=第13話「出産」=
メルの妊娠発覚から一週間後、あっという間にその日がやってきました。
その日、僕は朝から予備校の仕事に出ておりました。お医者様からも一週間くらいと言われていたので、注意はしていましたが、その日の朝のメルはいつも通りだったんです。ところが、お昼頃、元奥様のYuさんからメールが来ました。
「メルが産むかも!」
ちょうどお昼休みだったので、慌てて電話をかけました。
「朝からやたら甘えてくると思ったら、さっき、猫ハウスに入って、うずくまったの!」
普段わりと冷静な僕も、その時はさすがにテンパりました。まだ授業は3時間もあるから、ここで帰るわけには行かないし。
とりあえず、生徒に問題を解かせてる間や、休み時間に、こまめに様子を聞きながら、授業が終わると直ぐに帰路につきました。
まだ産まれていなかったので、早く家に帰ってあげようと急ぎました。車だったのですが、あれほどハラハラした運転はありませんでした。
「少し黒いのが見えてきたかも」
「なんかすごく辛そう」
メッセージが来る度に路肩に車を止めて、もう少しだからねと返事をしていました。
そして、帰ってきた僕の目に飛び込んできたのは、猫タワーの下のトンネルにうずくまって、足を突っ張りながら頑張っているメルの姿でした。
もうかれこれ2時間ほどこの状態とのこと。
黒い物体は羊膜のようでした。たまにぐっと力が入る度に出てきそうになるのですが、なかなか出てきません。
ぐれおじさんも、ゆき姐も、ティオも、みんなで固唾を飲んで見守りました。ティオはたまにメルのところに近づいて、心配そうにみつめていました。猫にも状況が分かるんだなぁと、感動しながらも、まだかな、まだかなと心配で仕方がありませんでした。
それからさらに2時間くらい経ったでしょうか。
猫は安産だと1時間くらいで出産すると聞いていたので、明らかに難産でした。かかりつけの病院の診療時間は終わっていましたが、まだ先生はいるかもと思い、電話をかけました。すると運良く先生が電話に出ました。
「とりあえず、今は何もしてあげられないから、静かに見守ってください」
無力。こんなに辛そうなのに何も出来ない自分が情けなくなりました。でも、メルの頑張りと先生の言葉を信じるしかありませんでした。
そして、さらに1時間が経った頃、なんとメルがよろよろと立ち上がったのです。そして、コタツの中に入ってきたではありませんか。猫は出産の時、1人になりたがると聞いていたのに、僕とYuさんがいる方に近づいてきたのです。まるで、「助けて」と言ってるかのようでした。
僕達は変にストレスをかけないよう、でも、メルが安心できるように、そばでそーっと様子を伺ってました。
そして。夜の9時ごろ、ようやく子猫の頭らしき物が見えてきたのでした。
第12話 完







