことを
自分がしている意識さえない。

しかしここで私が夫のこの所業を
見なかったフリで許してしまったら
もしかして夫はこれが癖になり
将来大事な仕事の席で重要な取引相手と
商談成立の握手をする寸前
自覚なしに耳に指を突っ込み
くりくり中を掘り返し、そして平然と
その手を相手に差し出してしまう、
そんなことが起きてしまうかもしれない。

そう、妻としてここは心を鬼にして
夫にそうした行為を
止めるよう告げねばならない。

ではどう声をかけるか。

「ヘイ(Hey)」は音が鋭すぎるし
「オイ(oi、『こら』みたいな意味)」は
ちょっと乱暴にも聞こえるし
「エクスキューズミー(excuse me)」だと
話が真面目になりすぎちゃいそうだし、と
瞬間的に悩んだ私が繰り出した言葉は
何故かまさかの日本語で
「夫ちゃん、あのねえー(自覚なしに
『悪さ』をしている子供に道理を説くときに
大人が使う声音をご想像ください)
(語尾は下がるのではなく上がる)」

後で夫が述べたところによりますと
これまで私が夫に対し
「あのね」という日本語を使ったことは
それまで1度もなかったそうで、
しかしここが言葉の力の不思議なところ、
夫はこのたったの3音で
『何か自分が悪いことをした』と
気が付いたそうでございます。

「えっ、妻ちゃん、何?」
英語で問い返す夫に私はそのまま日本語で、
それも6歳くらいの子供を
相手にするときのような優しく、
かつ威厳と確信に満ちた声で
「あのね、お耳が痒い時には
お耳をほじりたくなるよね、でもね、
大人の男の人はそういうことを
他の人の前でやってはいけないんですよ。
夫ちゃんだってお友達がいきなり目の前で
耳の穴に指を突っ込んでくりくり掻いて、
で、その指についた汚れを服で拭いたり
周囲に飛ばしたりしたら嫌でしょう、ね?」

夫はしばらく考え込んだ後
「今のを英訳してもらえますか?」

お望みどおりにわが和文英訳能力を
夫に披露して差し上げたところ
夫は声を立てて笑いだし
「・・・ごめんなさい、僕が悪かったです!
いや、でも、今の君のその戦略は見事でした!
そんなこと僕もいきなり英語で言われたら
自分が悪いのについ恥ずかしさから
反発してしまっていたかもしれないです。
そこを見越しての日本語での語りかけ、
しかも最初の、なんでしたっけ、あの
『あ、の、ねえー』というアレ、
あれは素晴らしいですね、響きが可愛く
柔らかく、しかし明らかにこっちが何か
悪いこと、間違ったことをしたって
瞬時に理解できる迫力が底にある!」

「そ、そうか」

「君の妹さんもよく子供に使っていましたよね、
『謙信君、あのねえー?』みたいに、
いや、魔法の言葉ですね、これは!
言われたらつい相手の言葉を
真面目に聞こうって気持ちになります!
で、この『あのねえー?』は
日本語としてはどういう意味なんでしょうか」

「う、うーん、そうだな、呼びかけの言葉で
『今から私の言うことを聞きなさい』みたいな
意味を含んでいる感じかな」

「大人が子供に使うんですか?」

「大人が子供にも使うし、
子供が大人に対しても使う。
大人同士でも使う時はある」

「『あのね』、うん、これは有益な言葉です。
僕はこれ、覚えておこうと思います」

・・・何よりです。

うちの猫はハンサムだよなあ


なお、夫は今回のこの間投詞
『あのね』は非常に気に入った様子ですが
同じ間投詞の『ねえねえ』は
「ああ、それは響きが本当に嫌です。
僕に対しては使わないでください」

夫にとって『ねえねえ』は音として
ものすごく否定的な印象を持つそうで
「ねえねえ、夫」と呼びかけられるよりは
「なあなあ、夫」のほうが嬉しいそうです。

「『ねえ』も悪くない言葉だぞ、
『なあ』よりも上品だし、優しい感じだし、
女性的であるとさえ言える」

「僕は自分の妻に女性らしさを
強要したがるような男ではありません」

♪ねえ、夫、こっち向いて♪
とか私も時には言いたいわけですが
そこはこちらが譲歩して今後は
♪なあ、夫♪に改めていこうかと。

しかしそれだと次に続く言葉は
「こっち向いて」ではなく
「こっちを向け」になってしまいそうな気が・・・

「こっちを向かんか」とか・・・

とりあえず我が家は
『ねえ』は使用禁止言葉です。


しかし私は日本にいた頃に
「あのね」という言葉を
それほど使わなかった気もします

夫曰く、わが母(イメージ武将:豊臣秀吉)は
よくこの「あのね」を使っているそうです

・・・そうだな、うちの母は
若い頃の加藤茶風に
「あのにいー」とよく言っているな

私は「あのにい」は使わんな、
自信を持って断言させていただきたい

「あのね」をよく使う貴方も
使わないねえ、という貴方も
お帰りの前に1クリックを

人気ブログランキングへ


あのね 子どものつぶやき (朝日文庫)/朝日新聞出版
¥497
Amazon.co.jp


ののじ爽快ソフト耳かきレギュラー / EW-03 ののじ耳かき 3連ループワイヤー耳かき 送料...
¥1,480
楽天