筆者は『内向型人間の時代』のスーザン・ケインさんとともに「時の人」となっている組織心理学のアダム・グラント氏です。
If I asked you to judge how smart someone is, you'd know where to start. But if you were going to assess how wise that person is, what qualities would you consider?
「人がどれくらい頭が良いか判断せよと言われたら、まずどう考えればいいかはわかるだろうが、その人がどれくらい賢いかを評価せよと言われたら、どの資質について考えればいいのだろうか」
アダム・グラント氏はまだ30代ながら、ペンシルバニア大学教授に就き、世界の名門企業に教えを請われている大変な秀才です。この問題設定の秀逸さを見ても、その片鱗はわかってもらえるのではないでしょうか。
スマートさ=「頭の良さ」ならペーパーテストではかれます。でも、ワイズさ=「賢さ」は普通のペーパーテストではかることなどできません。そもそも「賢さ」という尺度の定義が曖昧なので、どんな説明でも可能です。
そこで、筆者は賢さが人間の「資質」のどれに当たるかに絞って問題設定したわけです。
Wisdom is the ability to make sound judgments and choices based on experience. It's a virtue according to every great philosophical and religious tradition, from Aristotle to Confucius and Christianity to Judaism, Islam to Buddhism, and Taoism to Hinduism. According to the book From Smart to Wise, wisdom distinguishes great leaders from the rest of the pack. So what does it take to cultivate wisdom?
「賢さとは、バランスのとれた判断や選択を経験からおこなう力のことだ。アリストテレスから孔子やキリスト教、ユダヤ教、イスラム教、仏教、道教、ヒンドゥー教に至るまであらゆる偉大な哲学や宗教の伝統に従えば、それは1つの価値である。頭の良さと賢さまでに関わる本に従えば、智恵の有無で偉大なリーダーとそれ以外が峻別される。だったら、智恵をつけるにはどうすればいいのだろうか」
筆者は「賢さ」を「経験を元にして、健全な判断や選択ができること」だと定義づけしています。よく検証しなければなりませんが、「なるほど」と思う人も多いでしょう。
また、宗教や哲学も共通のテーマとして「人間はいかにすれば賢くなれるか」を一生懸命に考えてきたと言います。
キリスト教などの世界宗教は、人間の価値観の共有に役立ってきました。そこでは、「神に愛される人間=賢い人間」という図式が常に生まれます。そうすると、世界宗教における賢さは、ほぼ倫理と同義だと見てもいいのかもしれません。
In an enlightening study led by psychologists Paul Baltes and Ursula Staudinger, a group of leading journalists nominated public figures who stood out as wise. The researchers narrowed the original list down to a core set of people who were widely viewed as possessing wisdom-an accomplished group of civic leaders, theologians, scientists, and cultural icons. They compared these wise people with a control group of professionals who were successful but not nominated as wise (including lawyers, doctors, teachers, scientists, and managers).
「心理学者のポール・バルツとウーシャラ・ストディンガーが進めた啓蒙的な研究で、トップクラスのジャーナリストたちに賢さで際だつ有名人の名前を挙げてもらったことがある。2人は最初のリストを、智恵のある人だと広く認められている集団としてぎりぎりまで絞りこんだ。できたリストには市民リーダー、神学者、科学者、文化人などがいた。彼らはこれらの賢者たちを、法律家、医者、教師、科学者、経営者など成功しているが、賢者にはあげられなかった職業の人たちを対象グループとして比較した」
「明らかに智恵のある人たち」と「智恵があるとは見られていない成功者」とを比較してみたということです。さて、どうなったのでしょうか。
Both groups answered questions that gave them a chance to demonstrate their wisdom. For example, what advice would they give to a widowed mother facing a choice between shutting down her business and supporting her son and grandchildren? How would they respond to a call from a severely depressed friend? A panel of experts evaluated their answers, and the results-along with several follow-up studies-reveal six insights about what differentiates wise people from the rest of us.
