でも、どうしようもない時期はなんとか過ぎたようで、夕方の上映で、薬を飲んで、花粉よけの軟膏を鼻に塗り、マスクをがっちりすればなんとか見られるくらいにはなりました。
そこまでして見なければいけないのかという気もしますが、アカデミー賞の最有力と言われた『ソーシャル・ネットワーク』を押しのけてアカデミー賞作品賞をもぎ取った『英国王のスピーチ』がどうしても見たかったのです。
さっそく上映時間5分前に近所のシネコンに着くと、なんとソールドアウト! しかたないので、翌日のぶんを買って、その日は3D映画の『ナルニア国物語3』を見ました(こちらは親子で見る良くできたファンタジーという感じですが、残念ながらロマンティストでない私向きではありませんでした)。
前置きが長くなりましたが、というわけで、やっと『英国王のスピーチ』を見ることができました。
『ソーシャル・ネットワーク』についてはすでに映画評を書いたとおり(→過去ログ)、アメリカのエリート層の「今」をみごとに切り取ったすばらしい作品でした。『英国王のスピーチ』がアカデミー賞の作品賞をとったとき「選考委員はイギリス物びいきすぎる」などの意見も出ていましたが、実際に見ると『英国王のスピーチ』のほうが上だと私も思いました。
あらすじは単純です。第二次大戦前のイギリスで、言葉につまる吃音(きつおん)に苦しむジョージ5世の次男アルバート王子が、その症状と戦いながら、ついに王(ジョージ6世)となって大英帝国国民に向けてスピーチをするというお話です。
歴史物を見るときは多少の背景知識が必要ですが、この作品については歴史が得意でない方も心配ご無用。
ヒットラー率いるナチスドイツに対して、イギリスが最初に宥和政策をとって、それが情勢を悪化させ、ついに全面対決するということだけ知っていれば十分でしょう。ついでに、首相がボールドウィン(宥和政策)→チェンバレン(宥和政策失敗・開戦するも劣勢)→チャーチル(勝利)と変わったことを知っていると、さらに楽しめるます。本当にこれだけ。
冒頭はアルバート王子が大英帝国博覧会閉会式に欠席した王の代読をするシーンです。吃音症に悩む王子はほとんどまともに原稿を読むことができず、聴衆にいたたまれない思いを与えてしまいます。彼を励ましつづける妻のエリザベス妃も落胆の涙を落としてしまいました。
エリザベス妃は王子の吃音をなんとかしようと、オーストラリア出身の言語聴覚士ライオネル・ローグのもとを訪れます。彼は独自の変わった治療法で知られていましたが、エリザベス妃は彼ならなんとかしてくれるかもしれないと思い、アルバート王子を連れて行ていくことにします。
ローグは評判どおりの変わり者で、アルバートを王子だと知っても特別扱いしません。そのため、王子は治療の途中、ローグの粗野な物言いについにキレます。でも、自分にはローグしかないと思い、最後は治療法を受け入れることにしました。言葉を歌にのせたり、途中でf**kなどの下品な言葉を交えるなどのめちゃくちゃな方法は、着実に効果を上げていきます。
国際情勢が不穏にうずまいていく中、王である父親が亡くなり、王座は兄のものに。
ところが、彼は離婚歴のある女性との結婚をあきらめず、王家周囲は大混乱を来します。アルバート王子のことを高く買っていたローグは王座を継ぐことをすすめますが、王子はこの「属国出身の平民」の差し出がましさにキレて、ついに彼の元を去ります。王家の混乱で忙殺されたこともあって、わざわざ謝罪に訪れたローグにアルバート王子は会おうともしませんでした。
結局、兄は離婚歴のある女性との結婚をあきらめず、アルバート王子はやむをえず王になることを承諾します。ところが、その最初のスピーチに失敗し、ジョージ6世となったアルバートはふたたびローグを頼ります。ふたりのあいだにはホンモノの友情が芽生えます。
ところが、ローグを重用しすぎる王子に不安な取り巻きが、ローグが無免許で何の業績もないもぐり療法士であることをつきとめ、王子に伝えます。アルバートは彼へ失望。ローグはふたたび信頼を失いますが、「自分には戦争で得た経験がある。それこそが治療法の源」と力説。王子は最後は彼を信頼することにして、周囲の反対を押し切って戴冠式でもっとも近い位置に彼を置くことにしました。
そして、ドイツとの開戦。ジョージ6世はBBCラジオを通じて大英帝国国民にスピーチをすることになり、これまでのすべてを試されることになります。
前の席に英語話者らしき夫婦が見ていましたが、気の利いた台詞まわしにしばしば笑っていました。もちろん私にはわからない部分も多々ありましたが、台詞にはユーモアがちりばめられています。英語が好きな方はぜひ台詞も楽しんでください。
「英国王室物」という分野があるかどうかは知りませんが、この映画に関してはまさに「アメリカ人が作った英国王室物」です。イギリス人の視点で作ると王室の歴史的な重みを出したいのか重厚感が出ていることが多いのですが、この作品についてはそういった「重さ」はほぼ皆無です。
作品のテーマは階級の頂点である王と田舎(オーストラリア)出身のもぐり療法士との友情ですから、「階級なんてくそこらえ」というハリウッド的公式にのっとっています。アメリカ人が好む「軽さ」が土台にあることが、英国王室物では考えられないほどのヒットにつながったのではないかと思います。逆に、イギリス文芸作品的なものを求めると裏切られるかもしれません(文芸的な要素はベートーベンを使っていることくらいです)。
また、この映画のもう1つの魅力はアルバート王子の人格です。映画のアルバート王子はかんしゃく持ちで、ローグに対してもかなり傲慢な物言いをするのですが、悪いと思うと心から謝り、ヒットラーの演説を見ながら、「彼は演説がうまい」とすなおに感心したりと、愛すべき人物として描かれいます。
天才ヒットラーとは比べるまでもない下手なスピーチですが、そんな演説が苦手な王が国民を励まそうと一生懸命になっていることに国民は感動したのではないでしょうか。最後は心。陳腐ですが、そんなことを考えさせられるほど、すなおに楽しめます。
ところでこの映画、わりと堅めのテーマにもかかわらず、日本でも大人気です。もしかしたら、震災後の首相の演説に落胆した人たちが、その心の隙間を埋めるために見に行っているのかもしれません。
