カッコーの巣の上で(その2)
「カッコーの巣の上で」の映画の最後の場面で、アメリカインディアンの男性患者が床に備え付けの大きな思い設備を持ち上げ、窓ガラスに投げつけ病院から逃げていく場面が出てくる。この場面、どうも同じようなことに遭遇したことがあるような・・
ある若い患者は、興奮するとそこいらのテーブルを持ち上げて投げるという行動が出現していた。すごい力で机をぶん投げるので、それに直撃されたら、それこそ死亡も考えなければならなかった。不思議と、必ずそうなる前に急に天井を見上げてブツブツと呟き始めるのである。いったんテーブルなどを投げ始めると手が付けられなかった。それこそ激しい興奮で、しかも薬が全然効かなかった。ブツブツと呟き始めると幻視があるようであったが、その時は会話どころではなくで詳しい内容はわからなかった。
彼は、いくつかの点で統合失調症的ではなかった。だいたい、統合失調症では幻視は珍しい。あと、その患者さんにはプレコックス感がなかった。よく統合失調症の人に「プレコックス感がみられる」と言うのがあるが、それらしさというのはプレコックス感だけではない。しかし少なくとも、統合失調症でプレコックス感の乏しい患者はほとんどいない。プレコックス感についてはいつかまとめて話したい。
結局、症例検討会の診断では、「器質性精神病」という結果になった。ただ、脳波でもCTでも正体がつかめないので、「そういうものでとらえることができない脳器質に由来するもの」とされたのであった。当時、まだMRIがなく、またCTはいわゆ女王陛下のCTで極めて精度が悪く特に脳幹や後頭葉はアーチファクトで全然分からないようなものであった。
その後まもなく、MRIが導入されすべてが明らかになった。なんと後頭葉に寄生虫が巣を作っており、かつての症例検討会の診断は極めて正確だったのである。では、彼は何なんだと言われれば、「てんかん性精神病」に近いものとも言える。人によれば、その症状は「てんかん」そのものではないかと言う人もいるかもしれない。
普通、司法精神鑑定などで、「てんかんの発作時」には殺人事件などのようなまとまったことは難しいとされている。その物を投げ始めるということはわりと単純なものであるので、一連の動作をてんかんと呼ぶ人もいるかもしれないが、僕は精神症状に近いと考えている。てんかん発作時のいわゆる「無意味な動き」とは、程遠いと思われるからだ。
このように単に患者さんと接して診察することで、大部分の精神疾患は画像診断よりもはるかに正確に診断できる。この点で、精神科は一般に考えられているよりはるかにサイエンスだと思う。操作的診断法の、「以下のうちから何項目以上」とか、そんな診断法がバカにされるのはやむを得ない。