| 信長の原理[本/雑誌] / 垣根涼介/著 1,944円 楽天 |
今回の直木賞候補作が発表されたときに、垣根涼介さんの名前を見て驚いてしまった。
垣根涼介さんって、直木賞とってなかったっけ?? と思ったからだ。
わたしは垣根涼介さんのファンだ。
垣根涼介さんは2000年にデビューし、2005年の『君たちに明日はない』シリーズで第18回山本周五郎賞を受賞(これを直木賞と勘違いしていた)。今年作家活動19年を迎えるベテランの作家さんだ。
『ワイルド・ソウル』は戦後政策の誤りでブラジルに移民させられた日本人の物語、『君たちに明日はない』はリストラ請負会社に勤める主人公が社会にはびこるダメサラリーマンをぶった斬る物語なので、垣根涼介さんは「社会派小説」系の作家さんなんだとイメージしていた。
けれど近年は歴史小説を執筆され、本作『信長の原理』の前に『光秀の定理』、『室町無頼』で山田風太郎賞候補、直木賞候補にノミネートされている。
これまで出された作品は必ず何かの賞を受賞したり賞の候補に選ばれたりしている。
つまり垣根涼介さんは、すごい作家さんなのだ(なんだそりゃ)。
著者名で「垣根涼介」という名前の本があると、どんな内容の本でも安心してしまう。
「この人の本なら間違いなく面白い」と思えるから。
垣根涼介さんは、読者を楽しませる・のめり込ませる筆力を確かに持っている人なのだ。
ということで、直木賞候補作ラスト一冊に『信長の原理』を読んだ。
『信長の原理』の「信長」は、言わずもがな織田信長。
織田信長と言えば、「鳴かぬなら 殺してしまえ ホトトギス」の俳句のイメージしかないのだが(歴史が大の苦手です)、まさに「殺してしまえ」な一面があらわれた一冊だった。
とは言え信長はただの狂気的な人間ではない(だいぶ冷酷な人間だが)。
信長は戦国時代の世に生まれ、「この世で生き抜くためには戦に勝たねばならない」ということを自覚し、一時の情に流されることなく自分の役割を全うした人物なのだ。
子どもの頃から聞かん坊で反抗的だった信長は周りから愛されずに育ったが、父親の信秀は「大将にふさわしい性格」だと信長を買っていた。
信長はその性格のまま成長し、やがて弟の信勝を疎むようになる。内紛の続く尾張国(現在の愛知県西部)をまとめ上げるために、信長は謀略を企て弟を暗殺する。
その後は歴史教科書の通り、信長は数々の戦を経て勢力を拡げ、強権を欲しいままにする。
しかしそれまでの道は決して簡単なものではなかった。
『信長の原理』では、試行錯誤を重ねて信長が「原理」とするに至った戦術や揺れる心をのぞくことができる。
試行錯誤のさなか、信長は家臣へ喚き散らしながらも(迷惑…)戦を勝ち抜くため、織田家を絶やさないために黙々と考える。信長の戦術のヒントになったのはなんと”蟻の行列”で……。
戦術をめぐる”蟻の行列”の描写は現代にも通ずるところがある。
団体で何かに向かって行動していると、必ず一定の割合で「必死に働くもの」「働かないもの」「どっちつかずなもの」の3パターンに分類されてしまう、というものだ。
信長はこの法則を分析し、戦術に活かそうとする。
しかし、この物語の結末はだれもが知っているものになる。
側近の家臣・明智光秀の謀反による「本能寺の変」で信長は切腹。
信長の野望は叶うことはなかったが、信長は最期に自分が見出した「原理」の核心のようなものに気付くのだった……。
この物語を読み終わって、わたしは世の中における自分の「役割」はなんだろう? と想いを馳せた。
誰かのサポートをしたり、みんなを和ませたりするのは得意かもしれない。
こんなやわな表現じゃ、信長に斬り殺されそうだけど。笑
信長は生まれながらにして武将で、嫌われ者のリーダーだった。
好き嫌いで人を判断せず、有能・無能で判断し、それは最期までブレることがなかった。
ここまで芯の通った生き方ができるなら、たとえ最期が切腹であれ、本望なのかもしれない。
信長の家臣であった秀吉(豊臣秀吉)の心情描写が印象的だった。
「おれたちは、神でも仏でもない。いくら考えても分からないことは、厳然としてある。人間が実際にこの浮世を渡っていくとは、その現実を踏まえつつ生きていくことなのだ。」(301頁)
わからないことがある世の中だからこそ、信長は自分で決めたことを信じ、やり通したのかもしれない。
歴史が苦手でも難なく読み通すことができたけれど、もう少し歴史の知識があればもっと面白く読めたかも…と後悔した一冊だった。
勉強します!
