そこで、今回は久しぶりに政治のことを書いてみようかと思います。いくつかテーマを考えてみたのですが、ドイツのメルケル首相が先週来日して、ドイツのことなどつらつら考えたので、ドイツのことにします。
さて、ドイツと言えば、昨年話題になった2013年の国別イメージ調査(→PDFリンク)を思い出す方がいるかもしれません。
世界の日本に対するイメージは悪くありません。ご存じのように中国人と韓国人だけはさんざんな結果なのですが、今回意外だったのは、ドイツ人の日本のイメージがひどいことです(日本はPDFファイルのp.13にあります)。
日本にプラスイメージを持つドイツ人が28%だったのに対して、マイナスイメージを持つドイツ人は46%と、中国や韓国に続く悪さを見せました。
では、なぜドイツが日本に対してそれほど悪いイメージを持つようになったかについて、次に自分なりに考えてみます。いつもながらの独断ですが、よろしければおつきあいください。
国際情勢に関心のある方は最近、やたらとメルケル首相を目にすると感じておられるでしょう。それもそのはず、今の国際情勢の「西側陣営」については日本とドイツを中心に動いているからです。
・・・なんてことを言うと「日本が国際情勢に大きな影響を与えているわけないだろ!」と言いたくなる方も多いだろうと想像しています。
1つには、バズーカにも喩えられる「金融緩和」という経済政策の荒技を使えるのは、アメリカと日本とEUしかないことがあります。
もちろんイギリスやスイスや北欧諸国なども可能ですし、実際やっていますが、アメリカと日本とEUの3地域は別格です。経済規模が大きく、自国通貨で金融緩和をやって自国のマネーがびくともしないというと、基軸通貨のドルと、ドルをいくらでも調達できる円とユーロの3つだけでしょう。
もう1つはオバマ大統領になってアメリカが国際政治の表舞台から少しずつ引きはじめていることです。そうなると、結局は日本とEUの中心であるドイツが動かざるをえない状況にあります。しかも、日本もドイツも長期政権になる可能性が高いので、今は日本とドイツが中心にならざるをえません。
実際、安倍首相もメルケル首相も外交で大忙しです。安倍首相はご存じのとおりアメリカの代わるかのように、これまで手薄だった中東や中南米諸国まで出かけ、日本の首相としては珍しいほど海外メディアに取り上げられています。メルケル首相に至ってはウクライナ問題とギリシャ問題の両者で主役の一人として孤軍奮闘している印象すらあります。
日本のことに触れると長くなるので置いておいて、ドイツについて見ると、問題児のギリシャに手を焼きながら、同時にロシアとの調整もやらざるをえない状況です。それなのに、ユーロ圏のリーダーシップがうまくとれていないようです。
統一通貨を使っているので、安全なドイツの金利は低く抑えられます。ヨーロッパの投資家は「せっかくユーロを使うなら」と、金利の高いギリシャなどの高リスク国に投資をしました。ギリシャが事実上破綻すると、ギリシャに投資したぶんがパーになり、ギリシャ国債を大量に持っていたほかの国の経済までおかしくなりました。
ギリシャの事実上の破綻処理まではなんとか終えられましたが、財政再建まではうまくいっていません。むしろ緊縮財政で国内は不況がひどくなり、反ドイツ的な空気まで生じています。
そこでドイツがリーダーシップをとってなんとしようとしているというのが、現在のヨーロッパの状況です。
ドイツは統一通貨のおかげの通貨高で競争力を下げることなく、国境がなくなったEU圏を中心に輸出で儲けまくっています。ユーロが下がるほどにドイツは儲かります。
ドイツのマネーで経済危機を救ってもらいたいというのがほかのEU諸国の本音でしょうが、ドイツはなかなかそれに手をつけようとしません。これには理由があります。
現在、ドイツ株は「爆上げ」していて、株を持っている人にはたいへんな額のキャピタルゲイン(売り買いによる儲け)が出ているのですが、肝心のドイツ国民自身はあまり潤っていないのです。
ドイツ人はリスクを好まず、とにかく安全性と健全性を第一に考える国民性があり、株を日本人以上に持とうとしないからです。バブルで懲りたのもあるでしょうが、もともとそういう国民性もあったと言っていいでしょう。株保有率は国民の13%という低さです。
ドイツ国民は健全な財政を第一に考えます。まず「無駄遣いをしない」というのが先にあり、それを前提に手持ちのお金でやりくりすることを優先し、手持ち以上のことは慎みます。
それだけなら問題ないのですが、それを他の国にも押しつける・・・というと語弊がありますが、要はその価値観を共有できる国を信用して、それをやらない国は軽蔑するのです。投資より勤労を重視するというのは、歴史的に見てもドイツ人の特徴の1つだと見ていいでしょう。日本と違って地震が少ないこともあって、インフラにも日本ほどお金を掛けません。ボロボロになるまで使います。
ここがわかると、なぜドイツが反日に転じたかがわかります。
日本は東日本震災で財政を悪化させ、原発政策の大幅な見直しを迫られました。ドイツはそのときに被害者の子供たちの受け入れをいち早く表明し、同時に、脱原発を宣言します。
