『日航』ーー日本航空123便墜落事故。
1985年8月12日に実際に起こった航空事故で、
520名の尊い命が奪われました。
今現在もなお、単独機の航空事故としては史上最大で、
ネットで検索すると当時の記事が数え切れないほど出てきます。
群馬県、御巣鷹山(おすたかやま)の墜落現場は、
それこそ地獄のようだったそうです。
著者の横山秀夫さんはその当時、
群馬県の新聞社である上毛新聞で記者をしており、
真夏の御巣鷹山に登って、
約1ヶ月半にわたり事故現場を取材されました。
小説とは違い、新聞記者は自分の主観や感情を
排除して記事を書かなくてはなりません。
それが当時の横山さんには辛かったそうです。
凄惨な現場を見たにもかかわらず、
それを思うような形では伝えきれなかったからです。
横山さんは小説家を目指しながら思います。
あれだけの大事故を経験したのだから、
早く世に出るためにも
これを題材にしない手はないんじゃないか、と。
けれども、それがどこか自分でも浅ましく感じられ、
さらには、どれだけ自制して書いたとしても、
「自分はあの現場を見たんだ」という自慢話にしか
ならないように思えて、
どうしても書けなかったそうです。
今度は逆に「日航を書かないのはおかしいんじゃないか?」という
衝動にも似た思いが込み上げてきて、
記者だった頃に果たせなかった思いも込める形で、
とうとうそれを本にします。
ずっと書きたかった題材。
その目で見、伝えたいと思ってきた積年の想い。
『クライマーズ・ハイ』が出版された当時、
次のようなフレーズをあちこちで目にしました。
「著者が本当に書きたいと思って書いた小説の迫力に圧倒される」
本当にそうだと思いました。
ご自身が新聞記者をされていたので、
行間に漂う凄まじいリアリティーは言うまでもなく、
そればかりか、作中には様々な人の『想い』が満ちあふれていました。
それが読む者の胸に迫り、
たまらないほどの苦しさや悲しみを訴えてきます。
ストーリーは、事故の痛ましさだけでなく、
記者たちの確執や、親子の懊悩などを交えたものになっており、
その群像ドラマが全体をより重厚なものにしています。
特に主人公である悠木の記者としての苦悩が、
読み進めるうちに痛いほど伝わってきます。
映像化もされているので、
観た人も多いのではないでしょうか。
堤真一さん、堺雅人さんが出ている映画版と、
佐藤浩市さんが主人公のNHK土曜ドラマ版がありますが、
個人的にはドラマ版の方が断然好きです。
僕にしては珍しく、この作品は小説を先に読むのではなく、
ドラマを先に観ました。
普段なら絶対にそんなことはやらないんですけど、
何かのタイミングで土曜ドラマ版の番宣を観た記憶があって、
その時になんだかすごく良さそうな予感があったので。
で、実際に観てみると、本当にものすごく良かったです。
気に入った映画やドラマはつい何度でも観てしまうんですけど、
この『クライマーズ・ハイ』も
たぶん10回以上は観ていると思います。
記者としてーーいや、人としてどうあるべきなのか。
何回観ても、悠木の揺れる心にうるっときます。
横山秀夫さんの著作はどれも大好きですが、その中でも特に
この『クライマーズ・ハイ』は屈指の名作だと思います。

