大量服薬で救急車で輪番精神科病院に搬送される人
輪番の夜、救急隊員から電話があり、向精神薬を大量服薬をした患者がいるが搬送して良いか?と言われる。
結論から言えば、受けることもあるが、救急病院に搬送してもらうことが遥かに多い。
特に意識がない状態の場合、救急隊員が現場に行った時、バイタルサインが安定していたとしても精神科病院に搬送されてから急激に悪化することもある。そのような際、単科民間病院では対処が難しい。
大量服薬時の病態は、少なくともその時点で暴れるなどの症状がないことに加え、胃洗浄などの身体科的処置も必要なことがあるので内科の患者と言って良い。
輪番では、その大量服薬の患者を知らないことがほとんどである。患者さんによれば、糖尿病や降圧剤などの身体への影響が大きい内科薬も一緒に大量に服薬していることもある。このような患者の搬送をうっかり受けて搬送後に死亡事故が起こると大変である。
患者によれば、以前から何度か大量服薬をしていて、その繰り返しで服薬量の目安がわかっている人もいる。つまり大量服薬で救急病院に1泊で帰れるくらいの用量を毎回服薬している。その大量服薬は自殺が目的と言うより衝動行為である。
そもそも近年の向精神薬の大量服薬で死亡することは難しい。循環器系などに影響が少ない向精神薬ばかりになっているからである。
しかしこのような大量服薬時に事故が起こり、死亡はしないまでも一生治ることがない障害が残ることがある。
例えば発見が遅れ、長時間、同じ姿勢で伏せていたために手や足の一部に麻痺が残るなどである。このようなことになれば、その後の日常生活にも支障を来す。元々、精神疾患そのものでは身体障害にならないので大変な事態である。他の悪い結末の1つに大火傷などもある。
このような事例で最悪のケースは、そう死ぬ気もなかったのに大量服薬の際に、偶然、事故が起こり死亡することである。僕は全ての自殺の事例の中で、真に死ぬ気がなかったのに、偶然死亡してしまった人も僅かだが含まれていると思う。
救急車が到着した時に、向精神薬の空になったPTPシートが何枚か残っており、いかなる薬をどのくらい飲んだのかわかることがある。また、家族が現場にいてどのくらい服薬したのか明確なケースもあり、大量服薬でも安全性の高い向精神薬で、なおかつ服薬量が比較的少ない場合、ようやく引き受けることができる。
それでも、稀に親が服薬している循環器の薬も一緒に服薬していることもあるので、これでも安心して引き受けるわけではない。
救急病院は、他に大勢の救急患者で大変なのはこちらもわかるので、このくらいなら単科精神科病院で受けましょうと言った感じである。
現実には、もう少し受け入れに悩むケースもある。
例えば午前3時頃、救急隊員から電話があり、安全性の高い眠剤を10錠から20錠くらい服薬しているらしく、精神科病院でも受け入れできる患者だが、遠すぎて搬送しても高速道路も含めてどうみても到着まで2時間くらいかかりそうな時。
到着するのは午前5時を過ぎる。これだと、その市の救急病院に搬送し受けてもらった方が良い。なぜなら胃洗浄も必要がないからである。これは救急隊員に、救急病院の担当医に、「輪番の精神科医師がそう言った」と言うように伝える。
またこれは重要だが、救急車は病院まで搬送はするが、処置が終わるまで待ち、自宅まで送ってくれたりはしない。この場合は1日入院するわけで、入院を終えた時、2時間以上かかる自宅まで精神保健福祉士が車で送ってくれたりはしない。
従って遠方の患者の場合、家族がすぐ近くに住んでいる場合は良いが、そうでない場合、その後が大変である。
また家族がいたとしても本人と絶縁状態のこともある。上に挙げたような午前3時に遠方の輪番精神科病院で引き受けることは、様々な点でその後が大変なのである。