朝の境内。
トラ住職、静かに言う。
「ジャンジャン和尚。
本日は托鉢に出ます。」
ジャンジャン和尚、姿勢だけは完璧。
「はいっ!!修行ですねっ!!」
歩き出して三分。
ジャンジャン、突然停止。
鼻、ヒクヒク。
「……住職。」
「どうしました。」
「右前方、12メートル。
焼きたてパンの匂いです。」
「気のせいです。」
さらに五歩。
ジャンジャン、方向転換。
「これは修行です!!
誘惑に近づいて耐える修行!!」
「それは修行ではありません。
ただ近づいています。」
パン屋の前。
ジャンジャン、涙目。
「住職……
香りだけで悟れそうです……」
トラ住職、ため息。
そのとき。
店主が言う。
「お坊さん、余ったパンどうぞ。」
ジャンジャン、
悟りの速さで合掌。
「世界は優しい!!」
トラ住職、小声。
「……托鉢、成功ですね。」
ジャンジャン、すでに三個目。
「修行って、美味しいですね!!」
トラ住職、空を見る。
(この弟子は…
煩悩で動いているのに、
なぜこんなに清々しいのだろう)
ジャンジャン、満面。
「住職!!
次は左前方!!
焼き芋です!!」
トラ住職。
「……今日は風向きが強いですね。」
(すべての匂いが届く。)
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