双極症の治療薬・炭酸リチウムの"妊婦禁忌"解除へ
炭酸リチウム(商品名;リーマス)は添付文書で妊婦に禁忌とされてきたが、2026年3月、「妊婦又は妊娠している可能性のある女性」は削除されることになった。上記から抜粋。
これまで妊婦への投与が禁忌とされていた「炭酸リチウム」について、最新の疫学データや海外の動向に基づき、妊娠中の使用による影響を評価しました。その結果、適切な管理下であれば妊婦への投与が可能であると結論づけ、妊婦禁忌の解除を求める報告書を厚生労働省に提出しました。この報告書を受け、2026年3月に開催された厚生労働省の薬事審議会医薬品等安全対策部会安全対策調査会において、妊婦禁忌解除の妥当性が認められ、医薬品添付文書1の禁忌欄から「妊婦又は妊娠している可能性のある女性」が削除されることになりました。
このような禁忌項目は、それまでの知見(論文などデータ)に基づき決められると思うが、海外と日本を比べると日本の方がより厳しい(つまり禁忌が多い)傾向があった。
これは安易に認可すると、何か問題が起こった際に責任を問われかねないので、それを避けたい、いわゆる公務員的な発想があったと思う。炭酸リチウムの妊婦に対する危険性はないわけではないが、考えられているほど奇形性の出現確率は大きくはなく、海外では禁忌とまではされていないことを2007年の記事で指摘している。
上記より抜粋。
リーマスは躁うつ病に限らず、統合失調症やその他うつ病や境界型人格障害、神経症圏に広く処方されていると思われる。アメリカFDAによる催奇形性のカテゴリーは「D」となっている。
【D】
人の胎児に明らかに危険であるという証拠があるが、危険であっても妊婦への使用による利益が容認されるもの(たとえば生命が危険にさらされているとき、または重篤な疾病で安全な薬剤が使用できないとき、あるいは効果がないとき、その薬剤をどうしても使用する必要がある場合)
リーマスは特に妊娠第1三半期は避けるべきとされている。リーマスは、エプスタイン奇形(心奇形)と関係が深く、もし妊娠第1三半期に使用していた場合、その出現頻度は10~20倍になると言われる。しかし、エプスタイン奇形の発生頻度は本来2万に1人なので、仮に20倍になったとしてもその確率は1000人に1人でしかない。
この頻度は10年くらい前に書物にかかれていた記載に比べかなり低くなっている。1996年版カプランの精神科薬物ハンドブックによれば「子宮内でリーマスにさらされた胎児の4%未満に発生すると言われる」と書かれている。
以上、経時的に考えられていた奇形率が低くなっていったことがわかる。なお、強調したいことは、海外でさえ、以下のように書かれていること。
人の胎児に明らかに危険であるという証拠があるが、危険であっても妊婦への使用による利益が容認されるもの(たとえば生命が危険にさらされているとき、または重篤な疾病で安全な薬剤が使用できないとき、あるいは効果がないとき、その薬剤をどうしても使用する必要がある場合)
このように炭酸リチウムは決して100%安全と言うわけではなく、双極性障害のコントロール不良の際、やむを得ず処方するというスタンスを推奨している。
これは炭酸リチウムは優れた気分安定化薬で、多剤に比べ効き方が異なることもあり、なかなか代替が効かないことも重要だと思う。また妊婦の自殺率を低下させると言う知見もある。
従来、添付文書的に禁忌だったため、妊娠中に炭酸リチウムを中止さぜるを得ず、悲惨な経過になった事例もきっとあったであろう。
日本の医療行政の「何か問題が起こった際に責任を問われかねないので、それを避けたい、いわゆる公務員的な発想」は、さまざまなところで悪影響を及ぼしている。その最たるものは、以下の「HPVワクチン」だと思う。
上の記事から抜粋。
これは精神科的には、あたかもワクチンによる副作用と思われている症状は、実態がない身体表現性障害障害である、と言っていることにほぼ等しい。婦人科のホームページで身体表現性障害と書くと国民には良くわからないので、おそらくこのように記載されているのである。
X(旧ツィッター)では専門の産婦人科医師からの情報発信もされている。日本では年間約1万人が子宮頸がんを発症し、約3000人弱が毎年亡くなっている。
今の接種率のままでは、将来、他の先進国では子宮頸がんがほぼ絶滅しているのに、日本では毎年数千人の女性が、子宮頸がんにより亡くなると言う異常事態に至るであろう。
日本の医療行政も知見の集積が進むと(苦情が来たときに抗弁しやすいため)認可しやすいので、以前に比べ禁忌解除は徐々に進められている。最初の記事から。
授乳中の薬物治療に関する不安を持つ女性からの相談に対応しています。(中略)これまでに、以下の医薬品について妊婦禁忌が解除されています。
- 免疫抑制剤:シクロスポリン、タクロリムス、アザチオプリン
- カルシウム拮抗薬:ニフェジピン、アムロジピン
- β遮断薬:ビソプロロール、カルベジロール
- 消化管運動改善剤:ドンペリドン
日本の医療行政が今のような安全策を取りがちになるのは、いくつか理由があり、ひとつはマスコミの医療事故に対する報道の在り方だと思う。「HPVワクチン」に関しては、副作用が出た若い女性たちのマスコミの報道内容がかなり影響している。これに関しては、国、マスコミの責任は、2:8くらいだと思う。
もうひとつは、日本国民の医療事故やそれに対するリスクを決して許さない世論だと思う。厚生労働省は、柔軟で多くの国民に対して利益が最大化する医療行政が取りづらくなっている。それは医師の個々の医療に関しても同様である。
今の向精神薬の添付文書で最も良くない禁忌は、オランザピン、クエチアピンの「糖尿病禁忌」だと思う。この2剤は時にその患者さんにとって代替が効かない抗精神病薬なので、禁忌とはせず、医師の裁量で投与することもできる「相対禁忌」くらいにすべきだと思う。
相対的禁忌とは原則として行うべきではないが、治療上の有益性が危険性(リスク)を上回ると判断される特別な状況では、例外的に実施が認められる医療行為や薬剤投与である。別名で「原則禁忌」とも言われる。
このオランザピンとクエチアピンの糖尿病禁忌は、国家試験でよく出題される問題と言うのが、更に終わっていると思う。以下の過去ログでは、リエゾンでは高齢の著しい食指不振の糖尿病患者さんに微量のオランザピンなどを投与する機会があることに言及している。
