鏡像異性体 | kyupinの日記 気が向けば更新

鏡像異性体

ちょうどセパゾンの話をしたので、鏡像異性体のことを思い出した。鏡像異性体は光学異性体とも言われる。セパゾンの錠剤には鏡像異性体2種類が含まれている。セパゾンのように鏡像異性体2種類が入っているものは、向精神薬にはいくつかある。鏡像異性体とは、高校の化学で出てきたと思うが、2つの分子がキラル(鏡像)の関係にあり重ね合わすことができないものを言う。これらはenantiomer(鏡像異性体)と呼ばれている。鏡像異性体は旋光度を除くすべての物理化学的性質が同じであるが、薬理作用は異なることが知られている。

有名なのは、タリビッドとクラビット。
タリビッドは、1980年代に第一製薬により開発されたニューキノリン系抗菌剤で一般名では、オフロキサンといわれている。タリビッドには、鏡像異性体、S(-)オフロキサンとR(+)オフロキサンが1:1で含まれているが、後に開発されたクラビットにはS(-)オフロキサンのみが含まれる。この、S(-)オフロキサンは強い抗菌作用を持つが、R(+)オフロキサンは抗菌作用を示さない上に、副作用が大きいのである。例えば、僕はタリビッドは下痢の副作用が強く出て飲めないが、クラビットは普通に飲める。実は、この鏡像異性体の一方だけを生成するのはけっこう難しいらしい。タリビッドの中の一方の鏡像異性体が優れているのに気付き、一方だけの生成に成功したのはすごいと思う。余談だが、鏡像異性体のこの薬理作用に違いについての特許をキョウリン?が取っていて、第一製薬(現、第一三共株式会社)がクラビットを1錠売るたびにライセンス料がキョウリンに入ると聞いたことがある。(これにはちょっとワロタ)

他、わりあい有名なのはサリドマイド。
サリドマイドの鏡像異性体の一方は睡眠薬の作用が持つが、もう一方は、いわゆるサリドマイド児を生じさせる有害作用を持っている。このサリドマイドだけど、現在は実質的に復活していると思うよ。何年か前に患者さんを治療した時、合併症で多発性骨髄腫で治療をしていて、国立病院でサリドマイドが処方されていた。このサリドマイドの復活のエピソードだけど、中近東かどこかの国のハンセン病の療養所で、あまりにも患者さんが痛がって眠れないので、そこのドクターがヤケクソでサリドマイドを服用させてみると、翌朝、ハンセン病の症状がかなり軽減していたという話から始まっている。その病院の薬物倉庫には、多分使用期限は切れていたと思うが、埃にまみれたサリドマイドの瓶があった。その医師は「確か、サリドマイドは睡眠薬でもあったよなぁ」などと思い服用させたのである。現在、サリドマイドはベーチェット病やある種の腫瘍などに日本でも処方されているようなのである。

精神科関係で鏡像異性体2種類が製剤に含まれるものは、

セパゾン
ワイパックス
アタラックスP
ソメリン
ブロバリン
ザロンチン(抗てんかん薬)
アーテン(抗パーキンソン薬)
アルマール(本態性振戦の治療薬)


などがある。これら鏡像異性体のどっちのタイプが強い薬理作用があるのかまでは知らない。