
不妊治療を受けるカップルにおいて、どの程度の頻度で染色体異常が存在するのか。どのような人がハイリスクなのか。本論文は、1993年から2024年までにARTを希望して来院した22万7818組のカップル、45万5636人を対象に、GTGバンディングによる核型解析を行った、過去最大規模の研究です。
図1が示す全体像

Figure 1A(p.3)は対象集団のフローチャートを示しています。50万人以上の核型検査実施者の中から、ART目的で両パートナーが検査を受けたカップルのみを抽出し、最終的に22万7818組が解析対象となりました。
Figure 1Bでは、カップル単位での染色体異常頻度が示されています。全体で3.42%に異常が認められました。これは新生児一般集団の0.5~0.8%と比較すると明らかに高率です。
群別では、原発性不妊3.54%、続発性不妊2.18%、反復流産・不良妊娠歴群4.83%と、有意差をもって反復流産群で最も高い頻度でした。
Figure 1Cでは性差が示され、原発性不妊では男性の異常率が女性より高く、反復流産群では女性が高いという対照的な傾向が示されています。
Figure 1Dの円グラフでは、構造異常が約69%を占め、数的異常(主に性染色体)が27%を占めていることが示されています。
年齢と染色体異常

Figure 2A(p.5)は年齢別頻度を示しています。興味深いことに、若年層ほど染色体異常率は高く、35歳以上ではむしろ低下しています。
これは「加齢で異常が増える」という直感とは逆の結果ですが、著者らはこれを病因の違いで説明しています。若年の生殖不成功では先天的染色体異常が主因である可能性が高く、高齢では加齢関連卵子異数性など別の要因が支配的になるためです。
精液所見との関連
Figure 2Cでは、精液所見と異常率の関係が明確に示されています。正常精液では0.89%であるのに対し、重度乏精子症で6.99%、無精子症では12.54%に達します。
無精子症では構造異常よりも数的性染色体異常が多いという構成比の変化も示されています。
これは、男性不妊における核型検査の重要性を強く裏付けるデータです。
反復流産との強い関連
Figure 2Dでは、不良妊娠歴の回数と異常率の関係が示されています。1回で3.07%、2回で6.32%、3回以上では9.38%と明確な上昇を示します。
特に女性側の構造的均衡転座の関与が強調されています。Discussionでは、均衡転座保因者の約3分の1が流産に至るとする既報が引用され、PGT-SRの適応が議論されています。
構造異常の分布

Figure 3(p.6)は構造異常の詳細を示しています。
Robertsonian転座ではder(13;14)が最多で61.11%を占めます。相互転座ではt(11;22)(q23;q11)が最も多く確認されています。
さらに、Robertsonian転座を除いた場合、染色体の長さ(haploid autosomal length)とブレイクポイント頻度には強い相関があり(R=0.933, P<0.001)、染色体が長いほど再構成が多い傾向が示されています。
ただし、11q23、22q11、7q22などは長さに比してブレイクポイント頻度が高く、ホットスポットである可能性が示唆されています。
性染色体数的異常
数的異常はすべて性染色体であり、47,XXY(Klinefelter症候群)と45,X(Turner症候群)が最多でした。
原発性不妊群では数的異常の割合が高く、反復流産群では構造異常が主体でした。
本論文の臨床的意義
この研究は、染色体異常の「全体頻度」だけでなく、「どのような患者がハイリスクか」を明確に層別化した点が最大の意義です。
若年の原因不明不妊
重度精子形成障害
反復流産
家族歴
これらの背景を持つカップルでは、核型検査の意義は高いと示唆されています。
一方、卵管因子やPCOSなど解剖学的・内分泌的原因が明らかな女性では、異常率は一般人口と大きく変わらないことも示されました。
結語
ARTを希望するカップルの3.42%に染色体異常が存在します。反復流産では約5%、3回以上では9%を超えます。無精子症では12%以上に達します。
巨大コホートによって、染色体異常のリスク層別化が可能となりました。適切な症例選択と遺伝カウンセリング、そして必要に応じたPGT-SRの活用が、今後ますます重要になることを示す研究です。
Yuan S, Cheng D, Zhang Q, et al.
The landscape of chromosomal aberrations in couples seeking assisted reproductive treatment.
Human Reproduction. 2026.
不妊治療を受ける方のうち、約3%に染色体の異常が見つかると報告されています。特に、流産を繰り返しているご夫婦や、無精子症・重度の乏精子症など精子の数が極端に少ない男性では、その割合がさらに高くなります。また、若いご夫婦でも原因がはっきりしない不妊の場合には、先天的な染色体の問題が関係していることがあります。こうした背景がある場合には、治療前に核型検査を行うことで、流産のリスクや治療方針をより正確に判断できます。すべての方に必要というわけではありませんが、リスクの高い方には大切な検査です。