こんにちは。

今回は、私たちが新たに挑戦した、非常に特別で、そして深いご縁から生まれた「香りの雫」についてお話しさせてください。

南九州、そしてここ熊本・球磨川流域の豊かな自然が育んできた幻の野ばら「ツクシイバラ(筑紫茨)」。 この度、人吉・球磨の地で大切に育てられたツクシイバラを収穫させていただき、樫の木蒸溜所が得意とする「低温真空蒸留」を用いて、その繊細な香りをそのままボトルに閉じ込めることに成功しました。

このプロジェクトは、単なる植物の蒸留ではなく、大正時代から続く歴史、そして地域を守り続ける人々の熱い想いとの出会いから始まりました。

 


■ 大正6年、一人の植物学者が魅せられた「幻の野ばら」

みなさんは、ツクシイバラの歴史をご存知でしょうか。

この美しいピンクの野ばらが歴史に初めて登場したのは、今から100年以上前、大正6年(1917年)のことです。 地元の偉大な植物学者であり教育者でもあった前原勘次郎(まえはら かんじろう)氏によって、熊本県旧球磨郡上村(現在のあさぎり町上)の免田川のほとりで発見されました。

日本の固有種でありながら、一時は環境の変化によって絶滅の危機に瀕した、南九州特有の極めて貴重な野生のバラ。それがツクシイバラです。

 


■ 20代からのご縁がつないでくれた、特別な収穫

今回、この貴重なツクシイバラを蒸留することができたのは、私にとって大切な「人との繋がり」があったからです。

私の20代の頃からの長いお付き合いである、東慶治郎さん。 その東さんのご紹介によって、熱心に保護活動を続けられている「球磨川ツクシイバラの会」の会長・桑原さんとの素晴らしい出会いをいただきました。

桑原さんは、ご自身が運営されている「福島保育園」でも、子どもたちの成長を見守るようにツクシイバラを大切に栽培されています。

今回は、東慶治郎さんのご自宅、そして福島保育園さんに美しく咲いたツクシイバラを、特別に収穫させていただくことができました。地域の宝であり、皆さんが我が子のように愛着を持って育てられたバラをお裾分けしていただく――。これほど贅沢で、身の引き締まる収穫はありません。

 

左が桑原さん


■ 低温真空蒸留で描く、球磨川の河川敷に漂う「あの香り」

ツクシイバラの香りは、いわゆる市販の華やかで強い香水のようなバラ(薔薇)の香りとは全く異なります。

収穫した花びらを、熱をかけずに成分を優しく抽出できる「低温真空蒸留」の機械へと生け込み、じっくりと蒸留を行いました。

 

 

 

仕上がった植物 cell water(芳香蒸留水)からは、期待通りの、いえ、期待以上の素晴らしい香りが立ち上りました。

強い自己主張をする香りではありません。 それは、初夏の球磨川の河川敷を歩いているときに、どこからともなくフワッと風に乗って、うっすらと漂ってくる「あのツクシイバラの優しく可憐な香り」そのもの。

自然のままの美しさを、そのまま液体として再現できたような、どこか懐かしく、心がすっと穏やかになる香りです。

 

また、この素晴らしいご縁とツクシイバラの美しい歴史を未来へとつなぐため、今回は香りの抽出だけでなく、もう一つの試みを行いました。いただいた大切な枝を、樫の木蒸溜所の畑に「挿し木」させていただいたのです。この蒸溜所の土でしっかりと根を張り、いつか美しいピンクの花を咲かせてくれる日を夢見て、これから大切に育ててまいります。

 


■ おわりに

大正時代に前原氏が発見した歴史に想いを馳せ、東さんや桑原さんが繋いでくださった人の温かさに感謝しながら、この香りを形にできたことを心から嬉しく思っています。

人吉・球磨の風土と、人々の愛情が凝縮されたツクシイバラの香り。 この特別な雫を、今後どのような形で皆さまにお届けできるか、どうぞ楽しみにお待ちください。

素晴らしい恵みを分けてくださった東さん、桑原さん、本当にありがとうございました。