
覚醒剤使用歴のある警察留置者の治療の話
特に単科精神科病院では、犯罪被害者より犯罪加害者ないし犯罪者を治療する機会の方が多い。特に警察署に留置されている人たちである。
警察署に留置されている人たちが精神科を受診するケースでは、覚醒剤使用歴がある人が一定の割合でおり、症状は不眠やその他の精神症状(イライラ感や不安感など)が多い。幻覚まである人は意外に少ない。
覚醒剤による身体への影響は個人差がかなりあり、若い人で1回目の使用で死亡する人が実際にいる。定石的には、長期間、大量連用する人はいわゆる「人間やめますか?」の事態に近づく経過になりやすい。
覚醒剤の良くない点は、そこそこ使っているのにさほど深刻な事態にならない人がいることだと思う。終戦後の混乱期に多くの日本人がヒロポンを使ったが、だからと言って須らく廃人に至ったわけではない。
この人を選ぶという薬物としてメチルアルコールも似ている。メチルアルコールは、戦時中や終戦後の混乱期に、エチルアルコール(酒)が不足した時代に代替的に使われた。メチルアルコールはエチルアルコールより少しだけ構造式が短いが、有害さが段違いなのである。
メチルアルコールを飲んでも大丈夫な人がいる一方、合わない人は失明するか死亡すると言う凶暴さである。従って、「うちの主人は大丈夫だったよ。」くらいに隣の奥さんに言われ、夫に飲ませてあっという間に死亡と言う事故があったのである。
メチルアルコールによる死亡事故は今は流石に国内では聴かないが、今でも海外で事故を聴くことがある。酒にメチルアルコールが故意に、あるいは儲けるために混ぜられていて死亡してしまうのである。
ここで、ひとこと言っておくが、普通のお酒(エチルアルコール)も十分にヒトの脳には有害である。ずっと精神科医をしている僕が言っているのだから間違いない。
さて、警察署に留置中の人が警察官により精神科病院に連れて来られる際は、手錠がかけられており、診察中もかけられたままである。
しかし、それを他の待合室にいる患者さんに診られるとまずいので、診察直前まで院外の警察の車で待機している。診察直前、待合室に誘導された時も手錠部分にはバスタオルのようなものがかけられている。また警察官も私服で来院しているので、ほとんど違和感がない。
新型コロナ感染症の流行中は、留置者や警察官は感染率が高いと思われるので、院外の診察室(仮)で診察していたが、今は普通に院内に入ってもらっている。もちろんマスク着用である。警察署留置者にいつも確認のため聴いていたが、ワクチンをきちんと接種していない人が一般の人より多く、感染歴のある人も多いと思った。
覚醒剤使用歴のある人は、不眠のため強い眠剤を希望する人が多い。彼または彼女らは、逮捕前に既に内科や精神科で眠剤の処方を受けていることが多く、眠剤の名前を挙げて希望することも少なからずある。そのような時は希望通り処方することが多い。
そもそも、こちらが他の眠剤に変更する理由はあまりないが、それまで催眠効果が不足しているケースでは、強力な眠剤を勧めることもある。
覚醒剤の使用歴があるケースでは逮捕される病名が必ずしも覚醒剤取締法違反ではなく、直接、関係のない窃盗や詐欺のケースもある。いわゆる反社の人たちは相対的にかなり少ないので、いかに簡単に違法薬物が手に入るかがわかる。
長くこのような留置者を診ていると、後に釈放されて、うちの病院に通院する人もいる。何か気に入ることでもあったのだろうか?と思ったりする。
覚醒剤の長期使用で幻覚まで経験した人は、いったん幻覚が終息したとしても、その後、時間が経ち、何らかの脳への刺激で幻覚妄想状態を呈することがある。覚醒剤はもちろんだが、アルコールなどでもきっかけになりうる。また精神的なストレスや疲労などでも起こりうるのである。
アマゾンなどでも買えるCBDオイルでもフラッシュバックを来すことがある。CBDオイルとは、大麻の中の多くの生理活性物質の中のCBDを中心に抽出したものである。一方、大麻の中のTHCは大麻取締法で禁止されている。
CBDオイルで覚醒剤の使用歴がある人が、緊張病症候群を惹起し1ヵ月以上入院治療を要したと言うことは、CBDオイルにもしっかり向精神作用があることがわかる。
覚醒剤使用者で最も悲惨な人たちは、複雑な幻覚が残遺して固定してしまったケースである。例えば、「薄い人がピッタリと背中に付いている」と言う異常体験。
僕はこの症状の人は今まで2名経験があるが、日常生活が成り立たない状態だった。もちろん仕事などできない。
上記のCBDオイルの人は、覚醒剤だけでなくマジックマッシュルームなどさまざまな向精神作用のある違法薬物を経験していたが、退院後はさっぱり症状がなくなり、今は普通に仕事をして生活している。しかもいつも凄く明るいのである。(幸せそうに見えると言う意味)。
この患者さんは服薬を半年くらいやめていたところ、よくわからない原因で再び幻覚妄想状態に至った。病型は非定型の夢幻様状態であった。従って、何らかの抗精神病薬の服薬継続は必要なようなのである。しかし服薬しさえすれば、もう5年以上再発がない。本人によれば、副作用がなく、服薬感も皆無らしい。
このようなことからも、覚醒剤の身体への悪影響は個人差が大きいと感じる。特に短い期間使用歴がある人たちはそうである。
参考
