映画「シャネル&ストラヴィンスキー」 | おととひの世界

おととひの世界

リンクも始めましたよ

スーパーモデルさんが女優をやる。これはまあよくあるパターンかな?しかし本物の本格的な教育を受けた女優さん(パリ・コンセルヴァトワール)がちゃんとした女優さんとしてのキャリアとスーパーモデルさんとしてもキャリアを両立させている。これはなかなかないこと。しかもこの人あのシャネルのミューズ、2002年から勤めてるんだ。それでこの映画でココ・シャネルを演じるにあたり、シャネルのメゾンの全面協力を得ていると。へーえ。言ってみればシャネル公認の万全体制、バックアップと。

アナ・ムグラリスさん。女優にしてスーパーモデル。
監督はヤン・クーネン。「ドーベルマン」の人、あれはリュック・ベッソン系のアクション映画だけど今度は全然違いますよ。実録歴史ラブストーリーR15です。オープニングのCGの使い方上手ですね。NHKの大河のそれとかバカに見えてくる。

1913年パリ、シャンゼリゼ劇場。
幕あきを今か今かと待ちわびる着飾った紳士淑女。
作曲者ストラヴィンスキーと天才振付師ニジンスキー。もうむちゃくちゃにピリピリして待っている。ストラヴィンスキーのこれまでの作品。「火の鳥」と「ぺトルーシュカ」。ロシア人の興行師ディアギレフによって作られたパリのヴァレ工・リュッス団で初演され大成功。天才作曲家としてすでに名声を手にした。満を持した超話題作の初演になるはずだった。
ところが開演後まもなく、場内は私語とブーイングで騒然とし始める。「雑音はもうやめてくれ!」、「バカにするな!!」、、「歯医者を呼んでくれ!!歯が痛くなった!!」、「黙れお前らの頭が悪いだけだ!!」「なんだと貴様誰に向かって!!」。すでに物情騒然だった会場内ではやがて大乱闘が始まった。焦った興行師はまだ演奏中であったにもかかわらず何度も電灯を点けたり消したりした。後に大指揮者となったピエール・モントゥーも「最後まで聴いてくださいっ‼」とオーケストラピットから絶叫しなければならなかった。

なんとか演奏を終えることができた。しかしそこらじゅうでつかみ合いの大ゲンカが始まっていた。
シャンゼリゼ劇場始まって以来の異常事態。公演が終わる直前に警官隊が突入。それでも乱闘は止まらない・・。市の中央部で朝まで続いていたという・・・・。

その中でその様子をとても面白がっていた、1人の背の高い女がいた。ココ・シャネル。会場内外での大乱闘を尻目に満足げな笑みを浮かべながら会場を去った。

1913年、第一次世界大戦前夜を象徴する出来事として記憶された「春の祭典」の初演。

第一次世界大戦は第二次世界大戦と異なり、ヨーロッパ中の熱狂的な歓迎をもって迎えられた戦争です。ヨーロッパでは普仏戦争の後40年以上も戦争がなかった。長い平和の中で社会が完全に落ち着き、そう簡単に壊れそうもない秩序が出来上がっていた。現在と違ってヨーロッパの人口はまだ増える局面にあった。若い者ほど不満が募った。このような腐った社会を壊してくれるものなら何でもいい、という暴力的破壊を待望する空気が充満していた。同じように考えているー人こそ、誰あろうココ・シャネルだった。女手1つでPerfumeとクチュリエの世界に入り込み悪戦苦闘していた。時には体を武器にすることも厭わなかった。シャネルにとってみれば、そのような今の社会を殴りつけるようなことをやったストラヴィンスキー。ヒーローに見えたのも無理からぬことだった。

初演から数年後、戦争も終わり、シャネルもひとかど以上の人間になっていた。そして彼女の方からストラヴィンスキーにパトロネージを申し出た。
ほどなくこの2人は深い仲になった。しかしながらストラヴィンスキーの方は、その音楽ほどには革新的な恋愛感覚も結婚感覚も持ち合わせない、普通の保守的なロシア人のオヤジ。長くは続かなかった。

しかしお互い、得るものは得た。2人の交流はなんと1970年、ストラヴィンスキーの死まで続いた。

それにしても大興業主ディアギレフ。チャイコフスキーの親類の貴族らしいけど。ストラヴィンスキーじゃなくてモーリス・ラヴェル(「ダフニスとクロエ」「ボレロ」「ラ・バルス」)フランシス・プーランク、それから大口のスポンサーの1人がスペイン王だった縁でマヌエル・ド・ファリャ「三角帽子」、「恋は魔術師」も初演。その舞台と会場の緞帳画を書いたのが、あのパブロ・ピカソだったわけです。ピカソは度重なるデザインと設計の変更に閉口、思い切って段ボールのセットを考えた。ダンボール紙に立体の展開図を繰り返しが描いているうちに、あのキュビズムの独特な描き方を思いついた(このあたりが私の推量)。

プロデューサーってのもこうありたいものです。
シャガールなんかも随分一緒に仕事してますよ。

アートやファッションに少しでも関心があるという向きには、必見の映画ですね。良い出来です。

それにしてもオーケストラがうますぎる・・・・と
思ったらサイモンラトル指揮ベルリン・フィルだったんだ。どうりで・・・!

人類史上空前の世界大戦が始まる前夜のヨーロッパの空気、見事に捉えた映画だと思います。