慎重に言葉を捜し、彼女に対して
こう切り出した。
「彼は今のあなたの状況を決して
望んではいない。」…と
人は成仏するとこの世や人・モノに
対する執着を捨て、「愛」の存在に
なると言われている。
逆に、成仏出来ないのは、この世に
対する「執着」や「心残り」を遺す
為である。
例えば、最愛の子供を失った親が
その子を思うがあまり、当時の子供の
部屋もそのままにして、毎日悲しみに
暮れる生活を送っていたとしたら…
その子はその状況をみて
自分のせいで家族が苦しんでいると思い
彼等が心配で、いつまでもこの世に留まり
成仏出来ずにいることもある。
大切なのは、故人への感謝と成仏を願い
その悲しみを前向きな生きる力に変えて
冥福を祈り続けること。
※宗教によっては未成仏霊を認めていない
ものや、無理に成仏をさせずとも良いと
するものもあるのだが…
(ちなみに僕は宗教家ではない。)
ひとことで言うのは簡単なことだが…
難しいのは
様々な死の要因があり、遺された者が
納得して死者を見送ることが出来る場合
ばかりではないということ。
それを「学び」と一言で片付けるには
現実はあまりにも厳しいと思う様な事件
や事故、災害が多すぎると確かに思う。
しかし、結論的に遺された者がすべき
事は、故人への感謝の思いと、確かに
そこに愛があったことを伝え、故人に
「執着」や「心残り」を持たせぬ様に
旅立たせる為、自らも悲しみから立ち
上がり、残されたその人生を、精一杯
強く生きていこうと思う事なのである。
彼女は自分でも気付いているかいないか
の心の深いところで、彼に対する様々な
「思い」を持っていた。
その思いが「思念」となり彼女の
「波長」が、彼のいる「あの世」と
シンクロしていたのだ。
僕は彼女に続けた。
「彼の思いを理解してあげたい
何かしてあげられなかったのか…
という気持ちは理解出来るが、それに
あなた自身がその思いに執着を持ち
寝ても覚めてもその事を考えていたら
彼はどう思うだろうか?」
涙ぐむ彼女に
「結果に対する自分の責めを負うよりも
大切なのは彼との楽しかった想い出を
大事に胸にしまって、あなたが
あなたらしく幸せな人生を送る事じゃ
ないのかな?」
と伝えた瞬間、僕自身がグッと来て涙が
出そうになったのは、もしかして、今は
亡き彼の思いとシンクロしたのかも知れない
と思った。
そして、同時にサロンの小さなキッチンの
壁に飾っている木のヘラが落ちて小さな
音をたてた。
二人で顔を見合わせて…
「ほらねっ」と小さく笑った。
この世の者ではない人が、この世の人に
何かを気付かせたいと思ったり、伝えたい時
何かを動かしたり、音を立てたり、香りを
させたり…電化製品を使ってみたりと…
様々な方法を使う。
だから、サロンのキッチンの備品が良く
落ちるのはそうゆうことなのだ。
メッセージ・トランスレーションを終え
彼女は「何だか肩が軽くなりましたよ」
と言いながら、いつも通りの無邪気で
可憐な笑顔を取り戻してくれたのが
とても印象的だった。
「そうですね。
彼との楽しかった想い出を大切にこの
胸にしまって私なりに生きて行きます。」
彼女は最後にそう僕に告げて
小さく手を振りサロンを後にした。
そして翌月…
いつも様に、このサロンに足を運んだ
彼女は挨拶もそこそこに、少し興奮気味
に遭遇した「不思議な出来事」について
話し出したのだった。
つづく
