筋肉の疼痛性障害とアトルバスタチン
過去ログでは、疼痛性障害や線維筋痛症はさまざまな科で扱われると記載している。主に整形外科、麻酔科、精神科だと思うが、もちろん神経内科や代謝内科などでも治療される。
疼痛はしばしば精神障害を伴うことや、治療に難渋すると精神科に紹介するケースもあるので、相対的に精神科に難しい患者さんが集まる傾向がある。
向精神薬には疼痛に治療的な薬剤が多いこともあり、精神科の方が治療の限界が広い。言い換えると、精神科の方が他科よりアイデアがあると思う。
ある時、なかなか足の疼痛が良くならず、あちこちの整形外科を転々とし十分に歩けない状態の人がいた。ある日、足を捻ったことが原因のようであるが、整形外科では十分に説明できる器質性所見がなかったのである。そのため料理をするにも、片足立ちをしないとできない状態が約2年続いていたらしい。
最初に相談を受け治療を始めたところ、サインバルタなどの強力な抗うつ剤やガバペンなどの抗てんかん薬も全然効かないことに驚いた。リリカやトラムセットなどの整形外科や内科でも試みやすい薬は全て効かないのである。
治療開始後、あまりにも良くならないので、どうしたらよいものか考えていた。この女性の足の疼痛は両足にはなく、片足にあるのがまずポイントだと思った。線維筋痛症はこのような人もいないわけではないが、体の正中に出ることが多い。また必ずしも筋肉に痛みが生じるわけではない。
それまで使われていた薬の影響を見ていると、どうもあやしい薬はアトルバスタチンしかないのである(リピトール)。
アトルバスタチンの添付文書には副作用欄に以下の記載がある。
1)重大な副作用(頻度不明)
[1]横紋筋融解症、ミオパチー:筋肉痛、脱力感、CK(CPK)上昇、血中及び尿中ミオグロビン上昇を特徴とする横紋筋融解症があらわれ、急性腎障害等の重篤な腎障害があらわれることがあるので、観察を十分に行い、このような症状があらわれた場合には直ちに投与を中止すること。また、ミオパチーがあらわれることがあるので、広範な筋肉痛、筋肉圧痛や著明なCK(CPK)の上昇があらわれた場合には投与を中止すること。
しかしそうは言うものの、CPKは上がっていないし、滅多にない副作用だと思う。
そこでどういう対処をしたかと言うと、アトルバスタチンを中止しプラバスタチン(先発品はメバロチン)に変更したのである。実は完全に中止したかったが、眼底出血の既往があり、再発した時に痛すぎる。その対応で良くなるかどうかもわからないことも考慮し、リスクを軽減するためプラバスタチンに変更にとどめた。
メバロチン(プラバスタチン)は三共(現;第一三共)による画期的な創薬である。メバロチンが発売された当時、日本から世界に通用する凄い薬が発売されたと大騒ぎになった。実はその後、似たような効果と構造式を持つリポバス(シンバスタチン)も発売されたが、この2剤は薬効は似ているものの決定的な相違がある。
それは、メバロチンは水溶性だがリポバスは脂溶性なのである。これで何が違うかと言うと、水溶性の方が副作用が少なくなるという。当時の三共はリポバスの構造も意識していたと思うが、メバロチンの方が薬剤として優れているため会社の判断で上梓したのである。
さて、アトルバスタチンの添付文書を調べると、以下のような記載がある。
性状:アトルバスタチンカルシウム水和物は白色~微黄白色の結晶性の粉末である。メタノールに極めて溶けやすく、ジメチルスルホキシドに溶けやすく、水又はエタノール(99.5)に極めて溶けにくい。光によって徐々に黄白色となる。
アトルバスタチンもリポバスと同様、脂溶性なのである。しかし、水溶性のプラバスタチンに変更したからと言って疼痛がなくなる確証はなかった。
この結果だが、約2年続いた足の疼痛は魔法のように消失したのであった。彼女は今はスポーツクラブなどで毎日のように体を動かしている。
アトルバスタチンはもう長い期間服薬していたので、この薬を中止したために突然痛みが良くなるのはおかしいのでは?と思う人もいるかもしれない。しかし、疼痛性障害が発生するエチオロジーを調べると外傷や何らかの強い衝撃から起こっていることも多いのである。
そのようなことから、彼女はアトルバスタチンを継続していたことでこのタイプの筋肉の疼痛が発生しやすい準備状態にあったと思われる。その際に強く足を捻ったことで治癒しにくい筋肉系の疼痛が出現したのだと思った。
この話はかなり前の話だが、この事件以降、同じような変更(アトルバスタチンからプラバスタチン)で足の疼痛が快癒した患者さんがもう1人いる。
このブログの過去ログでは自分は生物学的な診かたをする精神科医だと記載している。精神科はそうではないと言う人がいるが、十分にサイエンスである。最近のレキサルティのエントリを見てもそれが良くわかってもらえると思う。
参考