
向精神薬と抗精神病薬、年末処方の注意点
一般に精神科医は「向精神薬」と「抗精神病薬」と用語を区別して使う。本来、非定型抗精神病薬を含む「抗精神病薬」は精神病に処方される薬を指している。これらは主に幻覚妄想に対する作用を有するが、鎮静作用や賦活作用もあるため、統合失調症、双極性障害だけでなく神経症にも使われないわけではない。
ここ20年ほどで非定型抗精神病薬が次々と上梓されたこともあり、抗精神病薬は、統合失調症、双極性障害だけでなく、精神疾患に広く処方されるようになった。それだけ温和で広い作用スペクトラムを持つ抗精神病薬が増えたのである。
日本で初めての非定型抗精神病薬、リスパダールの発売以降、非定型抗精神病薬でない抗精神病薬が発売されたことは1度もない。今や、厳密に抗精神病薬と非定型抗精神病薬という用語を分けて使うことも意味が薄れてきている。
抗精神病薬に対し向精神薬は「脳に作用する薬」というニュアンスがあり、抗精神病薬はもちろん含まれるし、レキソタンやソラナックスなどの抗不安薬、眠剤、認知症に対する薬、ASD、ADHDに対する薬など広い範囲を包括している。つまり抗精神病薬は向精神薬の中のほんの一部に過ぎないし、非定型抗精神病薬は抗精神病薬の一部に過ぎないのである。
今まで記載したことは一般臨床で共有されていることであるが、法律的ないし処方箋上の「向精神薬」は異なる意味を持つ。それをよく感じるのは、正月を挟んだ処方をする時である。
法律で言う「向精神薬」にはなんとエビリファイやレキサルティなどの抗精神病薬は含まないのである。またサインバルタやトリンテリックスの抗うつ剤も向精神薬には含まれていない。また大量服薬の際にリスクの高いトリプタノールやトフラニールも向精神薬ではない。単にリスクの高さで分類されているわけでもないのである。
法律的な向精神薬ではないため、抗精神病薬や抗うつ剤は処方日数の制限がなく、極端なことを言えば無制限に処方できる。
しかし、診察なしで長期間処方するのは問題なので、概ね上限は3か月くらいと思われる。それ以上処方した場合、レセプトで査定されることもありうる。下は、麻薬及び向精神薬取締法の内容である。
この法律で言う向精神薬は、一般臨床で言う向精神薬とは異なり、端的に言うと乱用されると困るような薬を指している。ベンゾジアゼピン系眠剤、抗不安薬は全て法律的な「向精神薬」に分類されている。それに対し、デエビゴ、ベルソムラ、ロゼレム等の眠剤は向精神薬ではない。抗精神病薬全般と抗うつ剤も向精神薬とはみなされていないのは上に記載した通りである。
この法律が、年末の処方に効いてくるのである。
例えば、年末にフルニトラゼパムを30日を超えて処方することはできない。抗不安薬のワイパックス(ロラゼパム)やソラナックス(アルプラゾラム)、レキソタンなども同様である。これらは法律的な「向精神薬」に入れられているからである。一方、デエビゴはルール上は90日処方も可能である。
昔、抗不安薬とベンゾジアゼピン系眠剤は14日処方制限があったため、年末は困ることが多かった。このようなこともあり、年末やゴールデンウィーク中は特例で30日処方が可能であった。今はこれらの14日制限がなくベンゾジアゼピン系眠剤、抗不安薬でも30日まで処方できる。このルール改正はこれらの薬物が日本国内でそこまで犯罪や乱用に使用されていないとか、医療費削減も勘案されて改正されたのでは?と推測する。
当時、ベンゾジアゼピン眠剤、抗不安薬などが14日制限を廃止された際、クリニックを開業している友人から、このルール変更はクリニックにとって大きな痛手だという話を聴いた。なぜなら、ルールに縛られて14日ごとに通院しなくても良くなり、1か月ごとに通院で良くなったからである。これは通院精神療法などの技術料が半減したことを意味する。このような話から、精神科医療費削減の意図も推測する理由である。
ルール変更が始まった当時、なんとデパス(エチゾラム)とアモバン(ゾピクロン)は向精神薬に分類されておらず、デパスは無限に処方できた(とはいえ概ね3か月程度)。アモバンはともかく、デパスは乱用や依存のリスクが法律的な向精神薬と何ら変わりがないので、その後、変更されて30日制限となった。
余談だが、デパスの添付文書を見ると、神経症、うつ病、睡眠障害以外にも頚椎症、腰痛症、筋収縮性頭痛にも適応を認めているため、内科、整形外科などに受診している人たちが、既にデパスを服薬しているのをよく目撃する。デパス処方の心理的な抵抗は精神科医より、むしろ身体科の医師のほうに乏しいように見える。特にリエゾンなどに行くとそれを感じる。
特に頚椎症や肩関節周囲炎などによる疼痛や頭痛は、デパスよりリボトリールの方が優れていると思う。なぜなら、これらの治療目的でデパスを処方するには半減期が短すぎるからである。一方、リボトリールは比較的、頚部より上に筋弛緩作用が及ぶ上に、半減期も長いのでこのタイプの治療には安定的だと思う。一方、リボトリールを中止する際に肩こりや頭痛がみられるのは、離脱といえばそうかもしれないが、これらの効果が消失するからであろう。
ところが、身体科の医師がこのような目的でリボトリールを処方することはまずない。その理由は、リボトリールは抗てんかん薬に分類されているため、漠然とした怖い薬というイメージがあるからではないかと想像している。また、適応外処方になるのももちろんある。リボトリールはレム睡眠行動障害にも処方が認められているので、てんかんの診断は必要がない。
このような理由で、デパスは特に精神科以外でしばしば処方されている薬である。あれっと思うほど他の科で処方されている精神科の薬は、マイスリー(ゾルピデム)、ベルソムラ、サインバルタ(デュロキセチン)、リスパダール(リスペリドン)、セレネース(ハロペリドール)、認知症薬などが挙げられる。最近はデエビゴも増えてきている。
なお、ADHD治療薬のコンサータは向精神薬に分類されているため、最長30日までしか処方できない。一方、同じADHD治療薬のストラテラ(アトモキセチン)、インチュニブは30日を超えて処方も可能である。
これまで書いた理由で、30日目がちょうど正月にかかった際に、向精神薬に分類されている薬は30日を超えて処方することは難しい。時々、患者さんから30日を超える処方日数の要請があるので、今回なぜできないのかを紹介している。
参考

