
横紋筋融解症のCPK値レベルの話
過去ログでは数回、横紋筋融解症について記事をアップしている。今回は横紋筋融解症の診断基準におけるCPK値上昇レベルの話。
上記の重要部分を以下に抜粋する。
横紋筋融解症は、患者さんが自宅などで倒れていて、救急搬送されて高CPK血症が判明し透析などが実施されるパターンが典型的である。しかし、中核病院の泌尿器科の医師はこの病態をはっきりと診断できないで治療をしていることもよくある(だいたい50%くらい)。紹介状で「長時間伏せていたことによる筋肉の挫滅」と言うフレーズを記載しているからである。治療そのものには影響がないかと言うと、ちょっと違う。その理由は原因となる抗精神病薬を中止していないからである。横紋筋融解症は悪性症候群と同じく、原因薬物をまず中止しなければならない。その際に、抗精神病薬やそれ以外の向精神薬に加え筋肉に侵襲があるアトルバスタチンなども中止した方が良い。
救急医や泌尿科医が、抗精神病薬による横紋筋融解症を見抜けない理由の1つにCPK値がさほど上がっていない症例が稀ならずあることが挙げられる。CPK値が1万を超えると流石に横紋筋融解症と診断できる確率が高くなるが(それでも見逃す医師もいる)、CPK値が例えば500くらいしか上がっていない時は、最初から横紋筋融解症を診断から除外してしまうようなのである。その理由は診断基準に沿わないからだと思う。
抗精神病薬服薬中の精神科患者さんが急性腎不全を生じていて、尿中や血中ミオグロビンが高値であれば、CPKがさほど上がっていなかったとしても、横紋筋融解症が十分に疑わしい。
なぜ、うちの病院で血中ミオグロビン値がわかるかだが、横紋筋融解症を疑った時点で、血液一般、血液生化加え、CPKと血中ミオグロビン値の検査を検査センターに出すからである。ところが血液一般、血液生化、CPKは半日以内で結果が出るが、血中ミオグロビン値だけは結果が出るまで数日かかる。血中ミグロビンが高値なのは時間遅れで判明する。そして中核病院から驚くような返書が返ってくるという流れである。
救急外来や泌尿器科ではCPKがあまり上がっていないケースでは最初から横紋筋融解症を否定してしまうため、尿中ないし血中ミオグロビンを調べないようなのである。そのため大誤診の方角に向かい、例えば抗精神病薬による薬物アレルギーのような病態を疑ったりする。
したがって治療方針としては概ね治療の方向に向かうが、腎生検のスケジュールを立てるとか、奇妙なことになる。そもそも僕は同じ向精神薬を長期間服用し続けていて、突然、薬物アレルギーが生じ急性腎不全に至った事例を未だ知らない。
Googleで横紋筋融解症を検索すると、以下のように記載されている。
横紋筋融解症は、診断基準的には最低限CPK値が上限の4倍ないし5倍くらいに上昇しないといけないらしい。しかし臨床的にはなぜか血中ミオグロビンや尿中ミオグロビンが非常に高くなっているのにCPKがさほど上がっていない事例に遭遇する。
2007年と少し古い論文だが、原田和博先生の記載の中でも、さほどCPK値が上がっていない症例が少なくないのがわかる。
ところで、僕は未だに時にCPK値とミオグロビン値の乖離が生じることがある理由がよく理解できずにいる。
経験的には悪性症候群に比べ横紋筋融解症は末梢性に生じた副作用に見えるが、抗精神病薬の横紋筋融解症は、幻覚を伴う重いせん妄がしばしば起こる印象。このせん妄は、横紋筋融解症による2次的な中枢への影響なのか、デフォルトで中枢に影響しているのかはよくわからないままである。
横紋筋融解症はミオグロビンが筋肉から流れ出す。これはいわば血中のゴミなので腎臓に引っかかり侵襲を及ぼす。横紋筋融解症状態の血中にはミオグロビン以外のゴミもあるはずなので、どちらかと言うとこれら雑多なゴミによる2次的せん妄のように見えるが、自信はない。
横紋筋融解症圏内では、抗精神病薬の中でもセロクエル(クエチアピン)は曲者で、つまり安全そうに見えて、意外に横紋筋融解症を生じやすい。だから、一度でもセロクエルで横紋筋融解症を生じたら、なるだけセロクエルを中止するようにしていた。
数ヶ月前、何かの本を見ていたら、クエチアピンは横紋筋融解症のリスクが高いと言う内容が書かれていたので、ちょっとびっくりした。全く臨床経験に沿った内容だったからである。
現在の横紋筋融解症の診断基準は、誤診が起こりにくい基準にアップデートすべきだと思う。