「なぜドイツがこの時期に脱原発?」と思った方もいたでしょうが、要はリスクのある原発は他国に任せて、「電気を他国から買う」という選択肢を前々からとりたかったのです。そこで、原発事故をきっかけに、日本と共に脱原発に邁進しようと思ったわけです。また、同時に、財政赤字に苦しむ日本はギリシャ危機をきっかけに、増税して財政再建に乗り出すと考えました。実際、「日本をギリシャにするな」と当時の菅首相は叫んでいました。
ところが、日本はドイツを完全に「裏切り」ます。
安倍首相になって原発政策の継続とともに、二度目の増税を先送りして、金融緩和をすすめます。借金の大嫌いなドイツは、同情していて一緒に歩を進めるつもりだった日本に幻滅して、反対に「日本嫌い」に転じることとなりました。
ところが、ヨーロッパ危機の長期化で、金融緩和と財政出動政策を採らざるをえなくなります。ドイツは真っ向から否定したい「アベノミクス」を受け入れざるを得なくなったのです。そして、大嫌いなニッポンのアベと強調せざるを得なくなって来日することになったというのがメルケル来日です。
ようするに、誇り高いドイツが、お金を刷ってお金を回す「アベノミクス」に敗北したのが、まさに今回の来日だったわけです。
メルケル首相は「歴史問題」について日本政府に苦言を呈しましたが(ドイツ政府は否定)、それは経済より政治を優先して中国と協調しない日本に対する皮肉だったのだと思います。
もともと東ドイツの出身であるメルケル首相は、お金にルーズな民主国家より財政のしっかりした独裁国家のほうにシンパシーを持っているはずです(口が裂けてもそんなことは言わないと思いますが)。だから、これまでは日本を事実上「パッシング」して中国重視を貫いてきました。
でも、現在は日本にユーロ安を受け入れてもらえないとEUの金融緩和の努力は水泡に帰しますから、日本の協力はぜったいに必要です。だからこそ、メルケル首相は「歴史問題対立への提言(=おせっかい)」というゆがんだ形で、本音がちょっとだけこぼれたのだろうと推測しています。
そういうわけで、ドイツは優秀な国ですが、価値観の押しつけが強すぎることで周辺国に厳しいという特徴があります。その点、中国や韓国や東南アジアなどに惜しみなく経済援助や技術援助を続けて、隣国に寛容で「財政再建しろ」などと余計なことを言わない日本とは対照的です。
ただし、これを持って日本が正しく、ドイツが間違っていると決めつけるのは早計です。
ドイツは二次大戦後に東西に分裂しましたが、1990年の統一ではかなり苦しみました。東ドイツは当時、たしかGDP世界11位くらいだったと記憶していますが、それでも西と比べると財政も人材でもはるかに劣っており、再統合では経済危機に10年以上も苦しみました。それでも財政を保てたのは自制心があり苦難にへこたれないドイツ人だったからでしょう。
日本も分割統治計画がありました。アメリカ、ソ連、イギリス、中国の4分割案が有力でしたから、実行されればたいへんな苦しみを味わったはずです。それが回避されたのはおそらくアメリカがソ連の太平洋侵出を警戒したからでしょう(それでも、他の国が強行しようとすればどうなるかわからなかったわけで、サンフランシスコ講和会議におけるセイロンのジャヤワルデネさんの演説の力が大きかったと思います。彼はすべての日本人の恩人です)。
また、日本と違いドイツの隣はフランスやイタリアなど経済力があり軍事力も大きな国がいくつもあります。日本のように隣国援助などできる状態ではなく、自分のことで精一杯という面もあったでしょう。
EU統合はそういった緊張関係を解きました。実際、ドイツが脱原発できたのは、統合によって、フランスから電気を買えるようになったからです。日本がロシアや中国や韓国からエネルギーを買うようになれば、それを材料に今後は脅しをかけられるようになります。実際、ロシアは冬になると「パイプラインを止める」といって何度も脅迫しています。日本が脱原発を宣言したら中国は原発を増やして日本に電気を売るでしょうが、そんなことをしたら中国に対する安全保障はほぼ終わりです。
そういったわけで、日本とドイツは事情が違いますが、今後は協力するしかありません。日本もドイツから学ぶことがたくさんあります。とくに、「目下のことが苦しくても、今やるべきはやる」「隣国に嫌われても自国の利益は守る」といった「嫌われる勇気」がドイツにはあります。それこそ私たち日本人が学ぶべきドイツ人の美徳だと思います。
アメリカが国際舞台から後退するに従い、日本とドイツが表舞台に出ざるをえなくなります。私は安倍首相とメルケル首相は意外と価値観を共有していて、実は話が合うのではないかとにらんでいるのですが、そのことはまたの機会があれば。

Image(s): FreeDigitalPhotos.net
【新刊翻訳書のお知らせ】
『世界のトップエリートが絶対に妥協しない小さな習慣』(大和書房)を出版いたしました。ウォール街のトップエリート女性が書いた、「どうやったら目標を100%成功させて、人生を大きく好転させるか」を解説した本です。多くの人に役立ちすばらしい本ですので、ぜひご一読ください。くわしい内容については→こちらまで。