「どちらのグループにも、その人の智恵が現れる余地がある質問に答えてもらった。たとえば、ビジネスを辞めて息子や孫の世話をするかどうかに悩んでいるシングルマザーに対してどんなアドバイスをするか。深刻に悩んでいる友達からの電話にどう答えるか。専門家たちに回答を評価してもらうと、その結果、賢者とそうではない人を分けることに関して6つの洞察があることが明らかになった。また追試でもそれは確かめられた」
学校のペーパーテストのような問題ではなく、答えがなくて常識に流されそうな質問をして、「智恵」を測ってみたということでしょう。そうしたら、6つの点で智恵のある人に優位な資質が見つかったようです。
その6つの資質とはどんなものでしょうか。
1. Don't wait until you're older and smarter. The people with the highest wisdom scores are just as likely to be 30 as 60. It turns out that the number of life experiences has little to do with the quality of those experiences. According to the data, between ages 25 to 75, the correlation between age and wisdom is zero. Wisdom emerges not from experience itself, but rather from reflecting thoughtfully on the lessons gained from experience. Further research shows that intelligence only accounts for about 2% of the variance in wisdom. It's possible to be quick on your feet and skilled in processing complex information without reaching sensible solutions to problems. Cultivating wisdom is a deliberate choice that people can make regardless of age and intelligence. Here's how they do it.
「年をとって知識が増えるまで待たないこと。智恵について高いスコアを出したのは、30歳でも60歳でも可能性に変わりはない。人生経験の長さはそういった経験の質とはほとんど関係がないとわかった。データに従えば、25歳から70歳までのあいだ、年齢や智恵との相関関係は皆無だった。智恵は純粋に経験ではなく、経験から得られた教訓を思慮深く反省することから生じる。課題に対する懸命な解決法を見つけられないで、即座に取りかかって複雑な情報を処理するのに長けることは可能である。知恵をつけることは、年齢や知能とは無関係にできる意図的な選択だ。次に彼らのやり方を紹介する」
最初に紹介されたのは、賢さとは無関係な資質である「年齢」です。年をとるとそれだけ経験が増えて知恵もつきそうなものですが、そうではないと筆者は言います。若くても智恵のある人もいれば、年をとっても普通の若者より智恵が足りない者もいるというわけです。
2. See the world in shades of grey, not black and white. Imagine meeting a 15-year-old girl who plans to get married next week. What would you tell her?
「世間を白黒はっきりさせるのではなく、灰色の濃淡として見よう。来週結婚しようとしている15歳の女の子に会うことになったとしよう。何と声を掛けるだろうか」
次に「思考パターン」を挙げています。「Aの行動は正しい」「いや、間違っている」などといった見方ではなく、「Aの行動の良い点は○○、悪い点は○○、総合すると○○」といった見方をせよというわけです。
その実例を知るために、結婚しようとしている15歳の女の子に何と声を掛けて思いとどまらせるかと問うています。
まず、低スコアの回答から。
"A 15-year-old girl wants to get married? No, no way, marrying at age 15 would be utterly wrong. One has to tell the girl that marriage is not possible. (After further probing) It would be irresponsible to support such an idea. No, this is just a crazy idea."
「15歳の女の子が結婚だって? 絶対ダメだ。15歳で結婚するなんて大間違いだよ。そんな子には結婚は不可能だと言うしかないね。(さらに話したあとで)そんな考えを支持するのは無責任だよ。いや、こんなの単なる狂った考え方だよ」
「常識」から頭ごなしに否定にかかっています。一般常識に合っていないことは当の本人も知っているでしょうから、これでは説得するどころか、反発を招きます。
では、高スコアをマークしたのはどんな回答でしょうか。
"Well, on the surface, this seems like an easy problem. On average, marriage for 15-yearold girls is not a good thing. But there are situations where the average case does not fit. Perhaps in this instance, special life circumstances are involved, such that the girl has a terminal illness. Or the girl has just lost her parents. And also, this girl may live in another culture or historical period. Perhaps she was raised with a value system different from ours. In addition, one has to think about adequate ways of talking with the girl and to consider her emotional state."
