古本屋で見かけて、帯の謳い文句があまりにも自信に満ち溢れたものだったので、何気なく手に取った一冊です。
☆帯のフレーズ☆
・『青春前夜の胸キュンおバカミステリの大大大傑作』
・『新潮文庫では持ち込みは受け付けない内規を
打ち破って本作を持ち込み小説家デビュー』
なかなか強気な謳い文句に見えます。
個人的な好みとして、コメディーものはあんまり読まない方なので、ここまでの帯でなければまず手に取らなかったかも。
「大大大傑作って、よほどの押しだなぁ」とか、「持ち込み禁止って言ってるのに、なんかズルくない?」みたいなことを思いつつ、ページをめくっていきます。
主人公の小田桐くんは小学5年生で、小田桐くんを含めた仲良し三人組を軸にして物語が進みます。
バカミスとあるように冒頭からジョークの連発で、個人的にはついていけない感がかなり強く、50ページぐらい読んだ時点で一旦読むのを断念してしまいました。
そもそも得意ジャンルじゃないのが分かっていたので、バカミスとして大傑作だというのなら、最後まで読んでも自分には合わないんじゃないかと断じて、ひとまず仕事鞄に寝かせたまま、別の本に切り替えます。
それから数週間後・・・通勤電車の中でそれまで読んでいた本が終わってしまい、次の本をたまたま用意できていなかったため、この本の続きを読んでみることにしました。
小田桐くんたちは偏差値高めの進学塾に通っており、周りのみんなとは友達でありながらも、熾烈なライバル関係でもあります。
そんな中、どこかミステリアスな同級生、悠木まどかに惹かれていく主人公たち。
彼女のとある行動が全員にとって腑に落ちず、そこが謎として描かれています。
ただ、途中で出てくるハンバーガー・ショップの店員さんなんかもおふざけ全開で、個人的にはやはり馴染めない気持ちをぬぐえないまま、「まあ、ページ数もそこまで多くないし、最後まで付き合ってみようかな」ぐらいの調子で読んでいました。
で、ガタゴトと電車に揺られながら、最後まで読んでみると・・・。
自分には合わない悪ふざけのコメディーものだと、そう思っていたのに・・・なのに、ラストまで読み終えて本を閉じるころには、しみじみとした感動が広がっていました。
それは、一度は読み進められなくなった小説だとは信じられないほどの心に染み入るような読後感でした。
巻末に角田光代さんが解説を寄せておられるのですが、その解説がまた素晴らしく、僕の中で漠然としていた感動を心地よく文章化して下さっていました。
「そうそう、だからこんなにもグッとくるんですよね・・・」
「わー、そうだったのか。うんうん、なるほど確かに。だから今こんな気持ちなのか」
などと内心で激しくうなずきながら。
自分でもよく分かっていなかった気持ちを明確にしてくれる、嬉しくなるような内容でした。
あんなに敬遠していたくせに、読み終えてからもこの本はしばらく僕の仕事鞄に入っており、ラストシーンと角田さんの言葉を何度か読み返しました。
ギャグ満載の会話に、探偵というにはあまりにもつたない主人公たち、予想以上にのんびりとした展開。
冒頭からグイグイひきつけられるといった類のものではなかったにもかかわらず、いつまでも記憶に残る一冊になったのは、やはりこの小説がとても魅力的だからなのだと思います。
ネタバレが怖いので、ここでは詳しく書きませんが、著者が伝えたかったのは「どうです? このギャグ、超面白いでしょ~」ではなかったのが今ならはっきりと分かります。
読後にネットで検索したところ、この作品がちょっとした騒動になっていたのを知りました。
理由としては、『悠木まどかは神かもしれない』というタイトルが、大人気アニメの『魔法少女まどか☆マギカ』を連想させるため、炎上商法じゃないのかということらしいですが、そういった要素はまったくなかったです。
また、<謎>、<史上最低の探偵>、<新潮文庫編集部を騒然とさせた>などの煽り文句が過剰すぎたのではないかという意見も多数あり、それは僕自身もちょっとそう感じました。
映画やドラマなどにもよくあるケースですが、売り込みたいがあまり、内容と離反するキャッチフレーズを並べ立てるのは、なんだかフェアじゃない気がしてしまいます。
ただ、宣伝部の方々がどこまで狙ったのかは別として、ネットでこれほど話題になったのをみても、マーケット的には成功だったのかもしれません。
色々な側面がありながらも、けれど、本当に良い小説でした。
僕たちが子供の頃に感じてきたもの--。
小田桐くんたちにとって悠木まどかはどういう存在だったのか。
切り取られた冗談交じりの幼い日常が、けれど、実はどういう意味を持っていたのか・・・。
小説に流れるテーマは、年齢を重ねた僕たちにとっても決して無関係なものではなく、しんみりと胸を打つ素敵な作品です。
