アシンメトリー 飛鳥井千砂 | [ridiaの書評]こんな本を読んだ。[読書感想文]

[ridiaの書評]こんな本を読んだ。[読書感想文]

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ありがちな話かと思いきや、斬新な切り口の小説だった。

朋美のパートでは普通の上手な小説だと思っていた。
それが読んでいくうちにザワザワと胸騒ぎがして、読み終わる頃には天を仰ぎたくなっていた。

解説に、この作者は化ける、とあったけれど、確かに。

こんなに普通そうな普通でない物語を紡げるのは、ただごとではない。

思い知らされる。
小説とは視点。著者がなにをどう見つめているのか。それをどのように描くのか。

文字をつなぎ単語を並べ、文章を書くのは誰でもできる。
物語の雛形には限りがあり、何百何千と読んでいけば、パターンもオチも見えてくる。

しかし、そこに留まらない物語があり、作者がいる。

あらすじだけ見てもわからない。
最後まで読まなければ、わからない。

これはただの恋愛小説ではないし、よくある同性愛ものセクシャルマイノリティーものでもない。
もう一歩踏み込んでいる。
これは新しい領域だ。




アシンメトリー (角川文庫)
飛鳥井 千砂
角川書店(角川グループパブリッシング)
2011-10-25



結婚に強い憧れを抱く女、朋美。結婚に理想を追求する男、貴人。結婚に縛られたくない女、紗雪。結婚という形を選んだ男、治樹。朋美は、親友の紗雪が幼なじみの治樹と突然結婚を決めたことにショックを受ける。心から祝えない朋美だったが、ふたりの結婚パーティーで出会った貴人に次第に魅かれていく。しかし、紗雪と治樹の結婚には隠された秘密があった…。アシンメトリー(非対称)なアラサー男女4人を巡る、切ない偏愛ラプソディ。

ネタバレ感想の追記
朋美は典型的な婚期を逃して焦っている婚活女として描写されている。
計算高くて卑屈。わたしなんて…と卑下しつつ、そんなことないよ、を待つ女。
逆に紗雪は天衣無縫で向上心のある爽やかないい女のように描かれる。

だから紗雪に嫉妬したり悪感情を持つ朋美が、魅力的な女友達に嫉妬する凡庸な女に見えて、読者は嫌悪感をもつ。わざとそのように描いている。

だから、ああ、これはよくある女同士のドロドロ友情話がメインの恋愛小説、結婚小説ね、と思った。

こういう書き出しの小説で最初に落とされて描かれる朋美が最後までつまらない女ってことはないし、いい女っぽい紗雪に裏がないわけがない。
擦れた小説読みのわたしは邪推した。

きっと紗雪は嫌な奴。
親切面して柿色が似合うって言ったけど、本当は似合わない色を勧めたんだろう。ガーデンパーティで孤立するように仕向けたんだろう。
治樹だって朋美の仄かな恋心を利用してカフェの売り上げに貢献させたんだろう。微妙な色恋営業ってやつ。

なんてことを考えた。

センスもないし田舎もんだけど、保守的で計算高いけど、わたしは最初から朋美が嫌いになれなかったから。

アラサーで結婚に焦る気持ちがわかるし、おしゃれな人種に憧れつつも気後れしちゃったり、素敵な店員さんに憧れるのもよくわかる。
謙遜して褒めてもらおうとするのはあざとい作戦ではあるけど、それだけ自分に自信がないってこと。それでもそんな自分を認めて欲しいということ。

朋美はイケてる女じゃない。
自他共に認めてる。
特別ではないと。
ただの、普通の女だと。

この物語のキーワード、普通ということ。

普通ってなんなのか。
普通が偉いのか?つまんないのか?

朋美以外の登場人物ははっきりと普通ではない人たちだ。

おしゃれで独特の感性をもつ紗雪。
ゲイの治樹。
足が速くて大企業につとめる爽やかなイケメンの貴人。

彼らはその特別さをよくわかっている。朋美が特別じゃないのもよくわかっている。

自分は普通じゃない。
朋美は普通。

この普通、という意識。

差別意識にも選民意識にもつながる。表裏一体の意識。
違う、というだけなのに。そこに上下はないのに。

見上げながら見下げ、憧れながら馬鹿にする。

それは朋美だけの罪ではない。

普通であることに。
特別であることに。

違うだけ。違っているだけ。
胸の中で唱えた朋美は誠実で、やはり嫌いにはなれない。