橙が大学2年、春。
巽、今までの勤務していた池袋店から、渋谷店に異動。
丁度その時期、巽が住んでいたアパートも更新時期を迎え、
橙とのデートの最中に、ある雑誌の不動産の記事と画像に目が留まる。
その瞬間、巽、
「おっと~~。」
橙、
「…ん…???」
「俺、引っ越すわ。」
「はい…???」
そして、不動産経由で、アパートの下見。
橙、
「わおわお。うんうんうん。ちょっと狭いけど…。良い、良い、立地、良い。良いよ、巽~~。」
不動産職員、
「ありがとうございます。」
巽、ネットでも、チェックを入れながら、
「へぇ~~。まだ、空いてる部屋もあるんですね~~。」
「はい…。ですが…。今の内かと…。」
「えっ…???」
「この一週間で、空き部屋、半分、埋まってしまって…。」
「うそ。」
その時、橙、
「えっ。えぇぇぇぇ。残りの部屋って…???」
「2階と3階に一部屋ずつ。そしてこの部屋の隣の部屋だけです。」
橙、
「この…、隣…の…部屋…???はい…???空いてるんですか…???」
職員、
「はい。」
首をコクリと。
橙、
「私。私、私。私、隣、住みます。」
職員、
「はい…???」
巽、
「は…あ…???…何を言ってる、ゆず。」
橙、
「いや。いやいやいやいや。私、住みます。」
巽、
「いや…。住みますって、おま…、家…都内じゃん。なんで、わざわざ。」
その瞬間、橙、
「ううん、ううん。ううん。私、ここ、住みたい。絶対、住みたい。」
多少なりとも、嬉しいやら、困惑やりの職員、
「お客様…???」
橙、何か、自分を変えるものを感じた瞬間だった。
けれども橙の両親は大反対。
龍興、
「なんで、わざわざ、アパートで1人暮らし。おまえ…、料理すらひとりで出来ないんだぞ。」
紅葉、
「全く…。東大、卒業してからでも、遅くないんじゃないの…。」
そんな両親に、
「今なの。今だからなの。やっと。自分の事が、自分でも分かるようになってきたの。だからなの。」
確かに、まず、目立たない、大人しい娘であった事を両親たちも気にしてはいた。
そして、そんな目立たない、大人しい娘が今、目の前で、
両親に自分の、これからを訴えている。
こういう事も、今までの橙にはなかった。
龍興、
「この子に、何が起こった。」
そして次の日に龍興、
「まっ。おまえの好きなようにやってみろ。…これが、何かの切っ掛けかも…知れんからな。ただ、大学を卒業するまでは、何がどうであれ、私と母さんが、おまえの面倒は見る。」
橙、
「とうさん…。」
「だが…。大学、卒業したら、父さんの夢にも…付き合ってくれ。」
木葉龍興、東京でも…大型ホテルの常務取締役である。
つまりは、橙が大学卒業を機に、自分のホテルで働いて欲しいと言うのが、
龍興の夢でもあるのだった。
橙、この時点で、約束は出来なかったが…、
「うん。ありがとう。考えておく。」
紅葉、
「だ~いじょうぶなの~~。勉強は出来るけど、あなた…、かなり不器用な方だから…。」
その途端に橙、思わず舌をチロリ。
「なんとか…。うん。」
目をキョロキョロと…。
「だいじょうぶ…。」

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