瑛士、家の玄関先で隆英に。
「あぁ。…で、ここに初めて入った人が、佐津香さん。そして、菜帆子さんと順平君。おまえに話した会社の人だ。」
「あぁ。…いや。でも、驚いたなぁ。親父が酒でぶっ倒れて担ぎ込まれたって。しかも、佐津香さんの匂いでって…。」
家の外観を見ながらの隆英。
瑛士、
「あぁ。まっ。おまえには分かんねえけどよ。…梨穂子の匂いだったんだ。それと同じ匂い。おまえの母親だ。」
隆英、
「俺の…、かあさん。」
「あぁ。おまえは…。が…、産まれてすぐだったからな~~。おまえのかあさん。梨穂子が亡くなったのは。」
そして瑛士、隆英を見て、
「まっ。おまえには記憶はないと思うが…。」
隆英、家を見ながら首を振り。
「全く。記憶には、ばあちゃんしか、ねぇから。」
瑛士、また家を見て、
「まぁな。…で、こっち来て、俺の歓迎会って事で会社のみんなが集まって酒飲んで…。まっ。それほど飲んではいないんだが…。そんな時に、ふと匂いに…。それで、俺ぁ、バタン。とにかく深い眠りって…。…で、しかも…。とにかく起きない。」
玄関の戸をガラリ。
隆英、
「あれ…???…鍵は…???」
瑛士、
「あは。ただいま~~~。」
玄関には一足のスリッパ。
隆英、父を見て、
「うん…???」
茶の間に入ると、台所からいい匂いが…。
瑛士、
「ただいま帰りました。おばあちゃん。」
隆英、
「おばあちゃん。…って…???」
父を見て、
「えっ…???」
瑛士、ニッコリとしながら。
台所からエプロンをしたままで、
「はいはい、お帰んなさい。あら、まぁ~~。かかかかか。小埜瀬さんの息子さん。」
ペコリと男性に丁寧に頭を下げて。
「こんにちは。隣の千賀子(ちかこ)と申します。福瀬千賀子(ふくせちかこ)。」
瑛士、
「となりのおばあちゃんだ。御年84歳。」
隆英、
「84歳。」
目を真ん丸に、
「いやいやいや。全く…、そんな年齢には…。」
瑛士、隆英に、
「ここに来てある時。隣の庭で倒れているところを見つけて。かかかかか。家に負ぶってきて…。」
千賀子を見て、隆英を見て、
「ギックリ腰で、痛がって声が出せなかったんだ。…で、ここで休ませて。それから救急車で病院に。ひとり暮らしで…。まっ。俺が面倒を見てたって。それからだ、おばあちゃん、時々ここで…。食事、作ってくれてる。」
隆英、
「へぇ~~ぇえ~~。」
千賀子、
「ささ。何もありませんけど、召し上がれ。」
お盆に料理の皿を。
隆英、
「うわっ。美味しそう~~。はは、いい匂い~~。」
「おばあちゃんの味ですけど、よろしかったら。」
隆英、ニコニコと。
「すみませ~~ん。」
食べながら千賀子、
「あらまぁ~~。ご結婚。」
目を丸く。
瑛士も隆英も、
「えぇ。」
千賀子、瑛士の左肩に手を。
「良かったじゃありませんか~~。小埜瀬さんもご結婚。…で、息子さんもだなんて~~。」
瑛士、
「はは。」
けれども瑛士。
「でも…。」
後ろを見ながら…。
「おばあちゃん。」
千賀子、そんな小埜瀬を見て、
「あら、小埜瀬さん。まさか、私を心配。」
クスリと笑って、
「何言ってるんですか~~。そんな…、こんな年寄りなんてほっといて、ちゃんと結婚~~。それが、何よりのしあわせじゃあありませんか~~。ねぇ~~。」
隆英を見ながら笑顔で。
隆英も、食べながら、
「えぇ…。あ、はい。」
千賀子、小埜瀬に。
「ちゃんと、しあわせにならないと~~。私が困ります。ふふ。」
「それにしても、月日の経つのって早いよね~~。」
須美。鍋の中の味見をしながら…。
テーブルを布巾で拭いている伊寿美、
「うん…???…どうしたのよ、かあさん。」
須美、
「良し、OK。うん…???…だ~~ってさ~~。去年の秋には、あなたたちが結婚。…で、年の瀬にはサッちゃんがフランスにコンペ。…と、思ったら、たちまちサッちゃん、結婚表明。…と、思ったら何々。今度は何と。優維香ちゃんまでが結婚表明。しかも、あと1ヶ月だよ。もぅ。今年も5月前なんだから~~。6月にはふたりともに、結婚だよ~~。それに~~。今のあんた。お腹~~。」
そうなのである。この年の、所謂2022年11月にはめでたく伊寿美と岳燈が結婚。
岳燈は伊吹家から出て柳沢家に入り、婿養子となったのである。
文字通り、伊吹家は、長女の伊吹苑(いぶきその)が家の跡取りではある。当然である。
自分の法律事務所を所有している訳であるから。旦那は大手建設会社の部長である。
仕事を通じての知り合いとなり、苑が見染めた男性であった。
子供をひとり儲けている。女児で、小学生の5年生である。
岳燈としては、両親にも恵まれ、上には3人の姉がいる。
勝手し放題のこの上ない環境ではあったのだが…。
内心、両親には頭が上がらない。
そして…、当然ながら3人の姉にも頭は上がらない。

好きになれない。 vol,318. 瑛士、家の玄関先で隆英に。
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