CGなしの衝撃、圧巻の映像美!
午前十時の映画祭16
映画『怪談』
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小泉八雲の怪談が、こんな映像になるとは……。
『怪談』というタイトルから、もっと怖い映画を想像していました。
ところが、実際に観てみると――
怖いというより、まず「映像美」に圧倒されました。
巨大なセットで描かれる世界は、どこか幻想的で、とにかく美しい。
そして、その美しさの中に、じわじわと恐怖が入り込んでくる。
そんな不思議な映画でした。
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■作品情報
1964年/東宝/183分
<監督>
小林正樹
<原作>
小泉八雲
<脚本>
水木洋子
<音楽>
武満徹
■『ばけばけ』を見ていたから、なおさら楽しみだった
今回の『怪談』は、かなり前から楽しみにしていた作品です。
NHKの朝ドラ『ばけばけ』を見ていたこともあり、そこで描かれる小泉八雲、そして彼が残した怪談にも改めて興味を持っていました。
そんな中、今回の「午前十時の映画祭16」で『怪談』がラインナップされると知り、
「これは映画館で観てみたい!」
と思っていたんです。
そして、ようやく初鑑賞。
小泉八雲の怪談を、小林正樹監督がどのような映像にしたのか。
楽しみにスクリーンに向かいました。
■内容(4つの怪談を描いたオムニバス)
映画『怪談』は、小泉八雲の作品から以下の4つの物語を映画化したオムニバス作品です。
そして各話の豪華な出演陣にも目を奪われます。ここでは書ききれないので主な方だけ挙げておきます。
●『黒髪』(主演:新珠三千代、三國連太郎)
貧しさから妻を捨て、別の女性と結婚した武士。やがて罪悪感に苛まれ、元の妻のもとへ戻るが……。
●『雪女』(主演:仲代達矢、岸惠子)
吹雪の夜、命を助けられた代わりに「今夜の出来事を口外しない」と雪女と約束したきこりの青年。数年後、美しい女性と出会い結婚するが……。
●『耳なし芳一の話』(主演:中村賀津雄、志村喬、丹波哲郎)
盲目の琵琶法師・芳一。夜な夜な平家の怨霊に呼び出され、阿弥陀寺の墓場で琵琶を弾き、次第に命を削られていく。

●『茶碗の中』(主演:中村翫右衛門、仲谷昇)
ある武士が茶を飲もうとすると、茶碗の中に見知らぬ男の顔が映ります。気味が悪いと思いながらも、そのまま茶を飲み干す武士。
すると、その夜――。茶碗の中に映っていた男が、目の前に現れるのです。いったい何者なのか。そして、なぜ茶碗の中に顔が映ったのか――。
どれも日本の怪談として知られている物語。
私も「黒髪」「雪女」「耳なし芳一の話」は、ある程度ストーリーを知っていました。
一方、「茶碗の中」は全く知らず、話そのものを一番楽しみにしていた物語でした。
だからこそ、前の3作品については、
「知っている物語が、どんな映像になっているのか」
というところに注目して観ていました。
そして実際に観てみると……
これが、とんでもなかったのです。
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■まず、とにかく映像が凄い!
映画が始まって、最初に感じたのは、
「何なんだ、この映像は……」
という驚きでした。
普通の日本映画とは、明らかに違う。
背景も、色彩も、セットも、人物の動きも、すべてが現実の世界とは少し違って見える。
まるで大きな絵画が、そのまま動き出したような世界です。
特に印象的なのが、CGの技術もない時代での背景美術。
実際には大きなセットを組んで撮影されたそうですが、その人工的な空間が、逆にこの世ではない世界を作り出しているのです。
国立映画アーカイブによると、廃屋となっていた自動車倉庫にステージを設け、大規模なセットを組んで撮影。
美術を担当した戸田重昌によるホリゾントの空(背景に描かれた空)なども高く評価されています。
そして音楽は武満徹。
映像だけではなく、音までが普通の映画とは違う。
怖がらせるために音を鳴らすというより、音そのものが怪異の一部になっている。
そんな感じがしました。
とにかくこの作品にはアートという言葉がピッタリだと思います。
その最たるものが「耳なし芳一の話」でしたね。
★ここでちょっと豆知識。
実は武満徹は、普通の楽器を演奏して音楽を作っただけではありません。
「黒髪」で武士が黒髪から逃げる場面の衝撃音には、青竹を折った音や、諏訪湖の御神渡りの音などが加工されて使われているそうです。
実家のある諏訪湖の御神渡りの音が入っていたとは、もうびっくり。最近は暖冬のせいで御神渡りが見られなく、氷の亀裂が走るときに響く「ゴーッ」「バリバリッ」というような大きな音は、久しく聴いたことはないですね。
また「雪女」では、尺八の音や石を叩いた音などを加工して、風や吹雪を表現しているようです。
「あの不気味な音が、こんな音から作られていたのか……」
そう思うと、もう一度確認しながら観てみたくなりますね。
■そして出演者もすごい!
さらに驚かされるのが、出演している俳優さんたちです。

