「もしかして…。や~~っべ。」
走っている女性の落とし物と言う確証はなかったが、
ただ、その女性が走って行くその向こうには確かに東京大学はある。
「とにかく、渡さないと…。」
そして、次に頭に浮かんだのが…、
「届けないと…。」
横断歩道の信号は、真ん中の少し手前から点滅。
「やべ、やべ、やべ。」
横断歩道に歩み寄った人とぶつかりそうになり、手で謝り、先を行く女性の後ろ姿。
巽、
「早~~っや。」
なんとか女性の後ろまで…。
「ちょっと君…???」
けれども、見知らぬ男性の声に驚く女性。
一旦は振り向き、立ち止まろうと…。すぐさま、逃げるように。
「ちょっと待って。…これって…。君の…???」
後ろから執拗に走って着いてくる男性に女性、
「なんなのよ、こんな時に…。間に合わない。」
全く止まろうとしない女性に巽、いい加減に女性の右肩を掴んで、
「おい!!!ちょっと待てよ。これ!!!」
いきなり女性の目の前に紙切れを。
女性、
「えっ…???」
そして、その紙切れを見て、
「わっ!!!!私の、受験票―――――――っ!!!!」
女性に、受験票を渡しながら、
「向こうで…。落ちてから…、拾って。追っ駆けて…。」
いきなり女性、
「ありがとうございます。」
深くお辞儀を目の前の男性に。
「ほんとうにありがとうございます。」
その途端、巽、
「えっ…???」
その丁寧なお辞儀に圧倒されて…。
「あ…、あの…。そ…。そん…。」
「助かりました。本当にありがとうございます。これが…ないと私…。」
再び男性に向かって丁寧に頭を下げて。
巽、
「い…や…。そんな…ていね…。そこまで…。」
女性、バッグにその受験票を入れて、
「あっそうだ。」
目の前の男性に、バッグから一枚のチケットらしいものを…。
「すみません。午後、5時に、ここで待っていてくれませんか。」
そのチケットを受け取って男性、
「えっ…???午後5時に…???ここ…???」
既に男性から離れている女性。走りながら、男性に振り返って、
「すみません。お願いします。」
「いや…。お願いしますって…。この…チケット…。」
そして巽、
「参ったな…。これって…、ウチの店のチケットじゃん。銀座店。へぇ~~。あの子、ルッポラ…知ってるんだ。」
そんな風に感じて…。ふと…。
「うそ。あの子。東大…受験…???」
その瞬間、
「あったま、良い~~。」
そして午後5時に、銀座のレストランルッポラ。
「な~~んか…、照れるよね~~。ここって、俺の同期もいるから…。休みなら、いいんだけど…。」
店員、
「いらっしゃいませ~~。」
そんな店員に、
「お疲れ様~~。」
巽。
店員、
「はっ…???」
巽、
「あ~~。いや…。あ…、あの…。」
店内をグルリと見渡して、窓際の席で、手を挙げているひとりの女性。
巽、
「あっ。はは。あの…、待ち合わせ…でして…。」
その女性のテーブルに向かう巽。
店員、にこりと、
「どうぞごゆっくり。」
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庄司紗千 「雫音〜shizukune〜」
※ご本人の承認の下、紹介させて戴いております。
