ちょっと前のことだが、リハーサルと本番の間にかなり時間があいたので、どこかの喫茶店で仕事をしようと思った。
場所は桜木町の野毛、音楽通りあたりだが、うろうろしても飲み屋さんばっかり。
そう、飲み屋さんとして入りたい店はいっぱいあるのだが、落ち着いて仕事ができそうな喫茶店が見当たらない。
そのうち、今どきでもとりわけレトロでもない、思わず通り過ぎてしまいそうな喫茶店に出会った。
店名も確認せずに入る。
席はカウンターのみで、サイフォンで珈琲を淹れている。
壁には画廊のように誰かの絵がたくさん飾ってあるが、と言って画廊喫茶のような気取りはまったくなく、常連の年配の男女がTVを見ながら世間話をしている。
入口に近い一番端のカウンターに座りメニューを見ると、真っ先にトアルコトラジャとあった。
そういえば久しく飲んでないなぁ、トラジャ。
値段も500円しないし、迷わず注文。
他に甘味も色々あったが仕事がメインなので珈琲のみ。
マスターは60歳過ぎの、昔から考えるいかにも喫茶店の店主らしい男性。
当たり前のようにサイフォンで淹れてくれるのだが、以前は普通の景色だったはずのそれが最近そういえばほとんど目にしてないことに気付き、ハッとした。
安さだけのチェーン店ばかりでちっとも美味しいと思わない珈琲ばかり飲んでいる。
自宅で自分で淹れる珈琲が一番美味いと常々思っていた。
しばらくして出てきた珈琲は当たり前のようなカップ&ソーサー。
ただ、その香りでニンマリしてしまった。
品のよい澄んだ、でもしっかりとしたコクと深い味わいを感じさせる、これぞ珈琲店の珈琲の香り、トラジャの香り。
そして味わいで気に入ったのが、きっちりと表情のある酸味だ。
チェーン喫茶店の珈琲にはこの酸味がまったくない。
しかもまろやかながら余韻も続き、ぼくには理想的な酸味と思われた。
もちろん苦味と甘味のバランスもよく、想像通りの豊かなコク。
ああ、喫茶店で飲む珈琲は、プロの仕事としてやっぱりこれぐらいのクオリティが欲しい。
仕事をしつつゆっくりと飲みながら満足した。
お会計を頼むと常連さんだと思っていた年配の女性がママだった。
美味しい珈琲をありがとう。
きっとまた来ます。
後ほど確認したのだが、いつも豆を買う自宅近所の珈琲豆屋さんではこのトアルコトラジャは扱ってなかった。
珈琲豆事情はちっとも詳しくないが、トラジャはキーコーヒーの専売なのかな。
浮気して別の豆屋さんを覗いてみるか。
