最近、オバマ大統領の医療保険改革(オバマケア)のことが話題にならなくなった。来年の大統領選挙ではおそらくまたクローズアップされるだろうが、その前に自分が考えるところを述べたい。
医療保険改革はオバマ大統領の就任時のもっとも大事な政策のひとつである。アメリカ国民全員に保険の加入を義務づけ、所得の少ない層には国から補助を出すというものだ。
アメリカには高齢者と身障者向け保険(メディケア)と低所得者向け(メディケイド)の2つの公的保険はあった。それ以外の人たちは自分で民間保険に入らなければならない。
大企業社員なら会社から半分以上の補助が出るが、中小企業だと全く出ないところも少なくない。
そのため、保険料が納められず保険に入っていない国民が6分の1にものぼるといわれた。一説には、年間十数万人の無保険者が病院にかかれず命を落としているという。
この状況をなんとかしようとしたのがオバマ大統領だ。この政策は「オバマケア」と呼ばれて、富裕層を中心に徹底的に叩かれた。というのも、この制度には、医療組織のコスト削減とともに、富裕層への増税を含んでいたからである。
しかし、富裕層の中でも高齢者はもちろん公的保険が下りる。公務員や教員もそう。かなりの人数がすでに公的保険の恩恵にあずかっているわけだが、それに、あと6分の1をなんとかしようとしたわけである。
びっくりしたのは、茶会党、共和党はともかく、The Wall Street Journalをはじめとする大マスコミ、経済人、評論家などがこぞってオバマケアに大反対したことである。
この「ネガティブ・キャンペーン」は功を奏し、オバマ大統領の支持率は暴落して、民主党は大敗を喫してしまう。
いや、本当にびっくりしたのはそこではない。あれほどオバマ大統領に熱狂した日本人が、民主党が中間選挙で負けるとこぞってオバマ批判にまわったことである。オバマケアについても、否定的な意見ばかりになった。
日本人は国民皆保険でその恩恵を預かっているのに、である。「持ち上げたあとで落とす」というのは日本人だけの特徴ではないが、まるでアメリカ人の富裕層になったつもりで論を張る人が次々現れたのはあきれるしかない。
オバマケアの実現は無理ではないかと多くの人が思ったが、オバマ大統領は不屈の人である。妥協も見せながら押すところは押し、ついに強行突破し、法案が2009年に通過した。
言うまでもないが、やはり並の人物ではない。ちょうど麻生→鳩山→菅と首相がころころ替わった時期だったこともあるのかもしれないが、日米の人物の差を感じた。
ただ、法案が通ってからも「いばらの道」である。この制度は憲法違反ではないかと次々と州裁判所に訴えられたのである。
一部では負けてしまったものの、主立った裁判所では勝利をもぎ取っている。最高裁ではどうなるだろうか。
ところで、今月、Congressional Budget Office(議会予算局)が、医療費と教育費について今後の見通しを発表した(→外部記事リンク)。議会予算局は中立的な立場からアメリカ議会を補佐する機関である(→関連PFDファイル)。
リンク先のPDFファイルの5ページ(Table 1)がわかりやすい。赤字幅がこれまでより大きく減る見込みなのである。
つまり、国民皆保険を実現しながら、赤字幅も削減できそうなのだ。
ノーベル経済学賞を受賞したクルーグマン氏が述べているとおり(→外部記事リンク)、これまで反対派がいろんな資料を出してきたが、そういったものはすべてでっち上げだったわけである。
ちなみに、クルーグマン氏もThe New York Timesに寄稿している上記ブログで、「オバマケアは正しいと主張すると、否定的なコメントがわんさか来る」と述べている。日本に限らず、またアメリカに限らず、弱者を救済する制度を頭から嫌う人がよほど多いのだろうか。
なお、上の本は経済学の知識がなくてもわかるようにと書かれたクルーグマン氏の入門書。くだけすぎた訳に賛否があるようだが、少なくとも元の本は名著である(→アマゾンへ)。
2012年の大統領選挙ではオバマ大統領は苦戦するだろうと言われているのだが、私はオバマ大統領の勝利を確信している。少なくともそれがアメリカにとって賢明な選択であるはずだ。
それにしても驚くのは、どんなデータでも速やかにまとめすぐに公開するアメリカの能力とオープンさだ。放射性物質汚染やSPEEDのデータを隠蔽し、核爆発を水素爆発とごまかし、「直ちに影響はない」とウソを言い続けたどこかの政府とは大違いである。

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