医学部の生理学実習 | kyupinの日記 気が向けば更新

医学部の生理学実習

今回は、「雷がとても怖いと言う話 」の続き。今日はずっと記憶を遡り、学生時代の話から。

医学部の基礎医学の実習は種々のものがあるが、最も有名なのは解剖学実習であろう。実は医学部では、それ以外の実習もかなりあるのである。生理学実習では、食用蛙レベルの大きな蛙を捕まえて来るように言われた。どうも自分は捕りに行った記憶がない。誰かが大量に確保してきたようである。

食用蛙は買うとなると、一匹、800円くらいはする。どうもそのくらいだったと記憶するが、随分高いものだと思った。

余談だが、自分の患者さんは天然のスッポンを捕らえ料亭に売るのをアルバイトにしていた。なんと、20年位前だが、天然のスッポンは5000円以上で売れると言うのである。大きさによると8000円で売れることもある。

その患者さんは、障害年金2級くらいであったが、その結果、数年後には貯金が1000万を超えるほどになった。ある程度の収入があっても障害年金は受給可能である。彼にどこで捕ったのか聴くと、

教えられん!

と言われた。彼にとって、まさに宝箱のような穴場だから。

食用蛙の話だが、この実験では蛙から取り出した心臓や足を利用して実験を行う。なんとも人間は残酷な生き物だと思うが、しないというわけにもいかない。

ある日、生理学実習でヒトの血液を利用するものがあった。ひょっとしたら、生理学実習ではなく、薬理学か衛生学の実習だったかもしれない。その日、学生はお互いに注射器を使い相手から血液を採取した。ところがである。

顔面蒼白になり倒れた男子学生が2名もいたのである。

この不祥事は、そのために退学させられることはないが、男性だけに極めて恥ずかしいことではあった。このタイプの実験は女子学生の方がむしろ平気である。むしろ、女子学生で実験そのもので泣くような子は全然いなかったと記憶する。

この事件だが、今から考えると、顔面蒼白で倒れしかも血圧も低下していたことは重大な所見と言えた。

特定の恐怖症は、DSM-Ⅲ-Rでは「単一恐怖」と言われていたが、他の精神所見の合併で、矛盾と言うか混乱が生じるために名称が変えられた経緯がある。例えば、特定の恐怖症ではパニック発作がよく起こるが、「単一恐怖」と言う診断基準では、パニック発作があると、この診断基準を満たさなくなるのである。DSM-Ⅳの特定の恐怖症の診断基準ではいくつかの変更がなされ、パニック発作が生じる可能性があることを認めるように書き直された。

しかし重要な点は、特性の恐怖症では、パニック発作は「特定の恐怖刺激」に状況的に結びついていること。ここがパニック障害と対照的な点であろう。この部分だが、DSMーⅣの診断基準では、「うまく説明されない」という言葉が入れられており、臨床医の判断が必要であることを強調している。(恐怖症の内容、刺激とパニックの関係の深さなど)

DSMーⅣでは、特定の恐怖症は、

動物型(ゴキブリ、ネズミ、爬虫類、犬など)
自然環境型(嵐、雷、竜巻、高所、水など)
血液、注射、外傷型
状況型(例えば、車、電車、飛行機、閉ざされた空間)
その他の型(上記に入らない特定の恐怖。例えば、窒息、嘔吐、あるいは病気にかかるかもしれないことを避けること、子供の場合、大きい音、仮装した人を避けること)


などに分類されている。自然環境型は10歳以下の子供に多く、状況型は20歳代前半に多いことが知られている。

血液、注射、外傷型では、通常全ての恐怖症に一般的である頻脈がまず起こるが、その後もしばしば徐脈と低血圧が診られる点で他の恐怖症と鑑別できる。

つまりだ。あの生理学実験で顔面蒼白で倒れた2人の学生は、生理学的にも診断基準通りの現象が起こったことがわかる。

血液、注射、外傷型の特定の恐怖症は、特に1つの家族内で多くの人や幾世代にもわたり出現する傾向がある。(つまり遺伝子から来る部分が大きい)。

いつだったか、「買ってはいけない」という本がブームになったことがある。これは、潜在的に「病気にかかること」ないし「健康を害す可能性があること」への恐怖を突く不安ビジネスに沿うものと思われる。これは特定の恐怖では「その他の型」に入るものである。

元々、特定の恐怖症は有病率が高くありふれた疾患なので、このようなビジネスが成立するのはよく理解できる。母集団がかなり大きいからであろう。