こんばんはー!!







今年もこの季節がやってまいりましたー!!!


第164回芥川賞・直木賞候補作は
話題に富んだラインナップとなりました。


クリープハイプ(ロックバンド)のボーカル・尾崎世界観さんが芥川賞候補作、NEWSの加藤シゲアキさんが直木賞候補作に選ばれていたり、直木賞候補作が全て初候補作であったり。



25年ぶりとは…!


2020年下半期はコロナ禍で出版業界もかなり厳しかったと思います。
雑誌の休刊が相次ぎましたし、新刊数も減っていたような気がします(エビデンスなし)。


いち本好きとして、第164回芥川賞・直木賞はいままで以上に盛り上がれば良いなぁ〜と心から願っています。



前置きが長くなりましたが、今日は芥川賞候補作の宇佐見りん『推し、燃ゆ』(河出書房新社)を読みました。


宇佐見りんさんは、前回、第163回芥川賞を受賞された遠野遥さんと同時にデビューされ、2作目となる本作で芥川賞候補作となりました。


遠野さんもデビュー2作目で芥川賞を受賞されているのですが、ほぼ同じペースで宇佐見さんも芥川賞候補になるなんて!ふたりとも近年稀に見る逸材ということですよね。
ほんとうに今回の芥川賞直木賞は話題に事欠きません!


余談ばかりですみません。
ではでは本作の内容にうつります。


宇佐見りん『推し、燃ゆ』は、高校生のあかりが心酔してやまない“推し”が暴力トラブルを起こして炎上してしまうところから物語がはじまります。


“推し”とは、いちおしの存在という意味で、アイドルグループの特定の誰か、というときによく使われる言葉です。


あかりが“推し”ているのは男女混合アイドルグループの男性メンバー。
ネットには反省の色があまり見えないような“推し”の動画がアップされ、あかり含めたオタク達はただただ戸惑い、今後の動向を祈るように見守るばかりなのでした。


あかりにとって“推し”は、ただ応援していたい存在、というものではありません。


「病めるときも健やかなるときも推しを推す」(7頁)と心から思い、彼の出番を全て追い、彼のパフォーマンスや言葉を解釈してブログに残し、投票のためにCDを何十枚も買い、グッズはほぼ全種類揃えるほどにあかりは“推し”に心血を注いでいます。


それほどの「ガチ勢」のあかりに舞い込んだ悲報は、あかりの生活を根底から揺らがせてしまいます。


もともと興味のなかった学校生活がさらにままならなくなり、日常でも“推し”を推すこと以外はまるでどうでもよくなります。
家族が口をはさんでも受け流し、現実の生活が他人事のようにあかりの中から遠ざかっていくのでした。


そんな風に生活をし続けていた矢先に、とうとうあかりにとって致命的なできごとが起こってしまうのです……。


「推しを取り込むことは自分を呼び覚ますことだ。諦めて手放した何か、普段は生活のためにやりすごしている何か、押しつぶした何かを、推しが引きずり出す。だからこそ、推しを解釈して推しをわかろうとした。その存在をたしかに感じることで、あたしはあたし自身の存在を感じようとした。推しの魂の躍動が愛おしかった。必死になって追いつこうとして踊っている、あたしの魂が愛おしかった。叫べ、叫べ、と推しが全身で語り掛ける。あたしは叫ぶ。渦を巻いていたものが急に解放されてあたりのものをなぎ倒していくように、あたし自身の厄介な命の重さをまるごとぶつけるようにして、叫ぶ。」(110頁)


引用したとおり、“推し”はあかりにとっての生きがい、というだけでなく、もうひとりの自分なのです。だから、“推し”に何かあれば、自分の身が切られるように痛むし、他のことはどうでもよくなってしまうのです。


だけどあかりの場合はもうひとりの自分の勢力のほうが強くて、自分自身の生活さえもままならなくなってしまいます。


“推し”が燃えてしまったことで、あかりの痛ましいほどの不器用さと、“推し”をあかりがどれだけ必要としているかという切実さが堰を切ったように溢れ出すのです。


わたしは読みながらその勢いにただただ呑み込まれるばかりでした。


推しを推す「推し活」って、とても不思議なコミュニケーションです。
基本的に相手からの反応がなくてあたりまえ、ちょっと反応がもらえただけで有頂天、超一方的なコミュニケーションなのになぜか成立している。


それなのに推し活をやめられないのは、「推しを推しているわたし」というもうひとりの自分がとても愛おしいからなんですよね。


わたしにも心当たりがあります。
あかりほどのガチ勢ではないけれど、ハロプロが好きだし、かれこれ5年ぐらいひそかに応援し続けているアイドルグループ(ハロプロとは別の人たち)がいたりします。


もし彼らがいなくなってしまったら、自分のなかのどこかに穴がぽっかりと空いてしまったようなむなしさと淋しさが強烈におとずれるだろうと思います。
新曲が出るたびにわくわくしていた気持ちが過去になってしまうのが、なにより辛いと思います。


この物語は“推し”というもうひとりの自分との別れの物語だと感じました。
推しを推していたあのときの自分はもういない。
この物語はそんな淋しさとむなしさと悲しさを弔うための盛大なお別れ会のように感じました。


推しを推す、という言葉にピンとくる方とそうでない方がいると思いますが、言い換えれば「生きがいに熱中するもうひとりの自分」ということなので、特定の“推し”がいなくても、誰もが心当たりのある感情なのではないかと思います。


推しを推すという不器用で痛ましくて報われなくて切実な感情は、なんて辛い感情だろうと思いながら、なんて尊い感情だろうかと思えてやまない力作でした。


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