
手作り木箱ECT機器と感電
かつての古いタイプの電撃療法(ECT)の機器は、一見、救命箱くらいの大きさで民間の精神科病院では医療機器として備えられていることが多かった。そして、その箱は木箱だったのである。最初、その木箱を見た時、あまりにクラシックな機械であることに驚いた。また大抵、薄汚れていてこの機械、大丈夫か?と思うようなものだったのである。
また病院によりその大きさはともかく仕様に差があった。例えば、昔の電話受話器の形状で片手で行えるタイプと両手で電極で頭を挟むようなタイプである。どちらが使いやすいかと言えば電話機型である。少なくとも、他の病院で全く同じECT機器を見たことが一度もない。
電撃療法は第二次世界大戦前の1938年にイタリアで考案され、1939年には日本に導入されている。そう言う歴史もあり、機械自体がかなり古いものだったのかもしれない。
僕が精神科医になった頃の電撃療法の機器は、何度か故障して病院で修理したような形跡がある古い機器で、その修理も不十分で施行者にリスクがあるようなシロモノだった。
例えば、電話機のようなハンドルが何度か壊れたため、ビニールテープでぐるぐる巻きにしているなどである。実際、施行中に僕は感電し不整脈が出たことがある。おそらくビニールテープの粘着剤に電流が漏れていたのである。もし僕が左利きだったらもっと危険だったかもしれない。
2000年代の初め頃、多分2001年くらいだったと思うが、病院で新品のECTの機械を購入してもらったところ、やはり木箱だったことに驚いた。電極のあるハンドル部分はプラスチックだった。価格は16万円か、26万円かそれくらいの価格で、耐久性のある医療機器としては安価だと思った。
木箱ECT機器の構造的には、おそらく家庭に来る交流そのままだと思う。電圧を変えられるダイヤルとメーターがあるだけのアナログの構造である。当時、後輩と施行した感想は、「このECTはキレますね」と言うものだった。どう違うのかわからないが、古い機器に比べかなり効果が出る印象だった。
少しオカルト的だが、同じECT機器でも実施する医師により効果が少し異なるように見えるのは勉強になった。同じ秒数施行しているのに、このようなところにも経験の差が影響するのである。
1990年代、既に海外では修正型ECTが開発、発売されていたが、当時はまだインターネットが一般化しておらず情報は限られていた。修正型ECTは、従来のECTのサイン波からパルス波になったのである。また施行時に麻酔及び筋弛緩剤を使うため痙攣が起こらない。
修正型ECTの話が知られるようになった当時、痙攣を起こさないことで治療効果が減弱するのでは?と言う懸念があった。これは僕だけが言っているのではなく、従来の痙攣が生じるタイプのECTを施行したことがある医師は同じような懸念を持ったと思う。と言うのは、木箱ECTで稀に痙攣が生じなかった時、効果もなかったからである。実際に学会でそのような質問をする医師がいたほどである。
1990年代、おそらく1997年頃と思うが、初めて麻酔及び筋弛緩剤を使用して、木箱ECTを実施したことがある。この結果だが、筋弛緩のために痙攣が起こらなかったのに、従来と遜色ない効果があったことに驚愕した。ECTはやはり脳への通電が重要で身体的な痙攣はそこまで必要ではなかったのである。
しかしながら、今となっては麻酔をかけて木箱ECTで実施したことで効果が保たれたように見える。発売当時のパルス波の修正型ECTは旧来のサイン波のECTほど効果が出なかったからである。
旧来のECT機器の欠点として、サイン波で痙攣誘発に必要なレベルを遥かに超える過剰な電気エネルギーを流していたことがある。その結果、施行後の記憶障害が出やすかったのである。(修正型ECTでは全ての人に記憶障害がないわけではない。個人差がある。)
修正型ECTは、ONとOFFを極めて短い周期で繰り返す短パルス短形波を利用し無駄な電流を排除して脳への悪影響をかなり抑えた仕様である。その後、更にパルスの間隔を小さくして最低限の電気エネルギーで効果を上げるようにアップグレードされ、サイン波の3分の1から5分の1程度の電気エネルギーで治療が可能となっている。
最新の修正型ECTの治療効果が、旧来のサイン波木箱ECTの効果にどのくらい追いついているかは詳しくない。
参考