精神疾患と生命保険について(その2)
生命保険を加入する前に、現在、病気で治療中であるかどうか調査書に記入させられる。これは病気がある場合、加入してからいきなり保険金を受け取ることもできるわけで健康である人に比べ著しく公平を欠くためだ。このルールは精神疾患に限らず、すべての疾患についても同様である。病気があるのにもかかわらず、それを書いていない場合、「申告義務に違反する」とされ、保険金が支払われなくなる。
過去に罹患したものに関しては、時間が経てば問題がない場合も多い。例えばインフルエンザがもう治っているのにいつまでも加入できないなら、それはむしろ保険会社の損失になってしまうからだ。もし病気になってから加入可能なら、健康な時は誰も保険に入らない。というか健康な時に入る意味があまりない。
精神疾患の場合、思春期に発病する可能性もあるわけで、現在の日本の経済環境だと加入していない人も多い。もう勤めを始めてから発病した場合なら、加入しているケースも多くなる。だから精神科医からすると、精神科の入院患者は生命保険を受け取るケースが少ないように感じる。いつの時点で生命保険に加入したかが大切で、おおおざっぱに言えば、最初に精神科にかかった初診日が基準になる。初診日以降に生命保険に加入している場合、普通、その疾患が原因なら何があっても支給されないのが普通だ。申告義務に違反しているからだ。精神疾患を申告していたなら、生命保険に加入するのはおそらく難しい。ここで、わかりやすいように例を挙げる。
2001年1月、不眠が発生。学校(仕事)を時々休み始めた。
2001年7月、○○生命保険に加入。
2002年1月、うつ状態を呈しAメンタルクリニックを初診。以後、外来 通院する。
2002年4月、申告せず△△生命保険に加入
2002年10月、病状悪化し、B精神科病院に転院。外来通院を開始。Aクリニックには通院しなくなる。
2002年12月、病状が更に悪化し、2ヶ月の入院。
2003年2月、軽快退院後、外来通院を継続。
こんな場合、一般的には、○○生命保険の入院給付金の受け取りは可能だが、△△生命保険は受け取りは困難である。この患者さんの場合、2001年には1月には既に精神疾患は発生していたかもしれない。専門的に言えば、2001年からの不眠を含めた精神面の不調は一連のものである可能性が高い。もちろん断言はできないが。当時、本人には病気になったという意識が乏しいであろうし、だいたい病院にもかかっていない。Aクリニックの初診時には、きっと2001年1月には不調であったということを話していたと思われる。初診時には通常こんな風に病歴を聴かれるものだ。だから、もし主治医に病気の発生(この日を記載する欄が生命保険の診断書にある)は2001年1月と診断書に書かれてしまった場合、○○生命保険会社でさえ、入院給付金が支給されるかどうかが微妙になる。この申告義務違反があるかどうかの調査が必要になり事態が複雑になるのだ。
こんな時は、たいてい調査専門の会社の調査員が病院に事情を聴きにやってくる。(生命保険会社は調査は外注に出すようだ) 上の例の場合、2001年1月と発生日とされた場合でも判断は微妙だと思われる。なぜなら患者さんに悪意がないと思われるからだ。支給するかどうかは保険会社の個別の判断による。
ところで医師からすれば、そもそも病気の発生を2001年1月と書く必然がない。なぜなら、不眠や体調が悪くて会社を休むなんてことは、普通の人でもありうるからだ。つまり、2001年1月の疾患発生には証拠がない。精神疾患は、何年何月何日に突然発病するとわかるものは極めて少なく、診断書の発病日も「何年何月頃」くらいに書かれることが多い。したがって上記の場合、発病日の判断は医師の裁量に任される範囲と考えられる。はっきりと存在するのは初診日だけだ。だから患者さんの方もいつ生命保険に加入したか良く確かめて診断書を書いてもらわないといけない。(医師もそれを心得て診断書を書かないといけない) ちょっとしたうっかりで、保険金が出なくなるのはバカらしい。
絶対あいまいにできないのは初診日で、これだけは変更できない。これは書類上、厳然と確定されたものであるからだ。これをごまかした場合、保険金詐欺と同じだ。だいたいこれができるなら、どんな不正もできると言える。
(以上その2は終わり。その3に続く)