日本社会における共有システムの例として、たとえば銭湯や貸本屋がある。貸本屋は図書館に取って代わられたが、銭湯はいまだにしぶとく生き残っている。
銭湯はたんなる大浴場ではない。そこではお湯、衣類かご、湯おけなど、いくつもの道具をみんなで使う。そこでは、あとから来た人が気持ちよく使えるようにと暗黙ルールがいくつかある。みんながルールを守るからこそ、銭湯は共有スペースとして平和に維持できる。
物を共有するうえで大切なのは、ルールやマナーなど「同じ知識を共有すること」である。同じ知識が共有されないと、物の共有はうまく機能しない。自分の物ではないからこそ、それを大切にする。自分の所有物でないものを大切にするからこそ共有システムはうまく機能する。
同じ知識を共有するには、少なくともその場において、同じ価値観を持っていなければならない。日本社会で同じ知識を共有するシステムが他国よりうまく機能しやすいのは、日本社会が数え切れないほど暗黙の了解と共通の価値観で成り立っているからだ。
『シェア』が主張するのは、こういった共有システムがこれからのビジネス、とくにネットビジネスにおいてキーワードになることである。その原動力は言うまでもなくインターネットだ。
たとえば、日本でもカーシェアリング(自動車の共有)が都市部で普及し始めているが、アメリカでは部屋や洋服、工具など様々な物がインターネットを介して共有するビジネスが広まっているという。
これは、人々の意識が、商品の「所有価値」から「使用価値」にすこしずつ変化していることの現れだろう。
カーシェアリングが広まるということは、たとえば「ベンツを持つこと」に価値が置かれる代わりに、「必要なときに車を使えればいい」と思う人が増えていることを意味する。
本書でも述べられているが、これがさらに進むと物々交換へ、やがて労働交換へと移行する。つまり、「私の労働」と「あなたの労働」の交換だ。たとえば、「私は庭師です。庭の手入れの代わりに、誰か来週の月曜日に中国語通訳をしてくれませんか」といったようなことだ。
これらがすべてインターネットで回されるようになると、お金が介在せずに、サービスを受けることができることが可能になる。
おそらく本書が主張するようにこういったビジネスはこれから伸びていくことになるだろう。ただし、これがビジネスの主流になることはいろんな面で難しいかもしれない。
というのは、今、このビジネスがうまくいっているのは、まだ復興期にあり、意識の高い人が利用しているからである。「暗黙のルール」が守られればこういったビジネスは拡大するのだが、ビジネスが拡大してルールを守れない人が多く混じってくると、いろんな制約をつけなければならない。
共有ビジネスの弱点は、使っている人がそれを返さないことである。返さないものを取り戻そうとすると膨大なコストかかかる。したがってあきらめるのが現実的であるが、その割合が何%出るかで、採算が合うかどうかが大きく変化する。マナー違反が増加すると、ビジネスは成り立たなくなってしまう。
したがって、共有ビジネスは信頼できる人どうしの会員制で運営され、ルール違反をした場合の罰則がある水準の厳しさを持っていることが求められる。そうなると、共有ビジネスが本来持つ経済性や脱貨幣性やエコロジカルな部分は薄まってきてしまう。
ただし、日本はまだコミュニティが残っており、こういったビジネスにふさわしい土壌があるだろう。また、住宅の狭さから物の保管に向いていないので、おそらくこういったビジネスに商機はじゅうぶんあるはずだ。
そういった点から言えば、これからのビジネスの動向を知りたい人は読んでおいたほうがいいだろう。
ただし、「人の意識が所有から共有へ移る」といった単純な図式で、世の中が動くわけではないのは、言うまでもない。あくまでトレンドの1つとして意識してもよいといったレベルである。
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『シェア――<共有>からビジネスを生みだす新戦略』
・レイチェル・ボッツマン+ルー・ロジャース著
小林 弘人監修+関 美和訳
・日本放送出版協会刊
・定価1995円

