10年前の熊本地震から、竜之介は災害時のペット同伴避難所を7回開設してきました。その経験の中で、獣医師として気づいたことがある。地震後に動物病院へやってくる患者には、ある程度の「時間的なパターン」がある。もちろん、すべての災害、すべての動物がこの通りじゃないけどね。しかし実際の診療現場に立っていると、地震直後の「ケガ」から始まり、数日かけて「体調不良」へ、そして最後は「ストレスや持病の悪化」へと、主訴が変化していくのを感じます。

竜之介動物病院が経験してきた、おおよその流れです。

地震発生~1日目
ガラス片などによる肉球(パッド)の裂傷、出血。揺れや大きな音によるパニック、興奮。

2日目
家具などの下敷きや落下物による外傷。爪が剥がれ出血、脱臼、骨折などが目立。

3日目
パニックや過呼吸、暑い車内や避難環境などが重なった熱中症。そして食欲不振。

4日目
「食べない」「元気がない」。外傷はなくても、不安や環境変化による体調不良なってくる。

5日目
嘔吐、下痢などの消化器症状。

6日目
血便、血尿、吐血など、飼主が見ても明らかな異常が現れるケース。

7日目ごろ
心臓病、てんかん、腎不全など、もともと持っていた病気の悪化。薬が飲めなかった。いつもの食事が手に入らなかった。十分な睡眠が取れなかった。避難生活が負担になった。さまざまな要因が重なります。

8日目以降
ここから増えてくるのが、長引くストレスに関連した症状です。飼主から離れられない。留守番ができなくなる。鳴き続ける。震えたり、物音に過敏になったりする。いわゆる分離不安を含め、地震そのものよりも**「地震後の生活」が動物を苦しめ始めます。**

つまり、災害動物医療は地震が終わったら終わりではありません。最初の数日は「外傷を診る」。その次は「体調を診る」。そして、その先は「心と持病を診る」。必要とされる医療が、時間とともに変わっていくのです。

これは、災害支援に入る獣医師や愛玩動物看護師、動物救護ボランティアには、ぜひ知っておいてほしい。たとえば地震から一週間後に現地へ入る災害派遣チーム「VMAT」が、外傷処置の準備だけをしていても十分じゃない。慢性疾患の薬、輸液、消化器症状への対応、普段の食事、そしてストレスへのケア。「発災から何日目なのか」で、準備すべきものも変わる。

これが、何度も災害動物医療に携わってきた竜之介の実感です。そして動物は、地震だけを怖がっているわけではありません。避難生活で変わってしまった環境、聞き慣れない音、飼主の不安、生活リズムの変化――そのすべてを感じながら暮らしています。だから災害動物医療は、傷を治すだけでは足りない。地震直後は、傷を診る。数日後は、身体を診る。その先は、心まで診るのです。災害動物医療は、時間との戦いではなく、時間の変化を読む医療なのです。