「そうだなあ、見た感じではこれは簡単な問題のように思えるね。平均的に言えば、15歳の女の子の結婚は良いことではないよ。でも、平均的なことが当てはまらない状況もある。この例だと、たぶん特別な生活環境が関係しているんだろう。たとえばその子は不治の病だとか、親がいないとか、あるいはこの子が暮らしている文化圏や時代が私たちと違うとかね。たぶんその子は私たちとは違った価値観で育ったんだろう。ついでに、その子とうまく話す方法を考えて、精神状態を考慮しないといけないね」
つまり、自分たちの常識をもっと拡大して相対化したわけです。「君のやっていることはある社会では受け入れられるが、私たちの社会では受け入れられないものだ」と言って、もっと成熟した考え方をするように促したわけです。これはうまい。
Wise people specialize in what strategy expert Roger Martin calls integrative thinking-"the capacity to hold two diametrically opposing ideas in their heads"-and reconcile them for the situation at hand. In the words of the philosopher Bertrand Russell, "fools and fanatics are always so certain of themselves, but wiser people so full of doubts."
「賢い人々は、戦略論研究家のロジャー・マーティンが統合的思考と名づけた、正反対の考えを頭の中に保持する能力に長けていて、目前の状況に合わせて両者を融合させている。哲学者バートランド・ラッセルの言葉では、『バカと狂信者はいつも自分に自信があり、賢い人々はいつも自分を疑っている』とある」
インテグラル・シンキング(統合的思考)とは、内面と外界、個と集団という、一見無関係にバラバラに存在する情報をつないで関連づけていくような考え方です。ラッセルの言葉は、「自分の内面を疑わずに、その場その場で思ったとおりに考え行動する者はバカだ」ということです。
相手のことが間違っていると思っても、その「間違い」という判断は自分の内面のどこから来ているのか、むしろ間違っているのは自分ではないかなどと、賢い人は「自分」を疑うことから考え始めていると指摘してます。
3. Balance self-interest and the common good. A second defining quality of wisdom is the ability to look beyond our personal desires. As psychologist Robert Sternberg puts it: "wisdom and egocentricity are incompatible… people who have gotten where they are by not taking other people's interests into account or even by actively thwarting the interests of others… would not be viewed as wise."
「利益と公益のバランスをとろう。智恵という資質の2番目の定義は、個人的な欲望を超えて見られる能力である。心理学者のロバート・スターンバーグがこう言っている。『智恵とエゴは両立しない。他者の利益を考慮せず、いやそれどころか他人の利益を積極的に邪魔することで自分の位置を決める人は、賢者とは認められないだろう』と」
いわゆる「利他」のことです。こういったことを言うと「自己犠牲的」という言葉を使いたくなりますが、そうではありません。自分の利益ばかり考えたり、他人のことばりにかまけてばかりといった極端さは、不健全だと筆者は言いたいのです。
賢い人は「ゼロサム(ある人が得すると、誰かが損をしている、といった考え方)」や「勝ち組負け組」志向を信用しておらず、つねにウィンウィンの関係であろうとします。他人を損させても自分が得を取るのではなく、まずは相手に得をしてもらって、自分はついでに得したらいいといった態度こそが「賢さ」だというわけです。
4. Challenge the status quo. Wise people are willing to question rules. Instead of accepting things as they have always been, wisdom involves asking whether there's a better path. In Practical Wisdom, psychologist Barry Schwartz and political scientist Kenneth Sharpe describe a Philadelphia man who was convicted of holding up a taxi driver with a gun. The sentencing guidelines called for two to five years in jail, but the facts of case didn't fit: the man used a toy gun, it was his first offense, he had just lost his job, and he stole $50 to support his family. A wise judge gave him a shorter sentence and permission to hold a job outside of jail during the day so that he could take care of his family-and required him to repay the $50.
