書評『東大入試問題に隠されたメッセージを読み解く』(大島保彦著) | 真面目に脱線話@リンガランド英語塾

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今回紹介する『東大入試問題に隠されたメッセージを読み解く』(産経新聞出版刊)の著者である大島保彦(おおしま・やすひこ)氏は駿台予備学校の英語科講師。筆者の主催する英語学習メルマガ『リンガランド英語塾』でも「英語の道しるべ」という語源の連載を寄稿していただいているので、メルマガの読者はもうご存じだろう。



大島氏の授業は単なる受験情報にどとまらず、ラテン語やドイツ語をはじめとするいくつものヨーロッパ系言語に対する圧倒的な知識に裏づけされており、厚みがある。



私も評判を聞いてSallyさんと大島氏の授業を数年前に見学させていだいたことがある(あるルートを通じてお願いしてなんとか叶ったものだが、先生ご自身はとってもフレンドリーである)。



通常の必修授業であるにもかかわらず、地表から一層も二層もまっすぐに掘り進んだわかりやすい解説には、文字どおり度肝を抜かれた。噂に聞いていた以上である。



しかも大島氏の話は語学にとまらず数学、科学、歴史などあらゆる科目におよび、無味乾燥になりがちな語学の授業に1つの物語性を付与して、まるで音楽のようなうねりを生み出しながら、「大島師の授業」という1つの「作品」になっていく。



すこしオーバーに響くかもしれないが、たとえるならそんな言い方をしたくなるような、点と点を結んで満足するような通常の「すばらしい授業」の枠をはるかに超える水準なのである。



授業のあと同じく大きな感銘を受けたSallyさんとも話し合い、受験生だけでなくもっと広く情報を発信すべきではないかと考え、思い切ってメルマガの執筆をお願いすることになった。


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その大島氏が先月出版したのが、この『東大入試問題に隠されたメッセージを読み解く』である。発売日にはすでに入手したのであるが、読むべき本がたまっていたために気になっていたのになかなか読み出せずにいた。



先週、風邪で寝込んだのをきっかけに一気に読んでしまった。



本書は一流の予備校講師、しかもおそらく日本中探しても、おそらく大島保彦氏にしか書けない本である。



なぜなら、本書を執筆するには、東京大学の入試出題者と試験問題を通して対等にコミュニケーションできる能力があり、その意図を濁りのない目でくみ取り、かつ東大が出題するあらゆる教科に精通していなければならないからである。



おそらく他教科講師の力も借りているのかもしれないが、それにしてもあらゆる教科にわたりわかりやすい批評を、しかも知的なバックグラウンドからできる人は大島氏しか考えられない。



では、東大の出題意図を読み取るという作業にどんな意味があるのだろうか。



それは日本のトップの知能のである出題者たちが受験生に何をやってほしいのかはもちろんだが、どんな人材を求めていて、どういったことに価値を置いているのかがわかることだ。



言い換えると、東大入試は東大教師陣が若者に向けたメッセージだと言える。ただ、本人たちもつかみえないその全体像を知るには、1人の希有な予備校講師が必要だったのである。


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本書は、東大入試の各教科から具体的な1問を引用し、そこから出題者が何を問うているかを解説している。その繰り返しのなかで徐々にその全体像が明らかにされ、最後に東大の求める人物像を構築する。



そこからわかるのは、東大が「日本の不動のトップ」といった余裕のある立場から人材を求めているのではなく、「世界のワノブゼム」の立場から日本をもっと高みに導くために必要な人材として東大生を募っていることだ。



受験生が苦しんでいるように、東大も苦しんでいる。秋入学導入という苦渋の決断をしたのはその象徴だろう。



1997年のワールドカップサッカーで交替を強いられた三浦知良選手は「この俺を替えるのか!」というジェスチャーをして日本中から冷笑されてしまう。だが、大島氏はこの態度を好意的に見て、暗に「若者よ、カズのように生きろ」と言う。



東大の産みの苦しみは多様性が拡げるクリエイティビティを高めるためである。本書を読むことで、これからの時代において「本当に頭が良いとはどういうことなのか」という古くて新しい問題の1つの糸口が見えてくる。



大島氏の最大の特徴はネガティブな要素がみじんもないことである。どんな対象からもプラス面を見つけ、それを自らの宇宙に音楽的に組み入れ、それを1つの交響曲にまとめ上げていくような心地よさがある。



本書は受験指導の偉大なマエストロである大島氏の指導のあり方を体現した好著だ。



【書籍情報】
※画像がアマゾンにリンクされています。

書名: 東大入試問題に隠されたメッセージを読み解く
著者: 大島 保彦
発売: 日本工業新聞社
発行: 産経新聞出版
発売日: 2013年1月16日(発売中)
定価: 1365円
頁数: 208ページ

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【目次】

まえがき
第1章 東大入試問題の面白さ
 東大合格者の英語の語彙量は少ない
 もし倍の時間があれば・・・
 東大と京大の違い
 教養学部に入学する
第2章 東大入試問題の主張
 円周率は3じゃない!
 蓮舫発言への反論?
 東大の危機感
 なぜ文系に数学を出題するのか
 語彙数よりも大切なもの
 こんなにも書き換えている
 東大が好む英単語
 同じ問題を出した訳
第3章 東大入試問題が求める受験生
 「ないもの」に気づく力
 間接証拠を積み重ねる
 世界はアメリカだけではない
 歴史を俯瞰する能力
 入試問題は授業である
 こんな問題でも十分点差がつく
 縦軸と横軸で考える
第4章 東大に入るための思考法
 総合学力と表現力
 肖像画に書かれているのは誰か?
 なぜ三角形を書いてしまうのか
 植木算と方程式の違い
 東大合格生のノート?なんてものはいらない
 「目的思考型」と「ネットワーク型」
第5章 東大生が育つ家庭とは
 どれだけ夢中に遊んだか
 医者に向いている人
 この続きは英語だとどうなるのか
 親の料理が語るもの
 最大の親子喧嘩をすべき
 親が弱みを見せてもいい
第6章 東大が望む人材像
 東大卒は使えないのか
 フォワードを作れるか
 「勉強」とは何か
 秋入学は危機感の表れ
 東大力とは「包容力」である
あとがき



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