・昔
[中国]=[金政権]=[軍]
・哨戒艦攻撃以前
[中国]=[金政権]←対立→[軍]
・哨戒艦攻撃以後
[中国]―×→[金政権]=[軍]
・延坪島砲撃以後
[中国]←(対立含み)→[金政権]=[軍]
昔は中国を後ろ盾にして、金正日は軍を掌握して北朝鮮をまとめていた。ところが、金正日の健康問題が発生すると、軍が金正日に影響力を与えるようになり、軍主導で韓国との対立を深め始める。
これまで中国は金正日をコントロールすればよかったのだが、軍が対外政策を先導すると、中国は北朝鮮の動きをコントロールできなくなる。ここで、中国と北朝鮮はこれまでの蜜月関係からやや対立含みへと移行する。
ここで中国がアメリカと対立していることを思い出してほしい。つまり、今は次のような関係になっている。
[アメリカ]←対立→[中国]←(対立含み)→[金政権]=[軍]
北朝鮮が中国と対立すると、対中国包囲網がロシア国境以外で完成する。
今回の韓国領への砲撃は、表向き米韓の軍事演習への報復であるが、実はそれによって困るのはアメリカではなくて中国だ。
では、中国はこれをどう打開しようとするだろうか。いちばん考えられるのは、これまでの立場から踏み込んで、完全に北朝鮮をバックアップすることである。
[アメリカ]←対立→[中国]=[金政権]=[軍]
おそらく今の北朝鮮が狙っているのは、中国との関係強化だろう。
もし中国がつっぱねたとしても、アメリカが中国包囲網を築くために、逆にアメリカから北朝鮮に接近することもありうる。その場合は、北朝鮮は完全に中国と対立する関係になる。
[中国]←(対立)→[金政権]=[軍]=[アメリカ]
中国にとってこれがいちばん困る。
つまり、こういうことだ。北朝鮮は韓国を攻めることで、実はアメリカと中国を自分たちに接近させることが可能になる。なぜなら、どちらも北朝鮮と対立すると、自分たちがアジアにおいて不利な立場になるからである。つまり、北朝鮮を見捨てることで国際的に孤立化するのは、実は北朝鮮ではなく中国である。
「こういった膠着状態ではなく、もし朝鮮が韓国と全面対決になったらどうなるのか?」と考えた方がいるかもしれない。たしかに可能性はある。しかし、これは現実的ではない。
「北朝鮮が核を持っているから」ではない。全面戦争に入れば、おそらくあっという間に韓国軍は平壌を占領することになるだろう。それくらい両国の軍事力には開きがある。今の韓国はあっというまに占領された朝鮮戦争時の韓国ではなく、北朝鮮もその頃の勢いはみじんもない。
今や韓国は武器輸出国であり、勢いがあるのに対して、北朝鮮は経済力が落ちるだけ落ちているうえに、自分たちに対立するリーダーシップと能力のある人材を次々と粛正したために、人材面でも韓国にはるかに及ばない。
統一が現実的でない理由は「いま朝鮮半島が統一されると、韓国がとても困るから」である。
もし今、朝鮮半島が統一されたらどうなるか?
旧韓国に大量の難民がなだれ込んでいき、韓国経済は大打撃を受けることになる。今はサムソンをはじめとする財閥企業が絶好調であるが、朝鮮半島が統一されれば、そんな利益も簡単にふっとぶくらい経済の落ち込みを見せるはずだ。
かつてドイツが統一されたときも、ドイツ経済は大打撃を受けている。しかも、当時、東ドイツはGDP10位の経済大国である。GDP3位と10位がくっつくだけで、大きな産みの苦しみを味わっている。今の韓国に、北朝鮮をまるごと飲み込む余裕などあるはずがない。
もちろん朝鮮半島の統一は民族的な悲願であり、そのための布石は着々と打たれている。ただ、明らかに時期尚早なのである。現在の韓国としてはこのままの状態が望ましい。だから、いくら北朝鮮にしかけられても、本格的に反撃して全面対決になるのは勝つことがわかっていても困る。
そういったわけで、あらゆる意味で北朝鮮は「暴れ得」である。ちょっと手で押せばすべてが崩れ去るほど脆弱なのに、である。いや、実はその逆。脆弱なほど、じつは脅しが効く。
これは政治学で「弱者の恐喝」と呼ばれている。
「恐喝」というと、たとえばがたいのいい男が太い声で「こら金出せ!」とすごむような様子を連想する。もちろんそれはそれで怖いのだが、「弱者の恐喝」の怖さはそれとは質が違う。
たとえるなら、ぼろぼろの服を着て、老い先長くないような老人が、「お金をくれないと、あんたんちの玄関で首をくくるよ」と脅されたときの怖さである。まさかやるとは思えないが、でも様子を見ているとなんとなくやりそうで・・・といったときの不気味さに近い。
今の北朝鮮はこの「弱者の恐喝」のうまみを知っているために、手をつけようがなくなってきている。北朝鮮との交渉はこれからが正念場である。
(おしまい)
