『英文解釈教室入門編』は進歩か後退か | 真面目に脱線話@リンガランド英語塾

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もし「伊藤和夫学」というものがあれば、何人かの「研究者」が首をひねるのではないかと思うことが1つある。それは伊藤先生が『英文解釈教室』に「基礎編」「入門編」をつけたことである。



伊藤先生はたくさんの本を書き残し、またそういう印象のある人が多いと思う。確かに多作だ。ただし、巷の「多作」と言われる英語参考書のライターと比べると、実はそれほど多くない。ただ、伊藤先生の本は長く売れ続けるものが多いので、いまだに書店がたくさん見かけるのだとも言える。



伊藤先生による一連の参考書を年代順にざっと見ていくと、「同じような趣旨の本は書かない」という点で一致している。たしかに「伊藤流」「伊藤節」という共通点があって、参考書コーナーの中で見ると似たような印象を受けるのだが、1冊1冊を見ていくと、グランドデザインはそれぞれ違っている。



おそらく、伊藤先生はその本を出す「必然性」というものを大事にしていたのだろう。決して「商売」だけで書いていたわけではなかったのだと思う。



そんな中にあって、出す「必然性」が見えにくい本が2冊ある。『英文解釈教室入門編』と『英文解釈教室基礎編』である。





この本はそれぞれ「高1レベルから」「高2レベルからセンター試験レベル」と書いてあるので、それぞれの学年に合わせた『英文解釈教室』であることは間違いない。実際、雑誌連載時のタイトルは、それぞ「高1の英文解釈」「高2の英文解釈」だったので、その意図はあったのだろう。それを考慮すれば、「必然性が見えない」と言うと、言い過ぎに思えるかもしれない。



ただ、英文解釈においては、たしょう状況が違う。『ビジュアル英文解釈』まで進化した伊藤英文解釈が、この2冊で「後退」してしまっていると感じるからである。



ただし、『基礎編』については猶予できる面がある。と言うのは、この本は『ビジュアル英文解釈』と全く同じ構成であるものの、取り上げられている英文が、とりあえずセンター試験の長文問題に向いた癖のない英文に限定されているからである。



だから、「クラブ活動などで忙しく、大量の演習を必要とする『ビジュアル英文解釈』をじっくり腰を据えてやれない高校生が、比較的短期間で『ビジュアル英文解釈』をやるための本」と考えるとつじつまが合うからである。



たとえるなら、『英文解釈教室基礎編』は伊藤和夫というトップ予備校のトップ講師が偏差値60くらいの高校の教壇に立って、高2生の英文解釈の担当になったらどんなことを教えるだろうか」という実験なのである。



そして、この試みは伊藤先生の意図どおりに成果を出している。『ビジュアル英文解釈』や『英文解釈教室』ほどではないが、「(伊藤著参考書の基準で)そこそこの成果」の出る参考書として成功している。実際この参考書で、今の大学入試英語なら、ほんとどが対応可能である。



だからこそ、『基礎編』には「高2」という言葉が付して、高校でクラブ活動などをしながら現役合格を目指すような読者に限定しようと意図したのだろう。



さて、問題は『英文解釈教室入門編』である。





この本は品詞の判別をスタートにして、「英文の中で品詞を区別して、英語を正確に読めるようになる」という趣旨で貫徹している。つまり、学校英語プラスアルファを狙っており、「伊藤和夫的」ではないのである。



この参考書の特徴は、英和辞典の使い方を考慮している点だ。高校初期では基本単語がたくさん出てくる。基本単語では1つの単語に品詞が複数にまたがっている場合がよくある。だからこそ、品詞が区別できなければ正確な訳語にはたどり着けない。



