いつも忙しいのに男爵は、みんなの心配をしてくれる。
ちょっとふさぎ込んでいたステファンをお昼に第2ピアノ室に呼び…
ご自分もお昼ごはん抜きで、ステファンの話しを聞いていたらしい…
そのあいだ、私たちはノホホンと
おにぎりをラウンジで食べていたのだ。『レケル、レケル=うまいうまい
』と、言いながら…急に男爵がかわいそうになり…
放課後、ホットケーキ
を差し入れしようと思いついた。が、
アパート到着すると、
ピンポーン!
だれか来た。
Dag!(ダッハ)=こんにちは~!
と、フランクちゃんとハラルド君。
『またクレバース先生から逃げてきたの?』
と、からかった。
『違うよ。』
すると、まただれか
ピンポーン!
Dag!(ダッハ)=こんにちは~!
シュナイダーさんとマークワルダーさん。
(…とうとう、真面目なマークワルダーさんもウチへ来るようになったかぁ)
それから少し遅れてセザールとジャンが
Dag!(ダッハ)=こんにちは~!と。
『ワロン人(ブリュッセルから南に生息する仏語圏のベルギー人)はDagダッハ打ってこなくていいから~★』
『だって、ボンジュールよりダッハのほうが簡単なんだもん~
』と、ジャン。
…
その後、私たちのあいさつは、このオランダ語の『Dag
ダッハ』になった…『それより私、ホットケーキ作るところなの。男爵へ差し入れ
』するとみんな、
『男爵のところに見慣れない学生が来てるんだよ
』フランク。『差し入れ行くならちょうどいい。偵察してきてよ
』ハラルド。『私だけが行くぅ
みんな行かない?』私。『フランコ=ベルギー派に弓替えのロシア人っぽいよ。』セザール。
『フランコ=ベルギー派理由に、また亡命さわぎにならなきゃいいが…』シュナイダー。
『グリュミオー先生、気を使って“亡命”のことを“移動”とおっしゃるから…
本人たちも“移動”くらいの軽い気持ちで来るんだろうね…』
と、マークワルダーさんが言うと、賛否両論に意見が割れ始めた。
『たとえ亡命しても、フランコ=ベルギー派(男爵やクレバース先生(ヘルマン)が受け継いでいるバイオリンの流派)に才能ある若者が集まってほしい~
』『法を犯して危ない目に遭ってまで
、フランコ=ベルギー派に来てほしくない
』『亡命が目的で、フランコ=ベルギー派に来てほしくない
』私はホットケーキを焼きながら、どれもうなずきながら聞いていた

それから…
音楽院へホットケーキ
を持って行き…副科ピアノのお部屋へ。
深刻な話ししていないか、外で様子をうかがい…
男爵おひとりだけなので、ノックした。
『失礼します!おやつです
』うかない様子を一瞬見せた男爵が…
振り向きざまに口角を上げて、一生懸命に笑顔を作った。

『やっぱり、亡命ロシア人なんですね
部屋に今までいた人…』私は聞いてみた。
『移動と言いなさい。』男爵。
『師匠、ひとりで背負わないでくださいネ…
私、師匠の作り笑顔を見るのはツラいです
』すると男爵、
『Merci,ma cherie…ありがとうね、君、』
『せめて、師匠の短縮
ダイヤルに載せている、21人は…バカ仲間かもしれないけれど…師匠が心配でウチに集まったんです…』
『本当に何でもないよ。』男爵。
『いつも師匠は私たちがツラい時は助けてくれるのに、師匠がツラい時は笑いながら隠すなんて、私たちはそれが耐えられないんです
』『耐えられないんです
』と、私が言った瞬間


ガラガラガラガラ
バターン

扉の外で隠れて聞いていたみんなが…
扉ごと、倒れ込んだ

…超ヤバっ
『どうやら、耐えられないのは
扉だったんだね
』と男爵。
みんな大あわてで、扉を直し、盗み聞きしたことに対して、もう、平あやまり。

(*人*) <(_ _)> (*人*)
男爵は無言で何人かの頭をつかみ、イイコイイコした。
『さあ、みんな!おやつだよ。食べよう
』と、男爵は差し入れのホットケーキをみんなに分けた。
ひと口ずつだったけど、おいしかった!
『レケル
レケル
』と、フランクちゃんが言うと…
ワロン人の男爵もオランダ語で
『レケル
レケル
』と言い始めた。
ホッとした

いつもの男爵に戻った
