『そして日本経済が世界の希望になる』(ポール・クルーグマン著)の感想 | 真面目に脱線話@リンガランド英語塾

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英語や芸能など、思いついたことを適当に書いていくという、そういうブログです。

本ブログを始めたときは、「日本は世界の中でも最もイメージが良い国」「日本文化は日本人が思っているより注目されている」と何度も言ってきたが、最近は逆にそういったタイプの情報が数多く伝えられるようになり、本やテレビなど「日本はすばらしい」と言ったものをよく目にするようになった。



以前は海外の反応をメディア以外から知るのは難しかったが、最近はYouTubeなどを通じてダイレクトに海外の一般の声が聞けるようになった。だから、日本がどう思われているかといった情報は、たいへん得やすくなっている。



日本人は「ニッポン大好き!」という言葉を、カタコトの日本語で聞くのが理屈抜きで好きなんだと思う。外国人にどう見られているかに高い関心があり、外へのイメージを良くするためにさらに努力するというのは、日本人にとっては自然なことであると同時に、卑屈な印象もないではない。それを美点と見るか、欠点と見るかは見る人の気持ちしだいだ。



『そして日本経済が世界の希望になる』というタイトルを書店で見たときに最初に頭に浮かんだのは、上に書いたようなことだ。



ただ、「クルーグマン」の名前を見るととりあえず飛びつくような読者には、さほど違和感はないのかもしれない。この経済学者の主張がいつも明快で一貫しており、その明晰な頭脳で白川総裁までの日銀の政策を痛烈に批判し、アベノミクスへの支持をいち早く表明していたかである。


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2008年にノーベル経済学賞を受賞したポール・クルーグマンのこれまで出してきた本を読んできた人や、『ニューヨーク・タイムズ』紙に連載されているエッセイを読んでいる人には、本書には新しい情報はあまりない。



なお、このコラムは『ニューヨーク・タイムズ』紙のサイトでブログとして読める。書くたびに世界のエコノミストはもちろんのこと、世界各国の経済政策にも大きな影響を与えている(→外部記事リンク)。



本ブログでも、以前、オバマケアに関することでクルーグマンのブログを取り上げたことがある(→過去ログ)。



本書は訳者の大野和基氏がおこなったクルーグマンへのロングインタビューを基に、1冊にまとめたもので、クルーグマンの著書の翻訳ではない。だから正直言って内容は薄く広く、経済新聞をしっかり読んでいる読者には既知の内容が多いだろう。



だが、クルーグマンの日本経済に関する見解をまとめてざっと読んでおきたいという読者にはちょうどよいものだ。経済について自信がないけれどもアベノミクスによって日本経済がどうなるかを知りたい読者にもいいかもしれない(そういう方は、巻末の山形浩生氏の解説を先に読んでおくといいだろう)。



本書の主張も明快そのものである。「とっとと思い切った金融緩和をして、不況なんて乗り越えてしまえ」ということである。


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日本経済はいくら金利を下げてもお金を借りてくれないという「流動性の罠」という状態に陥っている。その状態では金利を下げてお金を借りさせて投資を増やすという伝統的な金融政策は効かない。だから、伝統的ではない方法をとるしかない。



まずは日銀がお金を増やすことだ。国債などの債権や株式などの証券をどんどん買い取ってお金を増やす。だが、それだけでは投資しようとする人はなかなか増えない。そこで、「2年後までに毎年2%のインフレにします」という目標を明示し、公共投資を増やして(本当は減税もやったほうがいい)景気を刺激していくわけである。



なぜこんなことが必要かというと、「物価が上がるぞ」という期待を盛り上げるためである。



たとえば、「このマンションを買ったら、災害による破損などなければ、10年後に20%値上がりします」と国が保証してくれたら、そのマンションを欲しいと思う人は、そうでないときよりかなり増えるはずだ(100×1.02^10=121.8)。



「これからは物価が上がるぞ!」と思えば、「ほしい物は今のうちに買っておこう」となる。そうやってインフレ期待を高めて貯金より投資や消費を増やそうとするのが、「期待に働きかける」という政策である。



この「先は物価が上がる」という期待がないと、どんな政策をやっても効果が上がらない。たとえば、法人税を減らしても企業は内部留保にしてしまうし、子ども手当を出してもそのぶんを節約して将来のために貯金するし、富裕層の減税をやってもマネーゲームが加熱してリーマンショックのようなバブルが起こるといったようになってしまう。



そんな中、デフレ期でも効果があるのはゆいいつ着実にお金がつぎ込まれる公共投資だ。だから、できるだけ波及効果の高い公共投資をやるしかない。だが、デフレ期に公共投資をやっても、これまでの日本経済を見てもわかるように波及効果は長続きしない。



そこで、「インフレ期待」のための方策と、公共投資や成長戦略などの経済活性化の両方をやるというのがクルーグマンがさんざん主張してきたデフレのための処方箋である。


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このクルーグマンの主張に沿って実行されているのがアベノミクスである。だから、クルーグマンが絶賛するのは当然だ。自分の理論を日本という国家を使って証明しようとしてくれているようなものだからである。それであればクルーグマンがアベノミクスにくわしいのも当然で、アベノミクスの意義と今後を知るには、とりあえずクルーグマンの意見を聞くというのは正しい。



なお、本書のタイトルは『そして日本経済が世界の希望になる』の「そして」の前には「日本経済は復活する」が置かれるべきなのだろう(「そして」の前の省略は、そこに置くべき表現について読み手にいろんな可能性を与え独特の余韻が生じる効果があるので、日本語ではタイトルや物語などでも頻繁に使用される。そう言えば、ビートルズにAnd I Love Herという曲が)。



「1ドル50円になる」とさんざん煽っておきながら大きく予測を外し、今も懲りずにアベノミクスを「バカノミクス」な呼ぶような人は全面的に信頼しないほうがいいと思う(悪いのは予想を外したことでなく、ちゃんとした肩書きのある専門家が外した予想を総括することもなく、根拠薄弱なまま次の悪口に移っている点だ)。



『そして日本経済が世界の希望になる』というタイトルは、非伝統的な政策であるアベノミクスが成功すれば、今後同じ状況に陥った国に大きなロールモデルになることだ。相当に派手なタイトルではあるが、アベノミクスの成功を確信しているクルーグマンだから決して誇張ではない。



本書には最後におもしろい章がある。それは第5章、「10年後の世界経済はこう変わる」である。「ネタバレ」になるので書かないが、「へー、なるほど」と思ったことがいくつかあった。



とくに印象のあるのは第5章のしめくくりにある「英語はグローバル世界への入り口だ」というところだ。3ページくらいのごく短い文章だが、「ドル=グローバル言語」と同じように「英語=グローバル言語」だから、英語教育が大事だと述べている。



これは世界中を講演しているクルーグマン自身が、外国語ができなくても世界最高峰の経済学者として困ったことがないことから主張である。ことビジネスの観点から見ればクルーグマンの主張は妥当だろう。


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クルーグマンは経済以外でもこういったコメントをすることがわりとある。「IT革命」が起こったときも「ITの社会に与えるインパクトは、FAXが社会に与えたときと同じくらい」と言って、その「革命性」をたしなめたこともある。



経済以外の分析力はその程度である。でも、けっこう影響力があったりする。チョムスキー大先生の経済学者版というのが個人的な印象。




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本書がなぜ今の日本に必要なのかを書きました。ぜひご参照ください(→過去ログ)。