そういった「辞書を引く高校生」をイメージしながら書かれて、それがあるから、よけいな贅肉のない伊藤節のなかにも、どこかやさしさがある。



ただし、私が「伊藤和夫的ではない」と言ったのは、そういったととは別のところにある。それは『英文解釈教室』と『ビジュアル英文解釈』を考えるとわかる。



『英文解釈教室』は、学習者の頭に「英語の読み方」というソフトをじーじーとインストールするような参考書である。ただし、情報が多すぎて、普通のパソコン(=学習者の頭)だと負荷かかかってハードディスクが熱くなり、ファンをフル回転させないとオーバーヒートして、途中で動かなくなることもある。もしかしたらコンピュータ自体すらダメにしかねないかもしれない(この参考書がトラウマになって英語が嫌いになった人もいるだろうから)。



『ビジュアル英文解釈』はゲームソフトを次々クリアしていると、いつの間にか英語の読み方が身についているような参考書である。ゲームをやっているほうは何を意図しているのかわからないのだが、作成者のほうは計算尽くでゲームを作っており、エンディングまでやれた学習者にはご褒美として「英語が読める」というエンドロールを用意している。それほど面白いゲームではないだろうが、とにかく最後までやれば、英語の読み方が自然と身につく、とてつもない完成度を持った参考書である。



どちらも、そういった「行くところまで行っている」という点では共通している。だからこそ、英文法を学んだ後に英語の読み方を学びたかったら、どちらかをやればじゅうぶんお釣りが来ると言い切れる。



余談だが、そのあいだに『ルールとパターンの英文解釈』という参考書が出ている。これは『英文解釈教室』ほどの強烈なルールの意識化はしてないが、最低限のルールを表に出してまとめており、ちょうど『英文解釈教室』と『ビジュアル英文解釈』の過渡期にあるような構成である。



この『ルールとパターンの英文解釈』は『ビジュアル英文解釈』のあとに出版されている。つまり、常に進化する「伊藤英語」の『英文解釈教室』→『ビジュアル英文解釈』のあとで、また『英文解釈教室』拠りに「後退」しているのである。



これには理由がある。『ルールとパターンの英文解釈』には、そのもとになったラジオ講座の原稿がある。その放送原稿が『ビジュアル英文解釈』より前に書かれていたからである。むしろラジオ講座の原稿を書くことによって、『ビジュアル英文解釈』の発想を得た面もあるまわけで、文字どおり進化の「過渡期」にある参考書だったわけだ。



こうやってみていくと、伊藤先生の英文解釈教室参考書は、ゼロからゴールまで「伊藤方式」で貫くことがキモとなっている。



それは予備校というところが、10か月という限られた期間で、大人が読むような英文に対処できる英語力を身につけさせなければならないという役割を、宿命的に持ち合わせていることもあるだろう。



とくに、伊藤先生の場合は、「受験が終わったら大学で原書を読めるようにする」ということを目指していたので、その点、全く妥協がない。ほとんどの塾・予備校や参考書がやっている「高校までの知識にプラスアルファとして、重要構文の見抜き方などの点数を取る技術(=受験テクニック)を教える」という発想がないのである。文法をやっている前提で、あくまでゼロから完成させていくというやり方なのである。



「学校英語を生かして学力を伸ばす」というやり方は、「伊藤和夫以前」はすべてそうだし、「伊藤和夫以後」もやはり主流である。たとえば「以前」の代表『新々英文解釈』(山貞)は、学校英語に「特殊構文の公式」をプラスしたものだし、たとえば「以後」の代表的な参考書である『英文読解の透視図』は、学校英語に河合塾流の「特殊構文のポイントと見抜き方」をプラスした参考書である。最近出版されている参考書はほぼすべてそうだ。



また、『入門編』は、「高校生の具体的なイメージ」が明確で「やさしさ」を持ち合わせているぶん、到達度が中途半端である。「大学入試にはまだ対応できないが、高校の教科書は辞書があれば読めるようになる」といった程度の、本当に高校生の基礎力をつけるくらいのレベルである。



伊藤先生が戦場としてきた「予備校」が、この本からは排除されて、極論を言えば、「大学受験参考書」ですらない。



では、伊藤和夫はなぜ晩年になって、わざわざ「その他大勢」と同じやり方を、よりによって『ビジュアル英文解釈』のあとにやったのだろうか。



続きます。



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