「この前は大丈夫だったよね」
化学物質過敏症の人にとって、
この言葉は、ときにとてもつらく響きます。
確かに、この前は大丈夫だった。
同じ場所にいられた。
同じものを使えた。
同じ香りがしていても、
それほどつらくならなかった。
でも
「前回大丈夫だった」という事実は、
「今日も大丈夫」を
保証してくれるものではありません。
過敏症の反応は、いつも同じではない
化学物質過敏症の人の体調には
波があります。
あ、いや、過敏症の人に限らず
すべての人にあると思いますけどね。
今日は少し楽。
昨日より外に出やすい。
いつも気になるものが、
今日はそれほど気にならない。
反対に
昨日までは平気だったものが、
今日は急につらく感じることもあります。
こういうことが続くと
本人でさえ、
「昨日は大丈夫だったのに、なんで?」
と戸惑います。
でも、
症状が一定ではないこと自体は
化学物質過敏症について報告されてきた
特徴の一つです。
化学物質過敏症についてのレビューでは、
症状は環境中の化学物質への曝露に応じて
強くなったり弱くなったりする
「wax and wane(増減する)」ものとして
記載されています。
また、慢性的または繰り返し現れる状態として
報告されています。
実際、日本で行われた研究では、
化学物質過敏症の人たちの日常生活を
1週間にわたって追跡し、
そのときの症状と環境中の化学物質への曝露を
調べています。
その結果、
症状が出たタイミングでは
身体症状の多くが強くなっていましたが、
ランダムな時間に調べたときには、
対照群との間に同じような差はみられませんでした。
つまり
一日中ずっと同じ強さで
具合が悪いのではなく
日常生活の中でも症状が現れる時間と
比較的落ち着いている時間がある
ということです。
「同じもの」でも、本当に同じとは限らない
もう一つ
とても大事なことがあります。
私たちはつい
「昨日と同じ部屋」
「昨日と同じ家具」
「昨日と同じ洗剤」
だから
曝露するものも同じだ
と思ってしまいます。
でも、実際にはそうとも限りません。
たとえば建材などから放出されるVOCは
温度や湿度、換気などの条件によって
放散量や室内の濃度が変化することが
研究で確認されています。
2025年に報告された研究でも
温度や湿度が高くなると
調べた建材からのVOCの放散量や濃度が増え
空気交換量が多い場合には
室内濃度が低くなることが示されています。
別の研究でも
温度と相対湿度の組み合わせが
建材からのホルムアルデヒドやVOCの放散速度に
影響することが確認されています。
つまり
「同じものに触れている=毎回まったく同じ条件」
ではないのです。
昨日と同じ部屋でも
気温が違う。
湿度が違う。
換気の状態が違う。
見た目には何も変わっていなくても
空気の中まで昨日とまったく同じ
とは限りません。
身体のコンディションも、毎日まったく同じではない
もちろん
変わるのは環境だけではありません。
よく眠れた日もあれば、
眠れなかった日もある。
疲れが残っている日もある。
気持ちに余裕のある日もあれば、
いくつものことが重なって
ストレス過多の日もあります。
前日に強い曝露を受け
その影響がまだ残っていることもあります。
化学物質過敏症についての研究では
曝露後の症状がすぐに消えるとは限らず
一定時間続くケースがあることも
報告されています。
ただし
ここは少し慎重に考えたいのですが・・・。
睡眠不足なら必ず反応が強くなる。
ストレスがあれば必ず悪化する。
湿度が高ければすべての人がつらくなる。
そんな単純な公式が
確認されているわけではありません。
化学物質過敏症の仕組みそのものについても
現在なお研究が続いており
一つの仕組みですべてを説明できるところまでは
分かっていません。
だからこそ
「昨日はできた」という一つの出来事だけで
今日の身体を判断することはできないわけ。
「この前は大丈夫だったよね」が苦しい理由
周りからすると
不思議に見えるのかもしれません。
「この前ここに来られたよね」
「前はこの匂い、平気だったじゃん」
「この間は普通に使っていたよね」
「なんで、今日は大丈夫じゃないの?」
でも、言われた側は
困ってしまいます。
だって
この前大丈夫だったことは
本人がいちばんよく知っているから。
それでも今日はつらいんです。
その違いを自分でも完全には説明できないのに
「前は平気だった」という事実を
周囲から強く突きつけられると
まるで今日つらいと感じている自分の方が
間違っているように思えてしまいます。
でも、知っておいてください。
昨日と今日で反応が違うことと、
今日のつらさが本物であることは、
矛盾しません。
これ、とても大事なところ。
「できた日」を基準にしない
化学物質過敏症になると
たまたま調子のよかった日の自分が
いつの間にか
「これくらいできて当然」の基準に
なってしまうことがあります。
昨日は買い物に行けた。
だから今日も行かなければ。
先週は人と会えた。
だから今週も会えるはず。
この前はこの部屋に30分いられた。
だから今日も30分いられるべき。
そうやって
いちばん調子のよかった自分を
毎日のノルマにしてしまう。
でも、それではしんどくなります。
調子のよかった日は
その日の身体と環境が
たまたまうまく噛み合っていたのかもしれない。
だから
「昨日できたから今日もやる」ではなく
「今日はどうだろう」から始める。
昨日の実績より
今日の状態を基準にする。
それでいいのだと思います。
波があることは、後戻りとは限らない
そしてもう一つ
覚えておいてほしいことがあります。
昨日よりつらい日が来ると
「また悪くなった」
「せっかく楽になっていたのに」
と思ってしまいがちです。
でも、一日単位の上下だけでは
長い目で見た変化までは分かりません。
良い日とつらい日を行ったり来たりしながら
以前より楽な日が少し増えている。
つらくなったあと、
戻るまでの時間が短くなっている。
できることが、
ほんの少し増えている。
そんな変化もあります。
だから
今日という一日だけを切り取って
「良くなった」「悪くなった」を
決めなくていい。
一日の上下ではなく
波ごとひっくるめた
長いスパンで自分を見る。
そんな視点が必要です。
化学物質過敏症の暮らしでは
昨日の自分が
今日の自分の取説にはなりません。
昨日できたことが
今日はできないこともある。
昨日つらかったものが
今日は少し平気なこともある。
それは
「気のせい」でも
「言っていることが変わった」でもありません。
身体も周りの環境も、
毎日まったく同じ条件ではないからです。
その日、そのときの状態を見ながら
近づいたり、
離れたり、
休んだり、
やってみたりする。
化学物質過敏症とつきあっていくということは
いつも同じようにできる自分を目指すことではなく
変化する自分に、その都度うまく合わせていくこと。
私は、そう思っています。
合掌
<化学物質過敏症関連記事>
①位 嘘の歴史しか知らない日本人
②位 オメガ3をやめなさい
③位 いつまで降圧剤飲むつもり?
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