パーキンソン病とルジオミール | kyupinの日記 気が向けば更新

パーキンソン病とルジオミール

ある時、パーキンソン病のうつ状態の患者さんが紹介されてきた。病型としては内因性うつ病だが、抑うつ悲哀感が強くもう少し重くなると昏迷状態を呈しかねない状態である。会話もろくにできない。

 

マニュアル的にはパーキンソン病のうつ病にはSSRIが推奨されている。しかしMAO阻害薬が処方されているとSSRIは処方できない。これはSSRIの添付文書の禁忌の欄に記載されている。

 

ジェイゾロフトの添付文書禁忌欄から。

MAO阻害剤を投与中あるいは投与中止後2週間以内の患者。

 

この患者さんはMAO阻害薬が処方されていたので、たいていの抗うつ剤は処方できなかった。これはSSRIに限らずSNRI、リフレックス、3環系抗うつ剤も同様である。MAO阻害薬は抗うつ剤ではないが、うつ状態には治療的な薬理作用を持つはずである。MAO阻害剤を処方されているのにうつ状態を呈していることは重要だと思う。

 

パーキンソン病はドパミンが枯渇している病態なので、これらをアップさせる薬理作用を持つ抗パーキンソン薬はうつ病にはマイナスにならないように見える。むしろ抗パーキンソン薬が精神病状態を引き起こすリスクの方が重要だと思う。そのようなことから、パーキンソン病のうつ状態はありふれているが、精神科には精神病状態を何とかしてほしいと言った紹介の方が多い。

 

このような処方状況だったため、当初は適応外ながらレキサルティのごく少量を試みることにした。レキサルティ0.25㎎程度である。レキサルティは少量だとドパミンライクに振舞うのでパーキンソン病にもそこまで悪化させないように見える。

 

結果だが、レキサルティはまあまあ良かったのである。エビリファイのように表情が少しだけ明るくなり発語も以前より良くなった。しかし完全に良かったかというと満足できるほどではなかったため、レキサルティを少しだけ増量することにした。

 

この場合、体感的にはレキサルティを増量するにつれパーキンソン病には悪影響を及ぼしておかしくない。0.75㎎程度まで増量したところ、そこまで線形にうつ状態が回復していない割に、運動障害(パーキンソン症状の悪化)がみられるようになった。やはり、レキサルティは増量するとドパミンライクではなくなり、ドパミン遮断的になるのであった。

 

結局、レキサルティは諦めたのである。しばらくパーキンソン症状の改善を待ち、神経内科医にMAO阻害薬の中止を依頼し、抗うつ剤を試みることにした。

 

抗うつ剤は抗パーキンソン薬と同様、ドパミンなど神経伝達物質を増やすので、少なくともパーキンソン病にマイナスになる部分は少なそうに見える。しかし、例えばSSRIにパーキンソン症候群の副作用が診られるように、セロトニンを増やすことでドパミン神経を抑制する作用も持ち合わせる。

 

モーズレイのガイドラインには、パーキンソン病のうつ病治療について以下のような記載がある。

 

SSRIは第一選択と考えられるが、効果量は大きくない。患者により運動症状が悪化することもあるが、絶対リスクは低い。

 

また、SNRIはSSRIより運動障害が相対的に大きいといった記載もある。3環系抗うつ剤は抗コリン作用(認知機能と便秘・口渇などの悪化)とα遮断作用(自律神経障害の悪化)があるため、忍容性不良であるとされている。

 

つまりSSRIはたいして効かないが、副作用などを総合し、判定で第一選択薬とされているのである。

 

この患者さんはかつてSSRIやSNRIを処方されて改善していない履歴があったため、4環系抗うつ剤のルジオミールを処方することにした。なお、いくつかのメタ解析では、SSRIよりも低用量の3環系抗うつ剤の方が有効性が高いことが示されている。

 

ルジオミールを選択した理由は、3環系よりも4環系抗うつ剤の方がまだ忍容性的に増量しやすいように思われたからである。

 

ルジオミールは20㎎から開始したが、2週間目に再診した時、看護師さんによると、あまり改善していないと言うが、表情を見ると手ごたえがあると思った。表情が少し明るくなっているように見えたからである。これは2週間ぶりに診たからわかる程度のものである。そこで40㎎まで増量したのである。

 

処方開始後30日くらいたつと、そこらあたりを歩き回れるほど改善しており、ほぼ普通に会話できるようになっていた。歩き回れるほどなので、運動機能も悪影響がないかむしろ改善させていたのかもしれない。とにかく不連続と言えるほど素晴らしい回復だったのである。

 

興味深いのはルジオミールは効果が早く発現するタイプの抗うつ剤だが、けっこう時間がかかっていたこと。有効なのになぜ1か月もかかるの?と言ったところである。この患者さんにはかつてリフレックス30㎎が処方された時期があり効きはしなかったらしい。

 

これはこのパーキンソン病患者さんのうつ状態の推移が、オンオフ現象的だったのを暗示している。おそらく僕はオフのフェーズで紹介されたのであろう。つまり薬物反応性が悪い時期である。

 

なぜそう思うかと言えば、抗パーキンソン病薬でオンオフ現象が起こるなら、抗うつ剤でも似た状況が起こっておかしくないと思うからである。オンオフ現象とは同じ抗パーキンソン病薬を使っているのに効いたり、効かなくなったりを繰り返す現象である。

 

ルジオミールはノルアドレナリンにしか関与しないと言われているが、何らかの形でオンオフ現象のメカニズムに働きかけ、スイッチを入れる作用を及ぼしたのかもしれない。