スペインの某出版社。
編集長だろうか、眼鏡の奥の眼光は、厳しくも表情はニッコリと。そして、原稿を見て、
「さすがは隆英。良い出来栄えだ。いつも助かるよ。」
けれども、口を尖らせて、僅かに顎を突き出して、
「何度でも言うが、ウチで仕事をする事は…。」
俯きがちにも原稿に落としている眼鏡からの眼光は…。
しかも、額に皺を何本も寄せながら…。白髪の…。50代後半の男性だろう。
隆英と呼ばれた男性。20代…半ばだろうか。そんな目の前の男性に。
「ありがとうございます。」
そう言って…、けれども、
「編集長。私からも、何度も言わせて頂きますが…。」
その瞬間、
「かっかかかかか。」
いきなり原稿から顔を上げて、笑いながら、
「分かった。分かった。はははは。まっ。君の事だ。ウチ以外にも、あれこれと出版社を…、まっ、忙しく仕事を熟しているんだろう。」
そして、また原稿に顔を…、
「…それにしても…。これだけの才能で、フリーにしておくのは勿体ない。しかも…、原稿料ですら、正規の原稿料なら、もっと。それなのに…。…いや。こちらとしては有難い限り…、と言うか…。…逆に申し訳なさに、心を痛めるんだが…。」
男性、ニッコリと。
「その気持ちだけ、頂きます。」
チョコンと頭を…。そして、
「いいんですよ。…じゃないと、自分の好き勝手には…、出来ないんです。」
白髪の男性、眼鏡のフレームに手を当てて、
「…で…???…今度はいつ、こっちに…???」
「ん~~~。それを言われると…、返事に…、困るんですけど…。」
「ははは。うんうん。分かった。分かった、分かった。まっ、いつもの事で、また気が向けば…って奴だろう。はは、気にするな。君ならいつ突然来ても、すぐさまOKだ。」
そして顔を左右に。両眉を僅かに上下に、
「とにかく天晴だ。これだけの記事。ますます感謝の至り。」
僅かにソファに深く体を。そして、脚を組んで…。
「ありがとうございます。そう言って頂くだけで。…では…。」
そして、男性はソファから起き上がるように…。
「おや。もぅ~~。折角だから、昼飯でも…。」
その声に、
「次の仕事の予約が…。そろそろ行かないと…、飛行機の…。」
腕時計を見ながら…。
一度、口を噤んで…。そして、
「やれやれ。さすがに忙しい人間だ。」
そしてこちらも椅子から立ち上がり、
「ありがとう。…そして、今後も、期待してるよ。」
握手を求める。
若い男性も、その右手をガッシリと握り、
「ありがとうございます。では。」
そして、ドアを開けて編集部を出て行く。
ドアが閉まる。
白髪の男性、口を真一文字に。そして僅かに顔を傾げて、
「ふ~~ん。あれだけの才能、ま。…ある意味、どこでも、引手数多か。」
遠くから、
「編集長~~。」
男性、その声に右手を上げて、
「おぅ~~。分かった~~。今行く~~。」
その2時間後、空港に到着した男性に着電。
こちらは東京の…。社長室。
椅子に座ったままで…。そしてその椅子は窓側に向けられ、電話で…。
「ははは。元気そうで安心した~~。」
その声に、耳元のスマホに、男性。
「えぇ。元気ですよ~~。」
「今何処…???……。」
スマホから聞こえてくる声に、
「あっそぅ~~。じゃ、そのままイタリアに~~。さすがに、忙しそうで何より。安心したわ。あなたの記事、載っている雑誌、フランスから取り寄せて、今見てる~~。」
机の上には一冊の雑誌。
「さすが。私の見込んだ通り。とにかく、体には気を付けて~~。待ってるから~~。もぅ…、1週間、切ったわよ。約束。お願いね~~。」
そして、棚に整理されているズラリと並んだ同じ雑誌を見ながら…。スマホに、
「…、は~~い。待ってま~~す。」
そして…。通話は切られる。
机の上の電話、内線の音。受話器を取って、
「はい、私。」
受話器の向こうから聞こえてくる声に、
「うん。分かった。通して頂戴。」
「ちょ、ちょっと、ちょっと~~。」
トラディショナル事業部に慌てて入ってきたひとりのスタッフ。菊村阿寿沙(きくむらあずさ)。
「こ、これ、ちょっと見てよ~~。」
事業部のメンバーたちが一斉に阿寿沙に、
「何々…???…どうしたのよ。」
次々に阿寿沙の下に集まるメンバーたち。
優維香も悠里も、
「どうしたの~~???」
阿寿沙、
「これこれこれ~~。」
テーブルに置いた雑誌。
メンバーたち、
「ん~~~???」
ページの見開き。それには…。
「トータルインテリアストア・伊玖伊那(いくいな)新たなインテリアの幕開けとしてのデザインを提案。ライフスタイルの癒しを追及。心地良いバランスにトライ。新旋風を巻き起こす。」
他のメンバー、
「何これっ!!!うっそ。こんなの見た事ない。」
「しかも。しかもよ~~。」
阿寿沙。
「このデザイン。ネットで調べると~~。」
テーブルの上のパソコンで…。検索して…。
メンバーたち、
「うっそ!!!」

好きになれない。 vol,029. スペインの某出版社。編集長だろうか、眼鏡の奥の眼光は…。
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