こんばんは!
第165回芥川賞・直木賞発表まであと1日!
なんとか芥川賞のすべての候補作を読み終わりました・・!
今日読み終わったのはくどうれいん『氷柱の声』と同じ日に発売された石沢麻依『貝に続く場所にて』(講談社)。
『氷柱の声』は東日本大震災を経験した若者の率直な思いが語られていましたが、『貝に続く場所にて』も東日本大震災の犠牲者への思いが語られた物語でした。
この物語の舞台はドイツの大学都市・ゲッティンゲン。
日本からこの地へ博士論文を書くために留学した「私」は、2020年のコロナ禍で、9年前の震災で行方不明になった研究室の同級生・野宮と不思議な邂逅を果たします。
野宮は石巻市に実家があり、震災があった日から連絡が取れなくなっていました。
震災後しばらくしてから野宮の家族は「海から還ってきた」のですが、野宮と野宮の弟だけは「海から還ることのないまま」でした。
邂逅のきっかけは野宮と親しかった同級生の澤田からの連絡でした。
突然野宮と連絡が取れるようになり、そして野宮がゲッティンゲンへやってくることを「私」は知らされます。
「私」は野宮の知人ではあるけれどそこまで親しかった記憶はなく、けれど移動が制限されたコロナ禍で野宮の存在を確かめられるのは「私」しかおらず、不思議な緊張感を持ちながら「私」は野宮を迎えにいきます。
こうして9年ぶりの再会を果たしますが、「私」は野宮が死者であること、そして野宮が還ることができずにさまよっていることを確信します。
しかし澤田ほどに親しかったわけではない「私」は野宮に対して踏み込んで接することができず、当たり障りのない会話をして別れてしまいます。
その後、野宮が還れるようにもう一度会うか逡巡しながら、震災の記憶、野宮との記憶を懸命に手繰り寄せるのです・・。
野宮との再会後、ゲッティンゲンでは不思議な現象が起こるようになります。
「私」の同居人の飼い犬が「誰かの痛みの記憶」を掘り起こしたり、取り外されたはずの惑星のモニュメントが突如あらわれたり、現在と過去の街の景色が入り混じったりします。
これらの不思議な現象は「私」に「失ったものの痛み」を思い出させ、さらに「私」自身の体にも不思議な現象が起こります。
数々の不思議な現象を経て、「私」は震災という過去の痛みの記憶と向き合い、野宮への鎮魂の意を示そうとするのです・・。
この物語は超現実的な世界観をはさみながら「喪失の痛みと悲しみ」を克明に描き、そして震災犠牲者への鎮魂の思いを静謐な筆致で書き尽くした名作だと感じました。
超現実的な物語展開と震災という重いテーマは、一歩間違うと軽率な方向に行ってしまう危うさがありますが、この物語に軽率さは感じられず、小説だからこそできる鎮魂、慰霊の仕方が示されているように感じました。
不思議な現象への意味づけや回収が明確になされず消化不良に感じたところもありましたが、もう少し時間をかけて読み込みたい・・と思わせられた作品でした。
作中に夏目漱石の「夢十夜」が登場するのですが未読のためうまく飲み込めず・・。
「夢十夜」を読むと物語の深みをさらに感じられると思います。
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