1990年アメリカ映画
『レッドオクトーバーを追え!』
トム・クランシーによる
『ジャック・ライアン』という
元海軍士官の CIA将校が主人公
シリーズ第1作目だね
『レッドオクトーバー』
総排水量32000トンを超えるという
戦艦並みのソ連の怪物潜水艦
処女航海を任されたのは
ソ連潜水艦戦術の父と言われる
マルコ・ラミウス艦長
ショーン・コネリー主演だね
ところがこの人リトアニア人で
潜水艦ごとアメリカに亡命する気でいた
海水そのものに電荷をかける
するとその海水に磁場が生じるから
それを超伝導リニアモーターで
後ろがわに強烈に噴出させる
スクリューなしで推進できる無音潜水艦
このような兵器を
現在のソビエトに任せておくことは
世界核戦争の危機を招く
と考えたラミウス艦長
原子炉事故を偽装して
乗組員の大半を脱出させ
『レッドオクトーバー』そのものを
アメリカに引き渡し
子飼いの士官共々亡命することを考えた
大西洋中央部の海嶺
つまり海底の谷あいで
アメリカのロサンゼルス級
攻撃型原子力潜水艦『ダラス』
音楽通で耳がよく鍛えられている
音響探査専門の伍長
探査専門のコンピューターが
火山活動のノイズと判定していた
ノイズの中から異音を拾い出す
そしてダラス艦長に報告する
『 低周波の なんでもないノイズに
最初は 聞こえるんスよ
備え付けのコンピューターってやつはね
こういう音は何でもかんでも
「 火山活動 」ってことにしちまうんスよ 』
『 言ってる意味がわからんぞ
お前何が言いたいんだ?』
『 すみません! 録音したやつを
関係ないノイズをフィルターかけて濾して
例の低周波音成分だけにしてみました
そして 5倍速 10倍速 20倍速
にしてみたやつがコイツなんスよ!
トン、トン、トン、トン、トン
間隔は寸分違わずですよ
火山活動の音なんかじゃありません!
なんだかわかりませんが
間違いなくコイツは「機関音」です!』
『 スクリュー音紋照合はやったか? 』
『 もちろんやりました!何度もね!
アメリカ海軍も含めてどの国
どの潜水艦とも違う音です
何度も確認しました!
このローレンシア海溝の入り口
確かソ連の高速深海潜水艦の
通り道・ハイウェイじゃなかったスか?』
『 まとめるとこういうことか?
現在ローレンシア海溝の最深部を
おそらく未知の無音推進機関を搭載した
ソ連の新型巨大潜水艦が現在
アメリカに向かっていると
そういうわけだな?
コンピューターは見逃したが
お前の耳はそれを見逃さなかったと
そう言いたいわけだな?』
『はいっ!ぶっちゃけそういうことです』
結論から先に申しますと
『ステレオ録音技術』は
最初からこの映画に出てくるような
潜水艦探査専門の技術者を養成するための
『軍事技術』なんですよ
おそらく今後こういう専門家じゃなく
人工知能になっていくでしょうけど
最初のバーチャルリアリティ
『VR 技術』であった
『ステレオ・STEREO』
モノラル録音だと
どう頑張ったところで遠近感しかわからない
ところがそれが左右の耳を刺激する
『Stereo‐Sound』になると
左右の耳で音波の位相差を検波して
音波発生源の位置を特定できる
人間の脳の機能を
逆に利用することにより
音の発生源の位置が立体化される
『音響マッピング』が
脳内で行われるらしい
この事実が19世紀末の
グラハム・ベルによる実験で
わかったわけです
つまり特定の音源の
左右の録音機材による位相差を
正確に同期させ記録すれば
その録音素材を再生した時に
過去にその録音現場にいたと
同じような錯覚を
しかも現実に近い錯覚
脳内に音の遠近感を持った
像が再生され得る
しかし当時の録音機材はせいぜい
エジソンが発明したばかりの
蝋管式蓄音機しかありませんでした
しかも所詮娯楽とか道楽の話
そこまでのニーズはまだ存在しなかった
必要は発明の母です
ところがその必要性が
どうしてもという事態が発生した
第一次世界大戦の勃発です
ドイツ海軍はその優れた
工業力と技術力科学力をフル動員
かつてジュール・ベルヌが
『海底二万マイル』の中で想像し
H.G. ウェルズがその実現可能性を
懐疑的に考えていた
『軍事用実用潜水艦』を完成させます
『U‐boat・U ボート』です
戦艦大和は『超弩級戦艦』と言われた
超弩級の『弩・ド級』
イギリスの巨大戦艦ドレッドノートの『ド』
第一次世界大戦当時の海軍は
大艦巨砲主義全盛期
その巨大戦艦の戦力を
根本から揺るがしたのが
ドイツ海軍の恐るべき新兵器
U ボート型潜水艦だったわけです
軍艦としてみた場合
せいぜい70 M にも満たないような
小さなものがほとんどでした
しかしそれが数万トンの巨大戦艦を
あっという間に撃沈してしまう
ちなみにジュール・ヴェルヌが想像した
小説の『ノーチラス号』も
大きさはそんなものでしたよ
U ボートの登場と
その恐るべき破壊活動により
七つの海を支配していた
イギリスの立場が危うくなりました
しかしどうしようもありません
当時は音響探知機・ソナーはありません
ちなみに現在の潜水艦だって
そんなものは滅多に使いません
音を出せば自分の居場所を
知らせるようなものですからね
深く静かに潜航する潜水艦の音を
専門家の育成がどうしても必要になった
しかしそのための教材がない
現場で教育するしか方法がない
しかしそれでは手遅れです
その技術がようやく現れた
それが1930年代初め
米国 RCA 社と英国EMI社が
独立に出願した特許
『stereo recording technology』
ほんの一部ですが汎用化
トーマス・ビーチャムの SP 録音とか
『ファンタジア』とか
しかしそのほとんどは軍事機密とされ
軍事産業によって一貫して
開発されて行くことになりました
潜水艦探査技術士官の養成のためです
ステレオヘッドホンは当時からある
スピーカーで聞かせる場合もあるだろうし
それで潜水艦の音をステレオ立体録音で
どの国のどういう潜水艦が
どの方角から来ているか?
サンプリング演習によって
技術と勘を鍛えていくわけね
そのためには単に立体録音だけじゃなくて
全可聴帯域の音を捉える
技術が必要になった
その役割を仰せつかったのは
英国デッカ・Decca社だったわけ
『ロンドン』というレーベルだったね
LP 録音技術が図抜けて優秀
だったことでで有名な会社でしょ?
現ユニバーサル傘下だけど
あれは軍事産業の
下請けとして発達させた技術です
その軍事機密解除が1954年
おそらく実用商業ステレオ録音
もちろん英国Decca社によるもの
あの超人気指揮者
故 カルロス・クライバーの父親
エーリッヒ・クライバー指揮
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団etc
モーツァルト
『フィガロの結婚』全曲
現在でも入手可能ですよ
ウィーンフィルは現在のそれよりも
はるかにローカライズというか
固有の地方色をたくさん残している
とても貴重な記録です
それ以外の実験録音は
アメリカでいくつかあるんですが
その話はまたおいおいと