「現状を打破しよう。賢い人はルールを疑おうとするものです。ずっとそうであったからと受け入れるのではなく、もっと良い方法はないかと問うことも智恵の一部です。心理学者バリー・シュワルツと政治学者のケネス・シャープの書いた『Practical Wisdom』には、タクシー運転手を銃で脅したフィラデルフィア出身の男のことが書いてある。それまでのガイドラインでは2年から5年の服役が求められるが、この事件の真相には当てはまらなかった。男の使った銃はおもちゃであり、まだ初犯で、失業したたばかりで、50ドルを奪ったのは家族を支えるためだったからだ。裁判官は賢明にも刑期を短縮して、家族の面倒がみられるように刑務所を出たら仕事を持つ許可を出した。そして、彼には罰金50ドルが科せられた」
常に現状を疑うという「懐疑」です。「答えはいつもルールに従って出せばいい」いうのなら、優秀な人材を使う必要などありません。過去の事例を探して、そこで使われたルールを当てはめればいいからです。
でも、それは賢い人のあるべき態度ではありません。常に現状に疑問を持ち、何か変えるべき点がないかを考えなければならないというわけです。
5. Aim to understand, rather than judge. By default, many of us operate like jurors, passing judgment on the actions of others so that we can sort them into categories of good and bad. Wise people resist this impulse, operating more like detectives whose goal is to explain other people's behaviors. As psychologist Ellen Langer is fond of saying, "Behavior makes sense from the actors' perspective, or else they wouldn't do it." Over time, this emphasis on understanding rather than evaluating yields an advantage in predicting others' actions, enabling wise people to offer better advice to others and make better choices themselves.
「判断ではなく理解しよう。他人の行為を良し悪しでより分けられるように、何もしない状態では裁判官のように行動して他人の行為を判断してしまう人が多い。賢い人はそういった衝動を抑えて、他人の態度を説明するのが目的である探偵のように行動する。心理学者エレン・ランガーは「行為が意味を持つのは行動する者の見方からであって、そうでなければ意味などない」と好んで言った。評価でなく理解を強調しているこの見方によって、他人の行動を予見するのに有利に働き、賢い人が他人にアドバイスしたり、自分でもより良い選択ができるようになる」
「自制」ですね。「ダメだよ、そんなんじゃ」と最初に判断してしまうと、その人の行為の目的も意義も長所もわからなくなります。「ダメ」と決めた時点で、その行為のダメなところしか見えなくなります。
そうではなく、いったん判断を保留して「やった理由」「意図」「目的」などを理解していくと、その行為の本当の姿が見えてきます。それができれば、来るべき「次」もわかってきます。
判断は最後でいいし、なんなら判断なんてしなくてもいいのかもしれません。
6. Focus on purpose over pleasure. In one surprising study, Baltes' team discovered that wise people weren't any happier than their peers. They didn't experience more positive emotions, perhaps because wisdom requires critical self-reflection and a long-term view. They recognized that just as today's cloud can have a silver lining tomorrow, tomorrow's silver lining can become next month's suffering. However, there was a clear psychological benefit of wisdom: a stronger sense of purpose in life. From time to time, wisdom may involve putting what makes us happy on the back burner in our quest for meaning and significance.
「楽しみながら目標に集中しよう。ある驚くべき研究でバルターのチームが発見したのは、賢い人は自分の仲間たちより幸福度が低かったということだ。ポジティブな感情になりにくいのは、おそらく智恵には厳しい自省と長期的視野が必要だからだろう。今日曇っていても明日は光明が差し、明日の光明は翌月の土砂降りになることもあると知っている。だが、智恵には心理学的には明らかに得なことがある。人生に大きな目標があると意識できることだ。智恵があると、意味や意義を追求して、自分が幸せになるためのことを後回しにすることもありうる」
「視野の広さ」です。「智恵がある=幸福である」は成立しません。むしろ「そんなのダメだよ」と言って何でも否定しているくらいのほうが幸せかもしれません。悩む必要がないし、そもそもいつも高見に立って「上から目線」で人を見下し、わざわざ「自分を疑う」というしんどい作業をしなくてもいいからです。
でも、そこには目標がありません。「自分が傷つかないようにする」という一貫した行動原理はありますが、それは目標ではなく「癖」です。向上や改善などはありえないことです。
「目標」に共通するのは、何についても「より良くしよう」ということです。とくに、「自分をより良くしよう」というのが賢者の目標です。その目標のためには、いつも自分の正しさを疑い、判断を疑い、信念を疑わなければなりません。
それを楽しんでできるようにできれば、その人は「賢者」と呼ばれるでしょう。そのレベルのことは私にはわかりませんが、たぶんそうです。たぶん。

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