20年程前の当時のアヤワスカ日記より⑦
こうしてアヤワスカデビューを無事に果たした私は、アヤワスカにはまった。
心が洗われるとか、感謝を感じろと、精神世界の人間や宗教家は言う。しかし、実際にそれをどうすればいいのかは言わないし、大部分の信者は、そうあるべきという押し付けからそう口にする。残念ながら、体得するための具体的な術がないのだ。しかし、アヤワスカで得るビジョン、感覚は、他人に伝えることはできなくても、自分が具体的に感じ、理解することが可能だ。
この日、私はアマゾンから招聘されていたシャーマンを交えた、二度目の儀式を受けることにした。
昼すぎ、参加者たちが集まり始める。この日の参加者は30名弱だった。例によって日本人は私だけ。最初にアヤワスカを口にする。あのような体験ができるのなら、少々のまずさは気にならない。すんなりと1杯目を飲み干す。やがて、二杯目のアヤワスカが配られる。このとき、例によって、私に効きは回っていない。
二杯目のアヤワスカを飲み終えると、私たちは、アマゾンからやってきていたシャーマンの手ほどきで、円陣を組み、隣の人と肩を組んで、歌いながら、片足を上げては回るというダンスを教わる。これは豹のダンスだそうだが、アヤワスカを飲んだ上で歌いながら回っていると、確かにトランス状態になってくる。
やがて、雲が空を覆い、雷が鳴り始めた。
儀式の中盤になり、少しずつアヤワスカが効き始めた参加者は、椅子に座ってうつらうつらしていた。
次にシャーマンは、目薬を取り出し、椅子に座った参加者に、その目薬をさし始めた。これは、カエルから抽出したエキスを使った目薬で、テレビやパソコンなど、電磁波でやられた現代人の目を癒してくれるという。すこぶる痛いので、経験者は顔をしかめながらシャーマンの目薬を待ち、雫を目に落とされては悲鳴を上げていた。私は我慢できる範囲だったが、子供たちはひいひい言っていた。
目薬が終わると、次にシャーマンは、鹿の角でできた50cmほどの煙管を取り出した。その先に、灰色の粉末を込めると、参加者の一人ずつを呼び出し、鼻の穴に煙管を入れ、息を吹き込む。
いよいよ私の番だ。煙管が鼻の穴に詰め込まれる瞬間、なぜか私はゾウの喉ちんこを見た。強烈な勢いで粉末が鼻の穴に吹き込まれる。一瞬、息ができなくなったかのようになる。よろよろと椅子に戻ると、その効果はすぐに現れた。(注:当時は知らなかったが、これは儀式用のハペで、現在日本や海外に出回っている物とは異なる。ヨポやセビルとも異なるレシピで調合された、稀なるハペであった。)
時間は夕方前、辺りはまだ明るかったが、目を瞑りしばらくしていると、急激にバンと視界に暗幕が閉じられた。
目を開けるとこの世界に戻るのだが、目を瞑ると完全な暗闇の世界に入る。しばらく座っていると、とてつもない虚脱感と恍惚感、椅子から立てず、気持ちが良いのか悪いのかわからずうとうとしていると、視野の右端にゾウの目が現れた。私を伺うように瞬きせずに見ている。やがて、このゾウの目はすっと消えた。
その途端、頭頂部から引き上げられるようにして、私は宇宙まで急上昇した。遊園地で急激に地面から地上何十メートルという高さに上昇する乗り物があるが、あたかもその感覚が実際に起きている。その引き上げられ方が気持ちよく、目を瞑ってそのままにしていると、急激に地面に戻ってきた。引き上げられる感覚は、上に引っ張られていくという過程が伴っていたにも関わらず、降りてくるときは一瞬だった。
やがてぽつぽつと雨が降り始め、儀式のクライマックスは、屋内に移された。
アヤワスカで見られるヴィジョンや幻覚は人さまざまだ。なかには、その幻覚のなかに、自分の人生で抱えている問題解決のヒントが混じっていたり、病気に悩む人は、明確にその病の理由と癒し方を教えてもらえることもあるという。実際に、アヤワスカを使った儀式で、糖尿病や医者が見放した不治の病、癌なども寛解した例があるという。しかし、多くが幻覚で終わってしまうことも多い。だが、シャーマンだけは、異界をどう飛べばよいか知っているという。つまり、行きたいところ、知りたいこと、聞きたいことにピンポイントで到達できるという。
私が現地で出会ったブラジル人たちが、いったいアヤワスカで何を見て感じたのか尋ねてみた。
男性38歳(当時)
シャーマンのアシスタントを目指し、足繁く儀式に通いつめている気の良い男性。最近は、アヤワスカを飲んでも嘔吐しなくなったという。この日の儀式では、小さな小人が足元にまとわりついてきていた。自分の膝の高さに満たないほどの身長で、無意識のうちに彼らと楽しく踊り始めていた。昔は肉を食べていたが、アヤワスカを続けていくうちに、いつしか肉が食べられなくなった。
女性42歳(当時)
子供と旦那の3人でいつも儀式に来ている常連。黒い大蛇が自分にまとわりつき、怖くて仕方が無かった。メッセージはよくわからないが、自分が抱えているネガティブな感情が出てきたものと思われると解説していた。
女性41歳(当時)
アヤワスカ体験はこの日が二度目。大きな大木の中に自分はいるのだが、その大木の暖かさに感動していると、大きな蛇がやってきて、自分の顔を舌で舐めまわす。ヴィジョンは次々と脈絡がなく続き、宇宙人のような大きな目が常に自分を見張っていたそうだ。
私はこの日、合計で四杯のアヤワスカを飲んだ。儀式の終盤で、また一度嘔吐した。しかし、この日の効きはさほど強くなく、儀式に参加していた男性の車で、駅近くのホテルまで送ってもらうことにした。
ところが…。
つづく…