新珠三千代、三國連太郎、仲代達矢、岸惠子、中村賀津雄、丹波哲郎、志村喬……。
今では考えられないほどの一流俳優が、この一本の映画に集結しています。
★ここでちょっと豆知識。
実は『怪談』は、小林正樹監督にとって初めてのカラー作品でした。
そして、この大作を製作したのが独立プロダクションの「にんじんくらぶ」。
「にんじんくらぶ」は1954年、
岸惠子、
久我美子、
有馬稲子
の3人の女優が中心となって設立されました。
そう考えると、『怪談』で雪女を演じた岸惠子さんが、その設立メンバーの一人だったというのも面白いですね。
代表を務めた若槻繁さんをはじめ、映画界で築かれてきた人とのつながりや、小林監督との信頼関係も、この大作を支えたのでしょう。
そして、この作品は何から何まで大規模でした。
大きなセットを組み、長期にわたって撮影。
スタッフ、キャストなど約800人にも及ぶ大編成となり、製作費が大幅に膨らんだ結果、「にんじんくらぶ」は多額の負債を抱えて倒産してしまったそうです。
これを知ってから映画を観ると、
「なるほど……これだけの作品を作ったのだから」
と思ってしまうほど。
これだけの俳優陣。
これだけの美術。
これだけのセット。
そして、これだけの映像。
CGがない時代に、一本の映画に注ぎ込まれた情熱の大きさを感じずにはいられませんでした。
そして、「にんじんくらぶ」は、この『怪談』だけでなく、私の好きな作品の一つである『人間の條件』も手がけています。
これほどの作品を生み出したプロダクションが、もしその後も存続していたら……。
いったい、どんな作品を世に送り出していたんだろう。
そう思うと、なんとも惜しい気持ちになります。
■「黒髪」「雪女」「耳なし芳一の話」
最初の「黒髪」。
続いて「雪女」。
そして「耳なし芳一の話」。
どれも、物語そのものは知っていました。
だからこそ、
「こんな映像になるのか!」
という驚きがありました。
そして、出演者の皆さんを見ていると、
あたりまえですが、皆さんお若い(笑)。
特に女優陣の皆さんは、本当にお綺麗です。
「雪女」の岸惠子さんも、その美しさが強く印象に残りました。
「雪女」は、白く静かな世界の中に、どこか現実離れした美しさがある。
そして3作品の中でも、特に目を見張ったのが「耳なし芳一の話」の美術です。
あの巨大なセットと独特の色彩で作り上げられた世界は、まるで舞台そのもの。
「耳なし芳一」を、こんな映像にしてしまうのか……
と思わず見入ってしまいました。
そして、あらためて思ったのが、
これは「怪談」というより、
「小林正樹監督が作り上げた異世界」
を観る映画なのではないか。
ということでした。
■私が一番気になってしまった「茶碗の中」
ところが。
4話の中で、私が一番気になってしまったのは、意外にも最後の
「茶碗の中」
でした。
この話だけ、知らなかったからです。
他の3話は、ある程度ストーリーを知っていました。
ところが「茶碗の中」は、
「この話、いったいどうなるんだ?」
と思いながら観ていたんです。
これが意外にも面白かったですよね。
■茶碗の中に現れた顔
少し話をお伝えすると、
主人公は関内という侍。
ある時、茶を飲もうと茶碗の中を見ると……
そこに見知らぬ男の顔が映っている。
しかも、ただの顔ではない。
目や口が動いている。
茶を捨てても、茶碗を替えても、また同じ顔が現れる。
そして関内は、とうとうその茶を飲み干してしまう。
すると今度は、その顔の主が現実に姿を現して……。
ここから物語は、どんどん不気味な方向へ進んでいきます。
「この先どうなるんだ?」
と、先が気になってしまいました。
■原作は、なんと「未完」
そして、この「茶碗の中」が気になって、あとから原作も調べてみました。
すると、さらに驚くことが。
小泉八雲の原作では、この物語……
未完なんです。
関内の前に、茶碗の中で見た男・平内(仲谷昇)が現れる。
さらに翌日には、平内の使いを名乗る三人の侍までやって来る。
「いったい、このあとどうなるんだ?」
というところで、物語が終わってしまう。
なんとも八雲らしいというか、読者にその先を想像させるような、不思議な終わり方なんですよね。
■映画では、さらにその先へ……
多くは語りませんが、ちょっとだけ(笑)。
ところが映画版は、ここからが面白いんです。

