体外受精では、「胚盤胞まで育ててから移植した方が良い」と説明されることがあります。
確かに胚盤胞まで発育できることは、その胚が持つ一つの重要な力です。
しかし、胚盤胞まで育たなかった胚は、最初からすべて妊娠する力がなかったのでしょうか。
今回は、この点について非常に興味深い研究をご紹介します。
2023年に Genome Medicine に報告された研究では、125名、165回のIVF周期から得られた胚を詳しく解析しています。採卵時の平均年齢は38.9歳、年齢範囲は30〜45歳でした。
正常に受精した2PN胚1,232個のうち、胚盤胞まで発育したのは622個(50.5%)でした。一方、610個(49.5%)は受精後から桑実胚・初期胚盤胞までのどこかで発育が停止しました。
つまり、正常に受精した胚の約半数は、体外培養では胚盤胞まで到達しなかったことになります。また、胚盤胞到達率は女性の年齢が上がるほど低下していました。
では、なぜ発育が止まるのでしょうか。
発育停止した胚を調べると、94%に何らかの異数性が認められました。特に、受精後の細胞分裂の過程で生じる有糸分裂由来の染色体異常が、発育停止と強く関連していました。
ここで非常に興味深いことがあります。
染色体異常には、卵子が作られる減数分裂の段階ですでに生じているものと、正常に受精した後の細胞分裂の途中で新たに生じるものがあります。
この研究では、受精時点では減数分裂由来の異数性がないと推定される受精卵から始まった胚でも、その後に発育停止する確率が38%と推定されました。
つまり、
正常と推定される受精卵からスタートする
↓
細胞分裂を繰り返す
↓
その過程で分裂異常や染色体異常が生じる
↓
発育が停止する
ということが起こり得るということです。
実際、最初の細胞分裂が異常だった胚では、有糸分裂由来の異数性が51%に認められたのに対し、正常に分裂した胚では23%でした。異常な初期分裂は発育停止とも非常に強く関連していました。
さらに著者らは、体外培養についても重要な考察をしています。
現在の培養液は非常に進歩していますが、女性の体内環境を完全に再現できるわけではありません。著者らは、体外培養された胚には一定のストレスが加わること、そして正常と推定される受精卵の一部も、異常な細胞分裂やその後に生じる染色体エラーによって失われている可能性を指摘しています。
私はここが非常に重要だと考えています。
「胚盤胞にならなかった=最初から妊娠できない胚だった」
と単純に考えることはできません。
特に高年齢で、採卵して得られる胚が1個、2個と限られている場合、すべての胚を胚盤胞まで培養することが本当にその患者さんにとって最善なのかは、慎重に考える必要があります。
もちろん、この論文は「初期胚の段階で子宮に戻していれば、その胚が妊娠・出産できた」ことを証明した研究ではありません。
また、発育停止の大部分に染色体異常が認められていることからも、胚盤胞培養には発育能のある胚を選択できるという大きな意味があります。
大切なのは、すべての患者さんに同じ方法を当てはめないことだと思います。
胚盤胞培養、凍結・融解、PGT-Aなど、現在の生殖医療には多くの優れた技術があります。しかし、技術を使うこと自体が目的ではありません。
特に高年齢では一つ一つの胚が非常に貴重です。
その患者さんが持っている限られた胚から、どうすれば最終的に出産につながる可能性を最大限にできるのか。
胚盤胞まで培養するのか、初期胚で移植するのか。その方の年齢、これまでの治療経過、得られた胚の数などを見ながら、一人ひとりに最も適した方法を考えることが大切だと思います。
McCoy RC, Summers MC, McCollin A, et al. Meiotic and mitotic aneuploidies drive arrest of in vitro fertilized human preimplantation embryos. Genome Med. 2023;15:77.
