抗うつ剤 | kyupinの日記 気が向けば更新

抗うつ剤を飲み始めて彼氏と喧嘩しやすくなった話

抗うつ剤を服用し始めて彼氏と喧嘩しやすくなったという話を聴いた。この話は色々なことを考えさせられてとても奥が深いと思った。

 

 

まず、彼女は彼氏とのコミュニケーションにおいて、以前とは違うと言っている。本人が喧嘩しやすくなったと言うので、些細なことで怒りが出やすいなどの変化があったのだろう。しかもそれを本人は自覚できている。

 

抗うつ剤はうつ状態を改善する薬だが、場合によれば躁転を来したり、副作用としてイライラ感や神経過敏が出現することもある。従って、その喧嘩をしたという今までとは異なる本人の心理状況、態度変化がどのレベルの規模なのかは重要だと思う。

 

古典的な躁転は、薬物性であれ洞察ができないことが多いため自分で「前より喧嘩しやすくなった」と言う細かい変化に気付けないと思う。従って前より喧嘩しやすいくらいでは、真の躁転とは言い難い。

 

いわゆる2型躁転レベルだと、喧嘩しやすいくらいはあるかもしれないが、同時にそれ以外の精神症状の変化もあると思うので、細かい日常生活での変化を聴取することは重要だろう。彼氏との人間関係だけでなく、親しい同性の友人や家族も本人の変化に気づくはずだ。「彼氏と喧嘩をしやすい」ことは2人の人間関係でのみ生じるので、それ以外の同性の友人や家族はほぼ目撃できない。従って彼女らの意見は非常に参考になる。

 

そもそも、抗うつ剤でそのような変化が生じた時、いかなる抗うつ剤を服薬しているかは非常に重要だと思う。

 

古典的抗うつ剤、例えばアモキサンのようにパワーがある抗うつ剤では、真にI型躁転が生じることがあり、「彼氏と喧嘩しやすくなった」どころではなくなる。入院治療まで必要だからである。底上げ、上への爆発力を持つ薬は、ちょっと喧嘩しやすいくらいの中途半端な変化はむしろ稀のように思う。

 

問題はSSRIである。SSRIの薬理特性として、細かいことへの拘りが少なくなるので、むしろ彼氏との喧嘩は起こりにくくなるように見える。つまりジェイゾロフトのように「まあ、いっか」の心理変化である。

 

しかしながら、SSRIでは奇異反応と呼ばれる一時的に悪化する現象が起こることがある。SSRIの奇異反応とは、本来は不安や抑うつを和らげるはずのSSRI投与後に、逆に不安・焦燥・衝動性・易怒性などが悪化するという逆効果のような反応を言う。

 

奇異反応はまだ良くわかっていないことも多いが、SSRI投与初期にシナプス内セロトニン濃度が急上昇し、受容体バランスが一時的に崩れ、一過性に「神経過敏状態」を生じる。これはactivationと呼ばれる。

 

この奇異反応は向精神薬に限らず、大抵の薬で言えることだが、初期に起こることがあり、半年後とか1年後に起こったりはしない。また、まだ脳が未成熟な若年者に生じやすい。添付文書に記載されている「若年者に希死念慮や自殺衝動の一時的亢進」などの注意喚起などもこの奇異反応に含まれる。

 

例を挙げると、ASDの人に診られることがある「慢性的な希死念慮」に対し、SSRI処方は十分に注意すべきなのは、この奇異反応が生じ得るからである。

 

奇異反応は結構激しい変化なので、「以前より彼氏と喧嘩しやすい」くらいでは済まないと思う。しかし投与初期に生じたとしたら、念のため、一応、中止してみるくらいの慎重さは必要であろう。いったん休むことで2回目は問題がないこともあるからである。(ある種の慣れ)

 

抗うつ剤を服薬し始めて時間が経ち、「次第に彼氏と喧嘩しやすくなった」ケースは非常に細かい検討が必要である。

 

それは抗うつ剤の悪い影響なのか?あるいは治療過程でそうなったのか?である。

 

トリンテリックスは体が動くタイプの抗うつ剤なので、今までの男女関係が次第に変化することがある。つまりうつが長期に遷延していた時は、彼氏もそのペースに合わせて付き合ってくれていることが多い。

 

また、合わせると言うより本来2人とも似ていて、かなりスローペースで付き合っていたのに、トリンテリックスのように活動的にする抗うつ剤により、そのバランスが崩れてしまうケースもある。

 

これは抗うつ剤による悪い結果と言うより、うつが改善した発展的な経過と診ることもできる。

 

かつて古典的抗うつ剤、アモキサンはこの現象があり、処方の際に注意を要した。アモキサンは薬剤性躁転も起こりやすい抗うつ剤だったので、その面でも注意が必要だった。

 

その男女関係が治療前に、女性が男性に依存せざるを得ない関係だと、女性の抗うつ剤治療により精神症状が改善し依存する必要がなくなり、2人の関係が壊れるケースがある。具体的に言えば、女性が男性に別れを告げるのである。

 

このような経過では、男性に急に精神疾患が顕在化したり、時に自殺まであり得る。きっと男性はその女性の面倒をみることで精神のバランスが取れていたのであろう。それがなくなることで、自らの精神疾患が顕在化するのである。もちろん全てのカップルで起こるわけではない。今回の記事に参考になる古い過去ログに、「配偶者の自殺」と言う記事がある。

 

 

SSRIは爆発的な効果がない代わり、穏やかにそこそこ改善するし、低空飛行気味に改善する人も含め、このような劇的な人間関係の変化を来しにくい。それは上で書いた「まぁいっか」という気持ちになる傾向があることも関係している。

 

精神科医は、本人が良くなったとしたとしても、離婚したとか、彼氏と別れた話を聴くのは快くない。それは精神科医は患者さんの人生に、そこまで影響したくないからである。

 

とは言え精神科の治療には、なるようにしかならない面があるのも確かである。

 

最後に思い出したが、小此木先生の書籍の中に、「治療は上手くいったが、唯一残念なことは彼女が離婚したこと」という話が出てくる。

 

これを読んだ当時、僕は小此木先生に彼女が陽性転移した結果、そうなったことを残念に思っているのか、あるいは離婚という好ましくない結果を、治療の経過でもたらしたことを悔いているのか、よくわからなかった。なにしろその書籍を読んだのは27歳頃だったからである。

 

今から考えると、小此木先生の真意は不明だが、今回の記事のようなことが精神分析的治療でも生じたのでは?と想像している。

 

以下は小此木先生の記事の過去ログ。

 

 

参考

 

 

この記事の中にトリンテリックスの効き方についての記載がある。以下抜粋。

 

例えばトリンテリックスは体が動くようになるタイプであるが、躁転と言えるほどではないにせよ、無駄なエネルギーが出るような効き方なので、周囲の人との人間関係を悪化させることがある。

 

いわゆる向精神薬を服薬してエネルギーが良い方向に行っていない状態。

 

トリンテリックス服薬中の対人関係の悪化は、抑制がないことや、言い過ぎることから来ている。動けることが裏目になっているのである。