物語をなぞるだけではなく、この怪談を書いている「作者」そのものが登場します。
そして、物語の世界と作者がいる世界が、次第につながっていく。
原作の「未完」という仕掛けをうまく利用して、映画独自の展開を作っているんですよね。
ここは、かなり面白かった。
「そう来たか!」
と思わずニヤリとしてしまいました(多少は想像できましたが……笑)。
他の3話では
「知っている物語がどう映像化されているか」という視点で楽しんでいましたが、この「茶碗の中」は純粋に物語そのものを楽しむことができました。
先が分からないワクワク感。
未完だからこその面白さが、そこにはありました。
■知っている物語と、知らない物語
今回『怪談』を観て、面白いなと思ったのが、
「知っている物語」と「知らない物語」では、映画の楽しみ方が全然違うということでした。今更なんですけれどね(笑)
「黒髪」「雪女」「耳なし芳一の話」は、物語を知っているからこそ、映像や演出に目が行く。
一方、「茶碗の中」は何も知らない。
だから、物語そのものに引き込まれていく。
そして結果的に、私の中で一番強く残ったのが「茶碗の中」でした。
■それでも一番印象に残ったのは……
……と、ここまで「茶碗の中」の話を書いてきましたが、映画全体を振り返ると、やはり圧倒されるのはその映像です。
こんな映画、今の時代に作れるだろうか。
そんなことを考えてしまいました。

美術、色彩、セット、音楽、俳優。
すべてが一体となって、現実には存在しない「怪談の世界」を作り上げている。
そして、そのために製作会社が倒産してしまったという背景まで知ってしまうと、スクリーンに映っていたものが、また違って見えてきます。
■ほくと的まとめ
『怪談』は、単なる恐怖映画ではなく、現代の映画では味わえない
「圧巻の映像体験」
でした。

今ならきっと、CGを使って描いてしまうような世界。
それを巨大なセットと、手作業による美術や色彩で、現実の形にしてしまった。
その凄まじい熱量と美しさに、終始圧倒されっぱなしでした。
知っている物語では映像美に息をのみ、知らない物語「茶碗の中」ではストーリーに引き込まれる。
これほどのこだわりで作られた作品を、映画館の大きなスクリーンで鑑賞できたことは、本当に貴重で贅沢な体験でした。
評価:5点満点中 3.9
(画像すべてお借りしました)


















